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モーターファン1965年3月「モーターファン・ロードテスト」再録[ポルシェ911 1965年「901型」最初期ソレックス仕様] 福野礼一郎のクルマ論評4 モーターファンロードテスト現代の視点 ポルシェ911

  • 2019/10/01
  • Motor Fan illustrated編集部
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かつてのモーターファン誌の名物企画、「モーターファン・ロードテスト」を再録。1965年3月号に掲載した、ポルシェ911 1965年「901型」最初期ソレックス仕様のロードテストです。

と き:昭和39年12月18日
ところ:船研、機械試験所コース

目次開く

イージィ・ドライブが大きな狙い

おごっているキャブレータ

ℓ当たり65馬力の高性能エンジン

ものすごいダッシュ力

全輪ディスク・ブレーキ

各部の操作力はツーリングなみ

理想的なステアリング特性

スポーツカーのハンドル操作

ゆったりしている室内

クラッチペダルの位置について

ノン・スリップ・デフの効果

振動・騒音試験結果

寸法関係測定結果

動力性能試験結果

操縦性安定性関係テスト結果

重量、アライメント、ブレーキ試験結果

福野礼一郎のクルマ論評4を読み解くためのページ[ポルシェ911 1965年「901型」最初期ソレックス仕様)]

1965年2月1日発売の3月号のモーターファン・ロードテストを再録する。本文、キャプション、グラフについては、誤字脱字のみ修正した。ただ、写真については発行してから約50年前の年月が経過していて、オリジナルが散逸していたため、雑誌をスキャンして使用している。

イージィ・ドライブが大きな狙い

〈前輪懸架〉下部サスペンション・アームにトーションバーを縦置きとしている。ダンパーはマクファーソン式。矢印は進行方向。
〈後輪懸架〉カーブしたトレーリング・リンク、横置きトーションバー。スイング・アームを併用。

 本 誌 ポルシェ 911について、三和自動車のほうから説明ねがいます。
 円 岡 この車は、発表当時901でした。ところがトラックで901というのが登録されていることが分かったので、911に名称変更されました。
 設計の主眼は、ポルシェの車種としてはイージィ・ドライブを狙ったことです。車体寸法も、混んでいる街のなかでは幅の広い車は不便だというわけで細めになっています(全幅1600mm)。それに反して、全長は車内寸法をのばすために長めにとっています(全長4135mm)。ポルシェでは、このレイアウトを5年ほど前から考えていたようです。ボディがこのタイプに落着くまでには、セダン・タイプから、いままでの356Cと、いろいろ研究して、このタイプになったようです。
 エンジンは水平対向6気筒、シングル・オーバーヘッド・カムシャフトの1991ccで、ポルシェの伝統である強制空冷式です。出力は(356)カレラなみのものを要求していますが(Din 130hp/6200rpm)、カレラはご承知のように非常に高価でしょう。それで、性能はカレラなみだが、エンジンをシングルOHCにして廉価版を狙ったということがいえます。また、ミッションも5段にしたので、カレラに比べて取扱いが非常に容易となりました。わたしたちが乗ってみても、いままでのカレラに比べると、ギヤ・ミッションとトルコンぐらいの差があります。そういう点で、この車がイージィ・ドライブを狙ったものだといえましょう。
 車の内容はポルシェ356Cと同じく視界がよく、ステアリングはラック・アンド・ピニオン式を採用しています。だが、サスペンションは、356Cのフロントがトレーリング・アームを採用しているのに、これは横置きのコントロール・アームとガイド・ストラット(縦棒)を組み合わせた縦置きトーションバーの独立懸架です。マクファーソンの変形だと思います。スプリングはトーションバーとラバー・クッションです。リヤは横置きトーションバーによるスイング・アクスルです。
 隈 部 値段はどのくらいなのかな?
 円 岡 ベンツの230SLとどっこいのところを狙っているようです。日本ではもっと高くなりますが、西独では、ベンツのほうが先に発表になり、2000ccのポルシェが230SLよりも高いというのはまずいというわけで、右へならえしたようです。
 隈 部 要は普通の人がぜい沢をするつもりなら買える値段かということなんだが………。
 円 岡 西独での値段は、23,700ドイツマルク(213万3千円)。日本では435万円で売っています。
 兼 坂 だいたい普通の車の2台分という線ですね。
 隈 部 相当ぜい沢な車だね。
 平 尾 あまり安ければポルシェでなくなるし、売れなくなりますよ(笑)。

