雨の日には空力が見える——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第53弾
- 2020/05/27
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安藤 眞
今年もいよいよ雨の季節に突入する。雨の日は視界が悪いし、タイヤのグリップも悪くなるし、乗降時には車内が濡れてしまうし、窓は曇りやすいし、ドライバーにとっては、良いことはほとんどない。しかし、「雨の日だからこそ、可視化される現象」もある。「空力」である。雨が降れば、車体に雨粒が付着するし、タイヤが水しぶきを跳ね上げる。この動きを観察することで本来は目に見えない「空気の振る舞い」を観察することができるのだ。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
代表的なのが、ボンネット上の水滴の動きだ。運転席からボンネットが半分以上見渡せる(=ボンネットが平坦で長い)クルマの場合、ボンネットの中央に付着した水滴は、走り出して速度が上がっても、ほとんど動かず、その場でゆらゆら揺れるだけという現象に気付いた人も少なくないのではないか。クルマは前向きに走っており、空気は相対的に前から後ろに流れているのだから、水滴も後ろに飛ばされるはずでは?という気がするが、そうはならない。なぜか。
フロントグリルに衝突した空気は、上下左右に押し分けられる。空気といえども質量を持っているため、跳ね上げられた空気はすぐにはボンネットに沿っては流れず、慣性力によって上に弾き飛ばされる。さらに空気は「粘性」をもっているから、弾き飛ばされた空気はボンネット上の空気を上に引っ張る。これによってボンネットの真ん中あたりの空気は負圧となり、動きがほとんど無くなるのである。
だからインタークーラーの冷却風をここから取り込むのは得策ではないのだが、レイアウトの都合上、そこしか置き場所がないスバル車の場合、開口面積の拡大で通気量を補っている。特にGDB型インプレッサでは、パワーアップするたびにエアスクープが潜望鏡のように高くなっていったのを記憶しているかたも多いのではないかと思う。またスズキ・ジムニーも、JB23型はボンネットの中央にエアスクープを開けていたが、JB64型からはインタークーラーをフロントグリル右端に移し、正面から冷却風を取り込むよう改良している(主な狙いは歩行者保護とデザインだったそうだが)。
さて、フロントグリルによって跳ね上げられた空気は、ボンネット中央付近にできた負圧によって引っ張られ、急降下する。その空気はボンネットの4分の3あたりに激突し、カウルトップ周辺は強い正圧になる。だから外気導入用のダクトはここに口を開けており、高速走行時にはブロワファンを回さなくてもレジスターから風が出てくる。
もうひとつ、空気の流れが観察しやすいのが、サイドウィンドウ。特にAピラーの直後やドアミラーの横だ。ここは気流の乱れやすい場所なので、後ろに流れるはずの水滴が上に持ち上げられたり、前方向に移動したりするのを観察することができる。
周囲を走るクルマの飛沫を観察するのも面白い。特に高速道路を走る大型車などは、タイヤの側面の空気が大きく乱れていることがわかるし、条件が揃えば、ボディ後端で空気が剥離し、渦ができる様子を見ることができる。
あるいは、自車に着いた飛沫汚れの痕跡も、空気の流れを知る手がかりとなる。正圧になる部分は、後ろに流れるように痕跡が残る一方、負圧になる部分はスプレーペイントで塗ったような均一の飛沫汚れが付きやすい(ミニバンやワゴンのバックドアに顕著)。汚れのパターンを見ながら、自分のクルマの空力性能を推理するのも、なかなか楽しいものだ。
以上、鬱陶しい雨の季節のささやかな楽しみ方を紹介したが、ただでさえ周辺視界が悪い雨天時の走行。水滴や飛沫の観察に熱心になるあまり、脇見運転で事故を起こさないよう、くれぐれもご注意いただきたい。理想は運転席以外からの観察だ。
Motor Fan illustrated Vol.126「空気を読め!」
そういえばこんな実験もやったことがありました。(PHOTO:市 健治)
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