モーターファン1971年3月「モーターファン・ロードテスト」再録[トヨタ・セリカ(A20型)/カリーナ(A10型)] 福野礼一郎のクルマ論評4 モーターファンロードテスト現代の視点 トヨタ・セリカ(A20型)/カリーナ(A10型)
- 2019/10/01
- Motor Fan illustrated編集部
かつてのモーターファン誌の名物企画、「モーターファン・ロードテスト」を再録。1971年3月号に掲載した、トヨタ・セリカGTのロードテストです。
と き:昭和45年12月21、22、25日
ところ:通産省機械試験所東村山テストコース/運輸省交通安全公害研究所
座談会:昭和45年12月26日 番町共済会館
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ねらいは”人間優先”
好みのクルマが選べる?
あえてOHVを選ぶ
”すなおなクルマ”
トヨタ車では異色の運動性
ゆったりした前席——セリカ
動力性能試験結果
燃料性能試験結果
重量、アライメント、ブレーキ試験結果
操作性安定性試験結果
寸法測定結果
視野測定結果
福野礼一郎のクルマ論評4を読み解くためのページ[トヨタ・セリカ(A20型)/カリーナ(A10型)
ねらいは”人間優先”
本 誌 まずカリーナ/セリカの開発のねらいと概要について、お話し願います。
西 田 カリーナは小型車と大衆車の中間のできるだけ広い領域をねらったクルマです。木にたとえれば、センチュリー、クラウン、コロナ、カローラ、パブリカ─といろいろ枝わかれしていますが、そのなかにもう1本別のものがあってもいいのではないか、ということで開発したわけです。カリーナはあくまでスポーティ・ファミリー・セダンで、セリカはエンジンとコンポーネントは一部共通ですが、カリーナとはまったく別のクルマ、いわゆる“スペシャリティカー”です。
開発にあたっては、5つの目標を掲げました。
1)高性能でしかも使いやすく、ドライバーの意思に確実に反応する。
2)じょうぶで長持ちし、経済性もある。
3)安全についての十分な配慮。つまり、カタチに現れるものだけでなく、細かいところまで気を配って、実質的な安全に努力しました。たとえば、配線、配管なども厳重にやっています。
4)連続高速走行の対策を十分やりました。そのために乗員が疲れないことを目標に5段ミッションを新たに開発し、しかもそれをできるだけ多くの車種に採用しています。また、それと同時に都市での低速運転にも対処できるよう、エンジンの低速トルクということに重点をおいています。
5)多用化時代にそくして、あらゆる需要にこたえられるように、2ドア、4ドア、あるいは数種のエンジン、トランスミッション、さらに豊富なオプションを用意しました。メーカーがあらかじめ”おしきせ”のクルマをつくるのではなく、ユーザーの好みのクルマを組み立てるという方向です。ショッピングの楽しみ、といったことも考えてつまり”人間優先”の考え方を徹底的にする、というねらいでやりました。
ミッションについては、軽量でコンパクト、そしてコストが安い、ということで開発しました。シンクロを強力にして、ダイレクト・シフトで軽くしています。内部はニードルローラー・ベアリングを使っています。サスペンションは、フロントがマクファーソン、リヤは4リンクにラテラルロッドを使って、ばね下重量を軽くしたり、摩擦をへらしています。とくに足まわりの剛性をあげ、操縦性・安定性に寄与し、あるいは、コイル・スプリングを使ってトランク・スペースを広くしたり、重心を下げたり、総合的な効果をねらいました。なかでも、とくに重点をおいたのは高速時の操縦性・安定性です。
ブレーキはフロントがディスク、リヤがリーディング・トレーリングで、大型のブースターとPバルブを採用しています。
ボディ関係はだいたいコロナと同じような考え方です。
セリカはまったく新しい別のカタチで開発しました。とくに車体寸法を十分に、ということに重点をおき、低い全高にもかかわらず、比較的十分なスペースがとれた、と考えています。