おごっているキャブレータ

 平 尾 フォルクスワーゲンのエンジンを2気筒増やし
た車だと思えばよろしいですか?
 円 岡 シリンダー配置的にはそういうこともいえますが、エンジン自体は新設計されたシングルOHCですから、構造的にはぜんぜん違います。メイン・ベアリングもエイト・ベアリングです。
 兼 坂 ほう、8ベアリングですか……。
 円 岡 タイミング・ギヤの前に、さらにメイン・ベアリングを設けているのです。ぜい沢といえばぜい沢ですが……。
 兼 坂 なすべきところは、すべてしているというところですね。面白いと思ったのは、高出力型のエンジンであるだけに、冷却フィンの面積が普通の倍になっているということでした。
 岩 崎 カレラはダブルOHCですが、エンジン重量はどっちが重いのでしょう。
 円 岡 カレラは徹底的にアルミ合金を使用しているので、重さからいうと、この方が重くなっています。このエンジンはちょっと面白いんです。シリンダー・ヘッドを6つの部分に分けて、カム・シャフトを1本のせて連動させているといったやりかたをしています。バラしてみると、単気筒を6つ寄せた感じです。
 兼 坂 この車のキャブはおごっていますね。
 円 岡 これは面白いんです。キャブ自体は単体ですが、フロート・チャンバーがひとつ、ベンチュリーが3つ、これが左右対称に1対に置かれ、フロート・チャンバーからはメカニカル・ポンプでガソリンを送っています。だから、各シリンダーに燃料が平均して送られ、油面の傾きによる影響は少なくなっています。ポルシェはウェーバーの必要性を認めていないのです。キャブを単体にして調整の手間
 兼 坂 これはソレックスですね。

ℓ当たり65馬力の高性能エンジン

絵にかいたような流線型で、ものすごい加速性能を発揮する。0→400mが17.1秒、最高速度は210km/h、400mまでも3速にしかいれられない。100km/hに達するのに10.4秒。

 岩 崎 このエンジンのシリンダーは、なにか特別な処理をしていますか? 肉厚が薄いようなので……。
 円 岡 別にしていませんが、鋳鉄自体が日本のとちがって、すごく軽いんです。フィンなんか鋳っ放しです。
 兼 坂 鋳っ放しなら、そこらのオートバイと、そう変わらないですね。ただ長さが前にもいったように長いですね。
 平 尾 フィンピッチはどれくらいですか?
 円 岡 10mm~12mmだと思います。
 平 尾 シリンダー・ヘッドとクランク・ケースもアルミですね。
 岩 崎 最高出力が130hpで6200rpm。レッドゾーンもその辺からはじまっているですが、オーバーランに対しては、どのくらい余裕がありますか?
 円 岡 たしかなことは分かりませんが、われわれでも8000rpmは楽に回します。
 隈 部 バルブの数はいくつですか?
 円 岡 インレットとエキゾーストがひとつづつです。
 岩 崎 そういう意味では、レース用のエンジン程ぜい沢じゃない。
 兼 坂 しかし、新しいアイデアをいろいろ採用しているので、ℓ当たり65馬力とい高性能を出しているのでしょう。
 円 岡 レッドゾーンを守って走っている限りは、充分耐久力があります。
 兼 坂 とにかく、全面的にいえることは、ツーリング・カーだということですね。
 円 岡 乗った感じは、とても楽です。そういう意味でイージィ・ドライブを狙った車です。
 兼 坂 ℓ当たり65馬力も出しながら、最大トルクをあまりたかいところに持っていかず、4600rpmあたりにしています。
 岩 崎 しかも、トルク・カーブはフラットときているから、ハイギヤでもトコトコ走れるんじゃないかな。それでいて変速比がクローズド・レシオになっているのはどういう使い方をするのでしょう。
 円 岡 ツーリング一本槍だったら5速に入れていても、2000rpmからマキシマムまで極スムーズにあがります。でも、ポルシェのような車に乗る人が、そうした走りかたをしたのでは面白くないから、変速比もクローズド・レシオにしてあるのだと思います。わたしたちなんかも、やはり変速をひんぱんにして、スポーツ的な走り方をしてしまいますものね。
 平 尾 ハイギヤでトコトコ走ったのでは、バルブがとけてしまうのではないのかな?
 円 岡 ところが、このエンジンは温度の上がり方が少いので、むしろ過冷却に近い。だから、5段の変速比をクローズドにしたということはいえないと思います。
 兼 坂 これは、あくまで急加速を前提として作った車だからと考えるのが本当でしょう。
 隈 部 どのくらい売れているの?
 円 岡 日本にあるこの1台の911を含めて、世界中でまだ4台しか出ていないそうです。

