メガーヌがシビックに勝った理由——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第39弾
- 2019/12/20
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安藤 眞
因縁の対決にルノーが勝ち名乗りを上げた。FF車最速の称号を得たのはルノー・メガーヌR.S. Trophy R。ホンダ・シビック Type Rに勝てた理由はR.S.が備えるシャシーコンポーネントのおかげか——?
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
ルノーのメガーヌR.S.トロフィーRが、ニュルブルクリンク北コースと鈴鹿サーキットで量産FF車最速記録を更新したことは、ご存じのことと思う。ホンダのシビックTypeRより200cc小さく15kW(20ps)非力なエンジンでの記録更新となると、違いはシャシー性能ということになる。
ニュルの記録が更新されて間もなく、YouTubeにインカーの動画がアップされ、幸いシビックのそれも見つけることができたので、ふたつを見比べてみた(※1)。すると、同じポイントでもストレートエンドならTypeRのほうが速く、コーナーのクリッピングポイント付近ではトロフィーRのほうが通過速度が速いことに気付いた。これは元シャシーエンジニアの僕にとって、非常に興味深いことだった。
当時はまだプレスリリースが出ておらず、アタックした車両の詳細はわからなかったのだが、シャシーが速いことの理由を、いろいろと考えてみた。シビックになくてメガーヌR.S.にあるものといえば、4WSシステム(4Control)と、ハイドロリック・コンプレッションコントロール(HCC)。これがコーナリング速度を高めているのではないかという仮説を立てた。
4WSを使って同相操舵を行えば、リヤの横Gが速く立ち上がって車両が安定するし、特に左右に切り返すような場合は、ばね上のヨー方向の動きが小さくなるから、ヨーを止めるために使うタイヤのグリップ負担が減り、その分をトラクションに振り向けることができるのではないか? たとえばスキーで連続小回りターン(ウェーデルン)をする場合、腰から上はフォールラインに向けたまま、股関節から下だけでターンしたほうがうまくいくが、これは重たい上半身の向き換えをしないことで、ヨーモーメントを減らすのが目的。4WSにも同様の効果があり、結果として連続コーナーが速いのではないか?
HCCは、ダンパーの底に付けた副ダンパーをバンプストッパー代わりに使用する技術。ゴムやウレタンのバンプストッパーはばねと同じで、当たれば反発力を生むから、荷重が抜ければタイヤは弾き飛ばされ接地を失う。ところがHCCはダンパーだから、エネルギーは熱として放散され、反力は生じず、タイヤと路面のコンタクトは維持される。縁石を踏んでもトラクションが維持されるとなれば、立ち上がり加速には有利なはずだ。
実際、ドライバーのステアリング操作を見比べても、トロフィーRを操るウルゴン氏のほうが、修整舵が圧倒的に穏やかだ(※2)。これは4WSとHCCの効果で、旋回立ち上がりが安定しているからではないだろうか?
……などと想いを巡らせていたのだが、公表されたプレスリリースを見て愕然とした。軽量化を行うため、4WSもHCCも外してしまったというのだ。結局のところ、「軽さは正義」ということか!?
そのあたりの経緯については、東京オートサロンに合わせて発売される「Renault Megane R.S. Trophy & Trophy Rのすべて」で佐野弘宗さんがレポートしてくれる予定なので、そちらをお待ちいただきたいが、シミュレーションの段階で「130kgの軽量化が必須」と出たらしい(軽量化の詳細については、僕が同誌でレポートしているので、そちらもお楽しみに)。
FF車における4WSの有効性を訴求してきたルノーとしては、「ほかで軽くできるなら、外したくなかった」ということなのだが、車重が軽ければ加減速方向の運動には有利になるし、高速スタビリティは空力対策で補える。極限状態に近づくほど、シンプルな物理法則が支配的になってくる、ということなのだろうか。
しかもトロフィーRのリヤサスは、トーションビーム式。専用の強化仕様とはいえ、これでマルチリンクのTypeRを上回ったのだから、シャシー技術の奥深さを、改めて思い知らされた。
※1:Megane R.S. TrophyR
https://www.youtube.com/watch?v=2IQHjxX1wlw&t=21s
Civic TypeR
https://www.youtube.com/watch?v=_AgeEdG_JKo&t=315s
※2:後で聞いたら「よく“高速道路をドライブしているみたいだ”って言われるんですけど、本人はけっこう必死なんですよ。前半はタイヤを温存するために、丁寧なステアリングワークに徹したから、そう見えたのだと思いますけど」と語っていた。
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