松 村 エンジンに対する要求は、最近ひじょうに厳しくなっています。高速走行が要求されると同時に、のろのろ運転もあり、また排気ガス対策もやらなくてはならない。そこで目標はさきほどの開発目標に従って、まず使いやすいこと。つまり、高速走行だけでなく、実用的で使いやすくまたすべてのトラブルに対して信頼性の高いものにしたい、ということでやりました。そのため特別に信頼性を高めるためのテストをおこないました。環境条件としては低温、高温、あるいは現地での実車テストも含めて信頼性の確認をしました。
また、静粛でなければいけない、ということで、全回転域でピーク音のないように、とくに高回転時のパワープラントの曲げ振動、あるいは吸気系の騒音、バルブ系などの反射音などひとつひとつマスメを埋めていったわけです。
排気ガス対策としては、今後のことを考慮して、COだけでなくハイドロカーボン、あるいはNOxに対する配慮もしなければならない、ということでその思想を現在のエンジンの母体のなかに盛り込むことを目標としました。そのためキャブレターについては、空燃比のみでなく燃料の噴出状態の適正化、また燃焼室を含めた吸排気系の形状などに意をもちいました。燃費とオイル消費については、このクラスでははずかしくないものだと思っています。
本 誌 カリーナは、カローラ、コロナ、コロナ・マークIIとラップするんじゃないですか。
西 田 やはり車格が少しちがうとおもいます。ただし、小型車と大衆車との中間領域のなかで、いくぶん小型車寄りといえるかもしれません。それと、ものの考え方とか、フィーリングからいって、ちょっと毛色の変わったのがあってもいいんじゃないでしょうか。
本 誌 カローラとコロナの中間といったところですか。
西 田 だいたいそうです。
樋 口 値段をみるとコロナとほとんど同じように思えますね。買う立場からいうと。
本 誌 フルラインの考えからいうと、どうなるんでしょうかね。
西 田 極端に言えば、ポンテアックがあって、ビュイックがあるということです。
本 誌 販売系列のこともあるわけですね。
西 田 そうです。
本 誌 セリカのほうは別格なんですが、“スペシャルティカー”というのは、どういう意味ですか。
西 田 本来の意味は、価格の枠をはずして、特別に調製したもの、という意味だと思います。それとノベルティというか、先進性というものもスペシャルティカーの条件のひとつだと思います。
好みのクルマが選べる?
本 誌 フルチョイスはスペシャルティカーの条件には……。
西 田 そのひとつだと思います。
本 誌 これは1000万種類になるとか。
西 田 ええ、まあ数自体はあまり大きな意味はないでしょが、たとえば色のちがうのもいれれば、1000万種類ぐらいになると思います。
本 誌 どういうシステムになっているんですか。
西 田 これまでは、たとえばSLはSLらしい外観であり、内容であって、そのなかでの選択ができなかった。今度はボディ、エンジン、内装などのコンポーネントに分解してしまって、自由な選択ができるコンビネーションを
作った点が大きなちがいです。
本 誌 実際にユーザーがチョイスしたばあい、工場ではどういうふうにやるんですか。コンピューターを使うわけでしょうが……。
西 田 ふつうは完成したクルマを作っておくんですが、これのばあいは、選択の寸前までの素材を用意しておき、あとはコンピューターが指示するとおりに、必要ができたらすぐに組み合わせます。たとえば、ボディはゲートライン・システムという新しい方法を使ってやってます。
樋 口 そういう意味では、ユーザー的な感覚でいくとひじょうにいいですね。しかし、作るほうの立場からいうと、ばあいによってはそうとう共通化しないと、たとえばシート、ステアリング、内装などを共通化しないとメリットがありませんね。GMのクルマなどを見ても、ちがうのはラジエーター・グリルとフェンダー、それにテールライトぐらいですが、イメージがかなりちがって見えますね。このクルマもそういうことをある程度やっているように見受けました。内装はそれがはっきりしていましたが、ボディ関係はどうでしょう。
西 田 ボディもぜんぜんちがうように見えますが、じつは相当数の部品を共通にしています。
樋 口 ドアなんかもコロナと同じ寸法でしたが、アクセントを変えると、まったくちがう印象になりますね。ごまかすのではなく、安くていいものを作るという意味でやるべきです。
たくさん種類があるとサービス性をよく考えないとかえってマイナスになりますからね。
西 田 そういうことを十分に考えて、総合的に新製品企画をたてるわけです。