ものすごいダッシュ力

 本 誌 動力性能のテスト結果はどうでしょう。
 小 口 3人乗りのテスト・データですが、0発進加速は0→200mが11.1秒、0→400mが17.1秒、いずれも3速でのデータです。追い越し加速も 100km/hに達するのが10.4秒、130km/hに17.2秒(このときギヤは3 速)、とにかくものすごい加速性能です。
 平 尾 最高速度はどのくらい?
 円 岡 一応210km/hになっています。
 兼 坂 ATZ誌によると、走行安定性以前の問題として、駆動力の点から高速になればなるほどリヤに荷重をかけないとならないため重量配分は後輪にウエイトがかけられてあるとありましたが、どのくらいですか?
 石 川 空車状態でリヤが59.6%ですから、40:60というところでしょう。
 兼 坂 車の裏側を念入りに見ましたが、大変つるつるしていますね。こんなところでも、空気抵抗を稼いでいるのかと感心しました。ボディの格好も絵に画いたような流線型ですね。ただ、車重は1050kgぐらいで、356Cよりも重いようですね。
 石 川 うちで測ったのでは、スペア・タイヤ、工具つきで1063kgですから、公称はそんなものでしょう。だいたい 356SCよりも120kg重くなっています。
 平 尾 ボディは同じようなものなんだろうが、ミッションが5段だから、それだけでも重くなったんだろうな。最大トルクは?
 円 岡 16.5kgmです。
 平 尾 ローでダッシュすると、キーッと滑りますか。
 円 岡 最終減速比が4.428で少し大きくしていますが、滑るようなことはありません。だいたいポルシェという車は滑りませんが……。
 兼 坂 このミッションの変速比を見るとローとセカンドの比が1.63、セカンドとサードが1.43、サードとトップ(4速)が1.32、トップと5速が1.32、トップあたりをきめ細かくやれという感じですね。
 円 岡 このミッションは、クローズドにしているから、シフト・ダウンしてもなかなか減速しないんです。
 兼 坂 こういうミッションは、エンジン・ブレーキを利用する場合やはり1度に2段落とさないとならないんじゃないかな。ポルシェのシンクロナイザーは非常に効くから、こうした使用にも充分耐えられると思います。ほかのシンクロだと、1度に2段も落とすと。ダブル・クラッチを踏まないとなかなか入らないが、これはスーッと2段落として入ります。

全輪ディスク・ブレーキ

エンジンは新設計のシングルOHC、メインベアリングも8個。肉厚の薄い鋳鉄シリンダーで重量をかせいでいる。最高出力は130hp/6200rpm。8000rpmまでは楽にまわせる。

