〈試乗記:マツダCX-30〉MAZDA3のSUVバージョン?
- 2019/12/21
- ニューモデル速報
MAZDA3をSUVスタイルに仕立てたら……。CX-30をひと口に表すとこうなるだろう。その乗り味は怜悧なMAZDA3に対して極めて安定して自然なもの。高い質感と巧みなパッケージングと併せ、新たなマツダのヒット作となるか。
REPORT●佐野弘宗(SANO Hiromune)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2019年11月発売の「マツダCX-30のすべて」に掲載されたものを転載したものです。
マツダヒット作の系譜を令和の世に受け継ぐ
かつて一世を風靡した初代FFファミリアは1980年=昭和55年に登場した。70年代にVWゴルフが創出したヨーロピアンCセグメントの魅力を日本流にアレンジした初代FFファミリアは日本中で大ヒットしただけでなく、当時の世界販売でもカローラやゴルフに次ぐ3位を獲得。不振に陥っていたマツダの経営をV字回復させる逆転満塁ホームランとなった。こうして昭和時代に確立したファミリアのポジションは、平成後半になるとアクセラに引き継がれて、そのアクセラもまた二世代にわたってマツダ最量販商品として君臨することになる。
先日デビューした新型マツダ3はそんなファミリア〜アクセラの系譜を直接的に引き継ぐ新世代商品だが、それと期を同じくして、日本の世も令和へと代替わりするとは宿命めいたものを感じなくもない。
ただ、昭和のファミリアや平成のアクセラと比較すると、令和のマツダ3を取り巻く環境は、これまでとはちょっと異なる。というのも、マツダ3の商品企画は、CX-30という新しい兄弟ありき……で構築されているからである。CX-30は商品名ではマツダ3から独立しているが、その開発を率いた佐賀尚人主査は「CX-30はマツ33のクロスオーバー版であり、マツダ3があのようなデザイン優先のクルマづくりに邁進できたのもCX-30があればこそ……」と公言してはばからない。
新型マツダ3は世界最量販クラスのCセグメントでありながら、室内空間や後方視界をあえて(少しだけ)割り切った代わりに、流麗なデザインとスポーティな走りが魅力である。CX-30はそれとは好対照に、キャッチコピー通りの「ジャストサイズ」に実用的なファミリーカーであることに妥協ない。
4.4mを切る全長はヨーロッパの街中でスマートに縦列駐車ができることを、1.54mの全高は日本の立体駐車場を想定している。そして1.8m未満の全幅は、世界のどの国の交通環境でもギリギリ持て余さない最大公約数……と、そのスリーサイズは企画段階ですべて論理的に規定して、それを1㎜たりとも超えることを最後まで許さなかった。
CX-30はさらに、そんなジャストサイズボディの内側に「大人4人がきちんと座れる」室内空間と「グローバルサイズのベビーカーとスーツケースが入る」荷室を確保。加えて、乗降性や視界性能まで意識したパッケージレイアウトを、すべて理詰めでつくり込んでいる。
……と、ここまで実用最重視のパッケージを追求しながらも、実際のスタイリングがまるでそう見えないところが、CX-30……というかマツダデザインの凄味である。
1795㎜という全幅は昭和時代から考えると立派というほかないが、令和の日本の交通環境ではなるほど困るほどのサイズでもない。しかし、視覚的には実寸以上に立派なワイドボディ感があるのは、全幅と反比例するように全長が短いショート&ワイドなディメンションと、肉感的なショルダーラインによるところが大きい。サイドシルやホイールアーチをブラックアウト化して大径タイヤと車高の高さを強調するのはクロスオーバーSUVお約束の手法だが、CX-30ではそのブラックアウト量(?)も大胆で、そこにボディサイドの前衛書道家が描いたような有機的な造形が相まる。そんなこんなで、CX-30は実寸以上に低く、幅広く、疾走して見えるのだ。
CX-30のドライバーズシートに座ると、見晴らしのいいヒップポイントもまたジャストサイズである。ただ、見た目のワイド感からの期待を裏切らない室内空間の横方向の余裕が、それ以上に印象的だ。Cセグメントとしては明らかに幅広で立派なセンターコンソールに加えて、肩まわりまで広々とした空間は、そのエクステリアからはいい意味で想像しづらい巧妙設計である。そして、大柄な大人にも過不足なく健康的な居住空間のリヤシートや、ひと目で「意外に広い」と直感できるトランクなど、CX-30にはとことん突き詰められたパッケージレイアウトの妙が散りばめられている。
加えて、クラスを超えたインテリアの質感も、マツダ3に続いてCX-30でも大きな売りである。そこに奇をてらった部分はあまりないのだが、ソフトパッドはことごとく分厚く柔らかく、ステッチはすべて本物、そしてメッキは繊細……と、インテリアの高級感や本物感は、横方向に広々した空間とも相まってお世辞抜きにひとクラス上と思わせられる。
まあ、高いベルトラインのせいでサイドウインドウからの足元がちょっと見づらいのは弱点といえなくもない。ただ、これもまた「この守られているが高級車っぽい」と肯定的に捉える向きもあるかもしれない。
CX-30もマツダ3同様、圧縮着火の2.0ℓスカイアクティブ―Xエンジンをトップモデルとして用意するが、ここで試乗できたのは、先に発売された2.0ℓガソリンと1.8ℓディーゼルの2機種である。ご想像の通り、どちらにしてもことさらパワフルとか極端に速いわけでもない。一方で、日常づかいから高速巡航、山坂道まで不足を感じるシーンももちろんなく、実寸以上に立派に見える肉感的なデザインもあって、どちらのエンジンも「意外に良く走るなあ」と直感できる程度の動力性能は担保されている。
ピタリと安定しきった走りと見事な静粛性
CX-30のサスペンションはエンジンや駆動方式を問わず、ほど良く引き締まった印象だ。さらにエンジンを問わずに高い静粛性も印象的で、エンジン音はそれなりに侵入してくるものの、雨天時の水しぶきや小石を巻き上げた時のノイズの小ささは最初は驚くほどだ。
マツダ3と比較すると全高も地上高も高めのCX-30でも、走行中はいかなる場面でも上屋がピタリとフラットに安定している点は、いかにも最新世代のマツダらしい。しかし、わずかな加減速や操舵の瞬間に、しかるべきタイヤにすみやかに荷重が乗るリニアな接地感は鮮やかに培養されており、それが乗り手に色濃く正確に伝わってくることには改めて感心する。ファンにとっては「この瞬間がマツダだね!」である。
面白いのは、兄弟車というかバリエーション関係とすらいえるマツダ3がドライバーの腰まわりを中心に、より俊敏かつ明確な荷重移動を演出するのに対して、CX-30のそれはもっと自然で滑らかなことだ。その荷重移動感をあえて擬音化すると、マツダ3が「クイッ」とすれば、CX-30は「スーッ」と表現すればいいだろうか。
スポーティなドライバーズカーとして刺激的なのは間違いなくマツダ3だが、いい意味でクルマの運転を必要以上に意識させず、より同乗者にも優しい運転をしやすいのはCX-30である。さらに驚くのは、ステアリングやブレーキの反応も非常にゆったりと穏やかなCX-30なのに、狙った走行ラインを滑らかにピタリと射抜くことができるし、ブレーキも正確な減速を決めやすい。まさに「スーピタッ」である。
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