本 誌 実際には1000万種類ものオーダーはなくて、だいたい数種類にしぼられてくるんじゃないかと思うんです。そのへんの見通しも、コンピューターでできるわけですね。(笑)
西 田 1ヵ月もたてば前の月の傾向からユーザーの嗜好もわかりますから、そういうことも可能ですね。これはいつでも1000 万種類のものを作る体制が整っている、ということです。
小 口 1000万シリーズは、工場の方では、うまく作れると思いますが、むしろセールスのほうが難しくなるんじゃないでしょうか。1000万種類ということになれば、到底人間の頭では整理できなくなりますからね。また、買う立場としては、どこがどうちがうのか、種類がありすぎて情報の混乱といいますか、どれを選んだらいいのかわからなくなってしまう、というようなことはありませんか。
樋 口 組み合わせのサンプルと、こまかい値段表が欲しいですね。
西 田 それは本になったのがあります。
樋 口 スタンダードのボディにツイン・キャブ、3段変速、ディスク・ブレーキということもできるんですね。
岡 崎 そういうふうに、いろんな機能部品の組み合わせはできないんですね。“カーピューター”でやってみると、ボクの欲しいような、安いボディ、DOHCのエンジン、リヤのデフォッガー、ハイグレード・タイヤといった組み合わせは、ダメなんです。結局、高いクルマになってしまうんですよ。(笑)
いらない時計などがついてきて、たとえばラジオはいらないが、ヒーターは欲しい、ということでやると、デラックスを買わざるをえなくなる。
亘 理 うまいことをいっても、しょせん動物園のオリのなかのクマと同じで、いくらやってもオリのなかしか歩けないんだ。(笑)
本 誌 “カーピューター”というのは、各ディーラーにあるんですか。
西 田 名古屋地区の5つのディーラーにテストケースでやっているんです。
岡 崎 あれは楽しいですよ。やっぱり“おすすめ品”を買いたくなりますね。おすすめ品というのは、だいたい4日ぐらいで手に入るわけですが、”好み”でやると1ヵ月ぐらいはかかるということで……。(笑)
西 田 はじめは、そういうこともあると思いますが、軌道に乗れば”好み”のクルマも10日前後で納車できます。
小 口 各部品のチョイスができるんですか。
西 田 パワープラントというものをひと組みにしています。ですから、エンジンとミッションが決まれば、伝導系、アクスルがそれにふさわしいものになるわけです。
宮 川 DOHCはGT仕様だけです。
小 口 各パーツのチョイスではなく、性能的なチョイスはできるんですか。たとえば、乗り心地と燃費を重視したい。動力性能はいいというふうに……。
西 田 今のところはありません。
小 口 これからはそういうことができるようになるといいですね。あい矛盾するようきゅうもあるでしょうが……。
宮 川 とりあえずパーツの選択ができる体制ができたということです。余裕があればやるつもりです。しかし、動力関係は細かくわけると、運輸省の届出をいちいちやらないとできないんです。
樋 口 運輸省に1000万種類といったら大変ですよ。(笑)
亘 理 ユーザーが持ち込み設定を受ければいいんだけどね……。
あえてOHVを選ぶ
本 誌 エンジンについて、センチュリーとの共通性はないんですか。
松 村 エンジンは、カリーナ/セリカ・シリーズで1400ccが1種類、1600ccが3種類あるわけです。それを共用できるというわけで、既存のヘッド、あるいはピストン、コンロッドをもってきたというのではなく、新しいシリーズに対応するために、エンジンもワン・グループとして互いに生産性を考えながらバラエティをもたしてるわけです。
本 誌 いま世界的にもOHCエンジンが多くなっていますが、あえてOHVエンジンにしたわけは……。
松 村 OHCはひとつの流行になっていますが、私どもは逆にいって、OHCのかたちを取らなくても、機能的にOHCと同じものを出していると思っています。つまり、シングルOHCですと、燃焼室に多少無理が生ずる。これをとくに意識して、OHVでも現在の要求に対しては、十分対応できるような回転数が得られる、ということです。ですから、このエンジンは、1600ccで許容回転数が6500rpmです。それ以上のものに対してはDOHCをもってきたわけです。