 本 誌 船研のデータはどうですか?
 石 川 車重から発表します。スペア・タイヤ、工具つき、燃料は4分の3ぐらい入っている状態で1063kg。配分はフロント429kg、リヤ 634kgで40.4%:59.6%です。後ろが重いということですが、ルノー系に比べるとパーセント的には軽くなっています。これは1人乗り、2人乗り、4人乗りの場合を測りましたが、重量配分はほとんど変わりません。4人乗りでフロント517kg、リア809kgで、トータルは1326kg。配分はフロント38.9%:リア61.1%です。
 車輪アライメントをサイドスリップの点から見ますと、前輪はトーイン、キャンバーが、わずかですが正になっています。したがって前進したときはサイドスリップがゼロですが、後進したときに、ややアウト側にサイドスリップが出ます。後輪はトーインがわずかについていて、逆キャンバーになっています。ですから前輪とは逆に前進方向でサイドスリップがトーイン側に出てバックすると、ほとんどゼロになります。これは1人乗った場合も、4人乗った場合も変わらないような感じです。ブレーキ関係は、4輪ともディスク・ブレーキで、サーボはついていませんが、0.6gの減速度を得る踏力が30kg。普通のドラムに比べてやや重い感じですが、よく効きます。ディスク・ブレーキの特長として、左右のバランスも非常によくとれていて安定しています。ブレーキの配分は、重量配分が4:6なのに7:3となって、フロントを非常によく効かせてあります。ペダルの動きからみると、きき始めがばね定数で0.72kg/mmで、一般ドラム・ブレーキが1.2~1.5kg/mmなのに比べ、かなり低くなっています。ちょっと柔いように思いますが、その割にはヒステリシスは少ないようです。
 以上は台上テストの結果ですが、実際に走らせたときは、0.6gの減速度を得る踏力は22kgで、軽くなってきました。どうしてこのような喰い違いが起ったのかよくわかりませんが、とにかくこうしたブレーキングを、車速50、80、100km/hの3種類について行ってみましたが、車速に影響されることなく、踏力にはほとんど変わりありません。いわゆるフェードの傾向はみられませんでした。
 それから、100km/hのスピードから0.5gの減速度を得るようなブレーキの繰り返し試験を10回やりましたが、踏力変化はほとんど認められず、尻振りもぜんぜん見られませんでした。非常に頼りになるブレーキということができるでしょう。
 駐車ブレーキは0.2gの減速度を得る操作力が12kgでよく効きます。構造はドラム・ブレーキになっていて、例えればカンカン帽みたいなかたちで、ツバにあたるところが、ディスク・ブレーキ、内側の頭にかぶせる部分がドラムの駐車ブレーキという変わったものです。
 円 岡 それも非常に小さいものです。
 石 川 ドラム径は普通の車は9インチぐらいですがこれは7インチぐらいだと思います。
 平 尾 そんな小さなドラムでよく効くというのは、あまり使わないから摩耗のことを考えずに摩擦係数の大きなライニングを使えるということじゃないかな。
 円 岡 そうだと思いますが、後輪だけをいうと、駐車ブレーキはサービス・ブレーキなみに効きます。

各部の操作力はツーリングなみ

 石 川 各部の操作力は、変速レバーが普通のツーリングカーと同じ値の2~3kgです。ただ、バックにはちょっと入りにくく、入れるのに6kgでした。クラッチの操作力も10~13kgで、普通の車と同じ、ヒステリシスも非常に小さい。アクセルはコンスタントに走らせるときが1~2kgと小さいが、急加速をしていっぱいに踏むときは8~9kgと重くなります。ブレーキについていうと100km/h以下のスピードでは、もの足りない感じです。
 兼 坂 要するにディスクはフェードしない、いいブレーキだということですね。
 石 川 ライニングの材質が非常にものをいっているようです。これはロッキード系のディスク・ブレーキですね。
 本 誌 亘理研のデータを願います。
 立 石 今回は騒音テストだけを行いました。車内騒音は50km/hで77、80km/hで83、100km/hで82、120km/hで85、130km/hで87、140km/hで89(いずれもAスケール、単位はホーン)。車外騒音は3速ギヤで50km/hが85、80km/hで87、120km/hで88、4速では88、88、89です。防音はあまり考慮していないようで、車内も車外もあまり変わっていません。車内騒音では 120km/hくらいから高周波音が多くなってくるようです。
 亘 理 こうした車は、あまり音は問題にされませんから、どうのこうのいうべきではないんでしょう。ただ街の中で走っているぶんには、静かなところを使うことになりますね。