樋 口 昔は、OHCのほうがコストが高かったと思いますが、現在はどっちが高いか一概に言えないと思いますね。このエンジンのようにダブル・ロッカーアームにしますと、部品点数が多くなってますから、むしろシングルOHCのほうが安くできるんじゃないでしょうか。
西 田 DOHCと同じ機能のエンジンでしかも信頼性があって、サービス性もいいということです。
本 誌 静粛性はどうですか。
松 村 高速はOHVのほうがうるさいですね。ですから、それを騒音テストでひとつひとつ消していったということです。
本 誌 OHCのほうが低速はらくじゃないでしょうか。
松 村 それは一概に言えませんね。クルマに搭載された状態で、いいかどうかということになると、やはりまとめ方、設計の問題だと思いますね。
本 誌 セリカのデザインは、チームがふたつあって競作したいということですが……。
西 田 あのクルマに限らず、いろいろな案を出して、そのなかから選びます。
宮 川 ふつうは、だいたいこれぐらいの大きさ、あるいはエンジンはこれぐらいにして、デザインはこういうねらいで、ということでやります。このセリカのばあいは、アドバンス・グループというのがありまして、デザインが先行した点がふつうとちがっていました。しかし、競争したというわけでもないんです。
小 口 セリカは、最初写真で見たときは“ケロヨン”みたいな感じでしたが、実物はまったく感じがちがっていいですね。
亘 理 セリカは横から見るのが一番いいね。カリーナのバック・スタイルはボクの好みに合わないけど……。
樋 口 うしろは昔のアメ車みたいな感じですね。
本 誌 カリーナは細身に見えますね。
樋 口 オーバーデコレイティブじゃないですね。ヨーロッパ的な感じです。
本 誌 カリーナとセリカはどっちがいいですか。
樋 口 目的によりますね。カリーナは気楽に乗れますが、セリカは服装を考えないと……。
”すなおなクルマ”
本 誌 動力性能の結果をお願いします。
古 谷 0 →400mはカリーナSTが17.1秒、セリカGTが16.1秒でした。(以下、142ページ参照)
追い越し加速は、100km/h付近までは、サード、フォースともカリーナのほうがいいですね。高速になるとセリカが伸びますが。
小 口 空気抵抗が効いてくるんじゃないですか。
西 田 そう思います。
亘 理 しかし、市街地はセリカのほうが走りやすかったね。
本 誌 ミッション、ファイナルとも同じですね。
宮 川 エンジン性能と重量のちがいです。それと空気抵抗、セリカはカリーナより75mmほど車高が低く、あのスタイルですから。空気抵抗がだいぶちがっています。
松 村 エンジン回転数の低いところでは、だいたい似たようなものですが、カリーナの2T-Bエンジンのほうが定常トルクがややいいようです。しかしキャブレターがカリーナSTはダウン・ドラフトのツインで、セリカGTがソレックスのツインですから、ソレックスの応答性の良さが市街地でのフィーリングの良さになったのではないでしょうか。
小 口 とくにセリカは、初めて乗っても“すなお”に走ってくれましたね。運転がうまくなったのかと錯覚したほどです。
亘 理 足まわりもステリング関係も同じなのに、フィーリングはかなりちがっていたね。
西 田 ばねは少しちがいますが、相当なことをやっても、修正は楽にできると思います。
本 誌 燃費の結果はどうですか。
佐 野 モデル運行燃費は40km/h指示で、セリカGTが9.8km/ℓ、カリーナSTが11.5km/ℓ、60km/h指示で、8.9km/ℓと10.0km/ℓでした。(以下、143ページ、データ参照)
セリカGTは定地燃費が30km/hより80km/hのほうがいい。つまり高速型です。カリーナSTは低中速はセリカGTよりいいんですが、80km/hからクロスしています。
本 誌 いい結果ですね。5速ですか。
佐 野 定地、モデル運行とも5速です。
本 誌 そうするとファイナルが高いということと同じですね。
佐 野 ファイナルが4.111ですから、オーバートップを1.000とすると、3.463ぐらいになりますね。
本 誌 5速は40km/hで走れますか。
佐 野 カリーナは20km/hぐらいまで大丈夫だと、ということでした。
星 島 5速というのが”売り”になっていますね。たしかに経済性はいいし、音も静かですし、軽量コンパクトということですが、シフトの感じはあまりカチカチしすぎて味が良くなかったですね。
本 誌 ストロークが大きいんですか。
星 島 カローラなどにくらべると、大きくはありませんね。
それと音はカリーナのほうが静かだと思ったんですが、減速中にちょっと雑音が出ました。セリカはまったく出ませんでしたが。
本 誌 騒音の結果はどうでしたか。
西 山 カリーナ・スーパーデラックスを測定しました。車内騒音は40km/hで63 ホーン、60km/hで68 ホーン、80km/hで72ホーン、100km/hで75ホーン、120km/hで80ホーンでした。いずれも4速です。
車外騒音は定常で72 ホーン、加速で79ホーンでした。
振動は、ばね上が1.35~1.40ヘルツ、ばね下が11.5ヘルツでした。
亘 理 車内はとくに静かとはいえない。オーバートップならもっと静かになると思います。ピークがどこかにあるんじゃないですか。
西 山 Aスケールはほぼ直線ですが、Cスケールでは50km/hと70km/h付近に出ています。
亘 理 注文をつけたいのは、セリカのマフラーの音で、最近は公害問題がうるさくなっていることもあるけど、静かにスーッと走っていくスポーツ・タイプのほうがカッコイイね。
景 山 星島さんの言われた減速時の音ですが、やはり私も感じました。カリーナだけですが。
樋 口 昔は音がうるさいと“布団”を挟んだりしましたが、その後設計が進んで、現在では一般的に静かになっています。ところが、内装など硬質プラスチックを使うようになると、ボディがねじれたりするときに音が出てくる。
亘 理 例えば、ドアの内側とかシートまわりね。
樋 口 ドアの内側はカリーナが硬質でセリカが軟質ですね。
西 田 セリカは、成形天井という新しいものを使っています。
亘 理 夏になったらもう少し静かになるかな。(笑)
トヨタ車では異色の運動性
本 誌 操縦性・安定性の結果をお願いします。
斎 藤 試験はセリカGTで行いました。まず、実用最小回転半径は5.225mでギャランGTO、カプリ1600についで小さい値です。
据切りは、わりと重く、最大は左切りが20kg、右切りが19kgでした。
アンダーステア/オーバーステアは、中速で中ぐらいのアンダー、高速では弱まるという結果で、V² が100のときR/Rは1.28ぐらいです。
ロール率は4度で、最近のクルマとしては少し大きめでした。
保蛇力と操舵力はかなり重く、0.5ヘルツでスラロームをして、そのときの操舵角あたりの操舵力は、やや重い。同じスラロームで、操舵角あたりのヨーレートは、ヨーゲインがやや大きめです。だから操舵に対するゲインが大きいということです。
手放し安定は、最高120km/hまでやりましたが、全般にすなおな収束をしています。特徴的なのは、周期がやや短く、約0.8秒ぐらいです。(以下、146ページ、データ参照)
亘 理 セリカはカリーナよりハンドルが重いね。
西 田 むしろ、意識的に軽くしなかったんです。
亘 理 タイヤはカリーナとちがっていますか?
西 田 セリカは165-13-4で、カリーナは6.45-13-4ですからちがいます。
石 川 アライメントのちがいはどうなんですか?
沼 沢 ほとんど同じです。ジオメトリーはほとんど同じですが、セリカはガス封入式のショック・アブソーバを使っています。
樋 口 トヨタのクルマにしては、スタイルも異質ですが、ハンドルもちがう感じですね。何か味付けをしたんですか。
小 口 フィーリングでは、セリカとカリーナも、かなりちがう感じですね。タイヤのせいもあるでしょうが。ショックがちがうのも効いていませんかね。
西 田 重心の高さもちがいますから。
小 口 とくに、セリカのステアリングは、レスポンスや剛性などトヨタらしくない感じで、リヤの追従性もひじょうにいい感じですね。
沼 沢 その点は最初の企画のときから多少そういったニュアンスの強いものにしようということではじめました。
小 口 ニュートラルに近い感じで、コーナリングがいい感じです。
本 誌 トヨタのクルマらしくない、ということですが、弱いアンダーというのは設計のねらいどおりですか。
西 田 私個人については、そういう方向にしたつもりです。
沼 沢 ニュートラルに近いというのが最近の傾向じゃないかと思います。
亘 理 ヨーロッパからの要求でリヤ・サスを変えたんですかね?