理想的なステアリング特性

 近 藤 先程空気抵抗の話がでましたが、私も床下を見てみたんです。フラットで空気抵抗の低減に寄与していると思いました。気になったのは、エアロダイナミックスリフトの点です。こういう形は真直ぐ走る時には、空気抵抗係数が0.4と非常によいのですが、横風を受けると揚力が倍ぐらいにふえて、走行安定がそこなわれるのではないかということです。そのために、ヘッドライトからつらなるフェンダーをあのように盛り上げて、視野は少し悪くなるが、これによって横風を受けた場合の揚力を減じているのではないかと推理しました。
 ブレーキのほうは、船研のテストと同じで、踏力と実制動距離からみると初速度77km/hで踏力15kgのブレーキングでは実制動距離80m。踏力20kgのとき70m。25kgのとき55mでした。フェード試験は、25kg踏力で13回目には、実制動距離がかえって短かくでております。ディスク・ブレーキの特色を今回はハッキリ経験した思いです。ドラムブレーキですと、減速度曲線の初めと終りにピークがでるのが普通ですが、ディスクではそういう傾向がでず、フラットかあるいは徐々に上がっていくのが普通で、所要踏力もふえないし、高速で繰り返し使用しても、実制動距離にはほとんど変化がなく、場合によるとかえって、多少小さくなることもあるようです。
 オーバーステア、アンダーステア試験は、横向加速度0.7gまですることができました。最後まで弱いアンダーステアを持続いたしました。これは注目すべき点だと思います。アンダーステアの度合をR/R。:V²(R。は極低速における回転半径、Rは車速Vのときの回転半径、Vは車速)で測っていますが、最近のデータで、V² が100m²/sec²~110m²/sec² という値までは経験していますが、このポルシェの場合は、124m²/sec² まで測定することができ、しかも最後まで回転半径Rはまだまだ上昇していってます。これはラジアル・タイヤとデフロックが効果を上げていると思いますが、サスペンション関係もそれに寄与していると思います。横向加速度0.5gのとき4kgで、これは普通の値です。横向加速度0.7gくらいになると、保舵力はちょっと下がり気味になりますが、なかなか堅実な性質です。ロール率は、求心加速度0.5gにおいて、3.2度。これもスポーツカーでは普通かもしれませんが、望ましいところだろうと思います。
 据切操舵力はかなり重いですが、ハンドル角 360度まで測定でき、その値は14kgを超えずあまり問題にならないと思います。8字形における操舵力は、求心加速度0.25gにおいて4kgですから、小回りも軽い。スラロームは最大横向加速度0.25gで3kgと、これも常識的数値だと思います。最小回転半径は5mとなっていますが、車の前外側の回転半径では5.28m、車の一番内側では2.91mとでております。
 手放安定性も130km/hまで実験しましたが、収れんしています。ただ真直ぐ走るとき、普通の乗用車よりハンドルが敏感なので、ハンドルを押し気味に持っていなければ、ふらつくような感じです。ラック・ピニオンであることと、ラジアル・タイヤはコーナリング・フォースは大きいが、腰が弱いということで、これは想像ですが、そういうことが、こまかい落着きがないことに影響しているのではないかと思いました。この点については、またいろいろご意見もあることと思います。

スポーツカーのハンドル操作

オーバーステア・アンダーステア試験は、最後まで弱いアンダーステアで、リヤエンジンのポルシェとしては注目すべき値である。写真は近藤研によるスラロームテスト。最大横向加速度0.25gで3kgあった。これは常識的な値。

 円 岡 直進性の問題ですが、ラック・ピニオンだからというのではなくて、ハンドルに力をいれるからだろうと思います。ふらつきは手のバランスが崩れているので、ハンドルの中心線に支点をおき、らくに持っていればいいんです。ロック・ツー・ロックが2回転半しかないんですから、大きくハンドルを切ることもないし、要はハンドルの持ち方だと思うんです。一生懸命つかまっていては駄目です。(笑)
 近 藤 悪路を走る時、ハンドルにショックはきませんか?
 円 岡 ハンドル・ダンパーが効いていますから、もちろん全然こないということはないですが、ほとんど手にきませんね。フレキシブル・ジョイントが2コ入っているんです。
 岩 崎 リヤの逆キャンパーはどのくらいですか。
 円 岡 2.5度で、トーインは1度です。
 岩 崎 タイヤ・プレッシャーは前22、後26ポンドであまり差がないんですね。
 平 尾 ステアリング・レシオは1:17ですが、ちょっと大きいようですが……。
 兼 坂 ラック・ピニオンは切れすぎて、こまるぐらいなんですね。バックラッシュもなく、切り初めと終りとで変わりがないですからね。
 平 尾 これは菊池英一君が主張している人間と車とのインピーダンスの整合がうまくいかない、という問題だと思う。だから持ち方をかえて人間のインピーダンスを車のそれに合わせる必要があるということだと思う。