岡 崎 ロードテストの前にサーキットを走る機会があったんですが、かなりスピードを上げると、むしろ、アンダーが強くなってくるんですね。フロントがすぐに流れ出してしまうんです。むしろ、アンダーで最後までいくより、ゆっくりとしたリバースのほうがいいんじゃないかと思うんですが。
小 口 タイヤの圧で調整したら……。
沼 沢 安全の見地からは、アンダーがいくぶんまさっているほうがいいと考えています。
本 誌 重量、アライメント、ブレーキ関係のデータをお願いします。
石 川 重量はセリカGTが971kgです。セリカの前後重量配分は57:43で、カリーナSTの56:44にくらべて前がやや重い。乗員の変化に対しては、カリーナSTはほとんど配分が変わりませんが、セリカはフロントの荷重が小さくなります。従って、セリカGTのシート位置は重心より後ろにあるといえます。
アライメントは、セリカがフロントのトーインがやや大きく、キャンバーが小さい。カリーナは中ぐらいのキャンバーです。リヤは、セリカがトーインはほとんどゼロ。逆キャンバーがついています。カリーナはトーアウトで、キャンバーはゼロでした。乗員が増えてあまり変化はありません。
ブレーキ関係は、0.6G踏力でセリカ27.5kg、カリーナ26kgでほとんど同じ。サーボの休止点は25kgぐらいのところです。
路上の50km/hでは、台上より踏力がへって、セリカは0.6G踏力で25kg、カリーナが少しばらついていましたが20kgぐらいです。
路面が濡れていたので、Pバルブの威力はどうかと思って、50kgぐらいでブレーキを踏んでみたんです。ロックしたようには思わなかったのですが、すごくシリをふられました。データをみると、左右がアンバランスなんですね。
ブレーキ力の配分は、踏力25kg前後でフロントの比率が小さくて、55:45です。駐車ブレーキはひじょうによく効いていました。(以下、144ページ、データ参照)
本 誌 ブレーキ力の配分は、フロントの比重が小さい感じですが。
石 川 ええ、トヨタのクルマは、今でもそうでしたね。なるべくステアリングの能力を残しておきたい、ということでしょうが……。
本 誌 ブレーキのフィーリングはどうでしょう。
石 川 味としてはいいと思うんですがあれだけアンバランスがあって、これだけ効くというのは印象的でした。
ゆったりした前席——セリカ
本 誌 視野の結果をお願いします。
平 田 セリカGTの前方可視範囲は1.39ステラジアンで、うちワイパーの払拭範囲は0.379ステラジアン、前窓の約63%です。後方可視範囲は1.2ステラジアンです。ルームミラーは合計0.107ステラジアンでひじょうによく見えます。
カリーナは前方可視範囲が1.5ステラジアン、ワイパーの払拭範囲は0.411ステラジアンで、前窓の74%です。後方可視範囲は1.3ステラジアンで、バックミラーの可視範囲は後窓に対する割合が69%です。
これまでの測定データとくらべると、全体の可視範囲が2.2~3.2ステラジアンぐらいですから、セリカ/カリーナの2.5~2.6ステラジアンは、ふつうの値いじゃないかと思います。
本 誌 セリカとカリーナとくらべてどうですか。
平 田 2.6と2.58ですから、同じくらいですかね。
本 誌 フィーリングとしてはどうでしょうね。
星 島 ドライバーのばあいは、かなり感じがちがうことはたしかですが、やはりひとりで乗るなら、セリカが好きですね。ただし、視野だけということになるとわかりませんね。
本 誌 見た感じでは、カリーナの方が室内が明るい感じですね。
星 島 シートにすわった感じを総合すると、セリカのほうがいい感じでしたね。気になったのは、ルームミラーがちょっとちいさいことです。それと、計器パネルのデザインが、従来のトヨタ車はひじょうに豪華でしたが、カリーナなんかみるとそういう感じがなくなりました。ほかのクルマがよくなったせいかもしれませんが、そういう意味では、セリカには若いドライバーをとりこにしてしまうような、もう一歩すすんだものを期待したいと思います。
本 誌 樋口研のデータをお願いします。
樋 口 まず、カリーナのほうは、コロナとカローラの中間をねらったということですが、寸法的にはコロナに近い値です。全長はコロナより35mm短く、カローラより90mm長い。幅はコロナと同じです。特にホイールベースは、コロナにくらべて5mm短かいだけです。
室内は、長さがやはりコロナと5mmのちがいでほとんど同じです。
メーターまわりはコロナに近いものがついていますが、シートのへんは、カローラに近いものがついているようです。
シフトレバーは、シフトが65~70mmで、セレクトが40~50mmとあまりちがいがありません。セレクトがもう少し狭くてもいいと思います。問題はリバースに入れるときで、なれればいいのですが、ふつうに上にあげると、なかなかはいりません。
セリカのほうは、幅が1600mmとコロナより広くなっています。こういうスペシャルティカーでは、ひとりかふたりで乗るので、全長はあまりいらないと思いますが、そういう意味でスペシャルティカーらしい寸法になっています。室内も当然フロント・シート中心のレイアウトで、定員いっぱいの5人が長時間乗るには狭いですね。フロント・シートのスライド量は160mmで、しかも中央位置からペダルまでの距離が925mmです。国産車の標準がだいたい850mmですからどんなひとでも自由なポジションがとれるという値です。セリカは、ボデイのヒップが高いので、パーキングのとき斜めうしろがちょっと見にくいですが、なれの問題だと思います。
トランクは、どちらもスペア・タイヤを右横に縦に積んでいます。ガソリン・タンクは、トランクの底にあり、トランク・ルームはじゅうぶんな広さです。
メーターまわりは、タコメーター、水温、電流、油圧、燃料計とぜんぶついていて、ひじょうに豪華です。
安全については、カリーナSTが100点満点で90点。セリカは内装関係がカリーナより高い数値がでていて、92点です。だいたい2リッター・クラスのハードトップと似た数値です。
本 誌 リバースにいれるのは……。
星 島 要領をおぼえればいいんです。ちょっと手前に引くようにすればかんたんです。
本 誌 最後に生産計画をおきかせください。
樋 口(清喜、トヨタ自販) 45 年12月はカリーナがだいたい7500台で、セリカが3000台ぐらいになると思います。46年度はカリーナが15000台、セリカが10000台の予定です。
本 誌 輸出のほうはどうですか。
樋 口 まだはっきりしませんが、春ごろから5000~6000台ベースで実施すると思います。おもにアメリカ向けですが。
本 誌 ではこのへんで……。
トヨタ・セリカGT主要諸元
寸法mm重量kg:全長4165 全幅1600 全高1310 ホイールベース2425 トレッド1280 / 1285 室内長1625 幅1330 高1070 重心高495 地上高175 車重940 定員5名
エンジン:水冷直列4気筒 DOHC ボア×ストローク 85×70mm 排気量1588cc 圧縮比9.8 最高出力115ps / 6400rpm 最大トルク14.5kgm / 5200rpm 気化器 ソレックス 2個 機関重量152kg
クラッチ:乾単ダイヤフラム 油圧式
変速機:5速 フルシンクロ ダイレクト・フロアシフト ギヤ比 1速3.587 2速2.022 3速1.384 4速1.000 5速0.861 R3.484 減速比4.111
ステアリング:リサーキュレーティング・ボール ギヤ比18.1 コラプシブル ハンドル径390mm ロック・ツウ・ロック3.5回転
サスペンション:前輪 独立ストラット・コイルスプリング スタビライザー付 後輪 リジッド・アスクル4リンク・コイルスプリングラテラル・ロッド付
ブレーキ:前輪 ディスク 後輪 リーディングトレーリング 真空倍力付 Pバルブ付 タンデム・マスターシリンダー
タイヤ:6.45H 13-4 空気圧前後とも1.5kg/㎠
燃料タンク容量:50ℓ
フレーム:セミモノコック
性能:最高速190km/h 燃費16.5km/ℓ(60km/h) 制動距離13.5m(50km/h) 登坂力tanθ 0.63 最小回転半径4.8m
価格:87.5万円(東京店頭現金価格)
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