ゆったりしている室内

 樋 口 それでは寸法の方を発表します。まず外から見た寸法は大体普通のスポーツカーと同じようで、高さが低くなっている程度ですが、内部はツーリングカーと同じくらいの大きな寸法を持っています。例えば、外側はMGやトライアンフの寸法ですが、内側はバラクーダとか、ムスタングぐらいの広さがあるようです。全長も4mと、2000ccクラスと同じですし、ホイールベースも短く、幅も1600SCより狭いんですが、内部はシートの前端を上げ、バックレストを傾け、つまり、座った人が少し上をむく姿勢になるようにして、レッグルームやヘッドルームを充分とれるようにしています。カーブドグラスも使っているので、室内の幅も広くなり、ショルダールームも充分です。リヤシートは、2人乗るにはちょっと窮屈で、頭がつかえますが、2+2のスポーツカーとしては余裕があります。それからステアリング・ホイールは430mmでセダンより小さい。しかし、スポーツカーとしてはやや大きい。
 ホイールとシートの間は、115mmで、セダンの150mm~160mmと比べると狭く、乗り降りがちょっと苦しいですが、シートにおさまってしまうと、シート断面をバケットにしてあるので、楽で、しかも操縦しやすい位置をとれるようになっていると思いました。
 シートスライドも470mmと大きく、シートを一番前に出してバックレストを倒すと、ベッドになります。
 ただおかしいのは、スライドレールがほとんど水平なので、さげた場合、姿勢がちょっと苦しいのではないかと思われます。ペダル配置は、クラッチとブレーキとの中心間隔が150mmで、これは普通ですが、ブレーキとアクセルの間隔は、70mmとつめてあります。これはいわゆるヒールアンドトウのためかとも思われます。
 リーチ関係は、ドライバーシートに座って、コントロールレバー、スイッチ、ノブ類の使い易さ、距離を測ってみました。ほとんどが遠くても600mm、近くて400mmに収まり、各スイッチ、メーター類もステアリング・コラムを中心に、左右にバランスして良い配置だと思いました。ドライバーを中心に設計されたものだという印象です。例えば、シガーライターや灰皿も、ドライバーに近いところにあり、非常に使い易い。足元のヒーターのコントロールレバーとか、ベンチレーターのコントロールあるいはシートスライドのノブが700~800mmと遠いですが、この辺は運転中にいじることもないので問題ないと思います。ちょっと変わっているのは、スイッチ。コントロール類に何の記号も絵もついていないんです。なれないと戸惑いますね。
 また、シートの深さが、シート前端からペダルまでの距離より長いんです。普通の車とは逆ですね。これも大きい車並みにしている現れじゃないでしょうか。

クラッチペダルの位置について

 平 尾 自分の体に対して、シートの奥行が深すぎるのも場合によると考えものだと思う。ふくらはぎがシートにくっついて、足が動かせなくなってしまう。その点アメリカでは、女の人やなんかが乗るんでシートも小さな人にも適するようになっている。ヨーロッパの車はいわばLサイズなんだな。小柄な人は座ぶとんをはさまなきゃならないな(笑)。
 樋 口 MG、トライアンフなんかが大きく500mm前後で、ベンツやバラクーダは450mmで、かえって小さいんです。
 石 川 先程のペダル配置の話で、一般の車はブレーキペダルとクラッチペダルの高さが揃っていますが、この車はクラッチの方が30mmくらいでていますね。また、アクセルとブレーキの高さの差も45mmありますが……。
 岩 崎 これはどっちがいいですかね。揃えようとするのは意図があってするんですが、揃ってないのは、揃えまいとしているんじゃないと思うんですよ。クラッチの摩耗のほうからレシオをとっているために、こうなっちゃってるんだと思います。
 円 岡 そうでもないようですよ。58年まではブレーキとクラッチの踏面は揃っていたんです。ところが、それ以降、突如としていまのようになりました。バラしてみても、クラッチの構造は別に変わっていないんです。これといった理由は聞いておりません。ただ、ブレーキもクラッチも、ストロークをアジャストできるようにはなっています。
 平 尾 クラッチ・ペダルのイニシャル位置を変えられるのはいいですね。最近アジャストできない車もありますからね。

ノン・スリップ・デフの効果

 亘 理 さっきのブレーキの味の話ですが、ディスクとドラムというだけでは、一概に決定的なことはいえないと思うんだが。
 兼 坂 たしかに先生のおっしゃるとおりです。減速度カーブをフラットにするだけなら、ドラム式でもフルトレーリングのような方式にすればできると思うんです。この場合はライニングの材質が問題ですけどね……。ただ、ドラム式にセミメタリックを使いますと、キューと鳴くんです。だから、いまドラム式に使っているライニングよりも、もう少し耐摩耗性のあるものを使いたいと思っても、使えないというのが実情でないでしょうか……。
 亘 理 どうも日本のライニングは外国のと比べると作り方の工程が悪いんですね。
 兼 坂 そのようです。いわゆるいわくいい難い点にああるようですね。
 平 尾 しかし、なぜそういう点がドラムとディスクとで変わってくるかというと、それは小さなエリアで押えて、ライニングの単位面積当りの吸収エネルギーを非常に大きくしたディスク・ブレーキと、大きなエリアで押えて単位面積当りの吸収エネルギーを極力小さくしたドラム・ブレーキという基本的な考え方の差からきていると思う。だからディスクは、始めからフェードしたところで使うように計画してあるといえる。だから減速度カーブは自然フラットになるということもいえると思う。ドラムはフェードしないところから使い始めて、フェードしたところに及び、また終りにフェードしないところに戻るわけだから、初めと終わりに減速度のピークがでてくるんだ。ディスク・ブレーキでも、パッドを沢山つけて単位面積当りの吸収エネルギーを小さくすればまた話しは違ってくるだろうと思う。
 亘 理 だから結局は、メカニズムの問題だね。
 兼 坂 それからこの車には、ノンスリップ・デフがついているんですね。ステアリング特性で最後までアンダーを持続するというのは、この影響があるんじゃないですか。完全なインディペンデントですから、トルク・リアクションが全然かからない。それでトルクをかければ後輪はどんどん直進しようとするので、アンダーステアになるんだと思います。
 平 尾 車体剛性が無限大ならその通りですね。
 円 岡 このデフは、標準装備です。356Cにはオプションで8万円位でつきます。
 山 本 最後にこの車を構造の強度剛性という点から見ると、曲げと捩れに強いということがいえる。この原因は車の形が卵形の流線形で、2扉式であること、横転の場合を考えて、前窓上部部材を強くしてあることなどによると考えられます。
 ポルシェでは、これまでの製品に対しては特に車両の捩り試験を行って、捩り剛性の向上に努力しているので、この車も相当の捩り剛性を持っている。走行中の車の振動を体験すると、その点がよく分かる。
 変速レバーの具合は、さすがにポルシェによるマスターピースという感じである。一般の車の変速レバーが段々進歩してきた今日においても、なお一段きわだって感じる点であります。
 本 誌 それではこの辺で……。いろいろありがとうごいました。

ポルシェ911の主要諸元
寸法:全長4135×全幅1600×全高1273mm、軸距2204mm、トレッド前1332、後1312mm、最低地上高 118mm。 
性能:最高速度 210km/h、馬力当たり重量7.7kg/hp(DIN、燃費11 ~ 14ℓ /100km、加速性能 0-100km/h9.1秒 0-160km/h21.9秒、0→400m 16.4秒、最小回転半径 5m。 
エンジン:後置き水平対向6気筒OHC、強制空冷、ボア80×ストローク66mm、総排気量1991cc、圧縮比9、最高出力130hp(DIN)/6200rpm 最大トルク16.5kgm / 4600rpm。
クラッチ:乾燥単板、ダイヤフラム式。
変速機:前進5段、後進1段、変速比 1速3.09、2速1.89、3速1.32、4速1.00、5速0.758、最終減速比4.428。
懸架装置:前トランスバース・コントロール・アームとガイド・ストラットによる独立懸架、 トーションバーとラバー・クッション・スプリング、後スイング・アクスルによる独立懸架、トーションバーとラバー・クッション・スプリング。
ブレーキ:全輪ディスク 
タイヤ:165-15 
ステアリング:ラック・ピニオン式、比1:17。

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