メガーヌR.S.トロフィーMTは「4コントロール」の強烈な違和感、シビックRはターボラグの大きいK20Cを克服できるかが鍵。シフトフィールはシビックRに軍配 一見気安いが走りに一癖あるルノー・メガーヌR.S.トロフィーMT。ホンダ・シビックタイプRは見た目に反して同乗者にも優しく頼れる走り味【ワークスチューン ワインディング試乗インプレ3本勝負】
- 2020/04/10
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遠藤正賢
自動車メーカー直系の社内カンパニーや関連会社が開発・販売を手掛ける「ワークスチューン」のコンプリートカーが、近年にわかに活況を呈している。ワークスならではの高いコストパフォーマンスとトータルバランスの良さを兼ね備えたニューモデルが、各社から続々と発売されている。
「ワークスチューン ワインディング試乗インプレ3本勝負」と題したこの企画、2本目はルノー・スポールとホンダ自らが、それぞれのCセグメント5ドアハッチバック車をベースに開発したホットバージョン、「メガーヌ ルノー・スポール」の6速MT搭載モデル「トロフィーMT」と「シビック タイプR」に、タイトコーナーが連続する芦ノ湖スカイラインなどで試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●平野陽(HIRANO Akio)、ルノー、本田技研工業
共にニュルブルクリンク北コース最速を争うFFホットハッチでありながら、こうも見事に正反対なキャラクターになるものだろうか。
ルノー・メガーヌ ルノー・スポール(以下「メガーヌR.S.」)が世界初公開されたのは、2017年9月のフランクフルトショー。ホンダ・シビックタイプR(以下「シビックR」)は同年3月のジュネーブショーである。
さらに両車のベース車へとさかのぼれば、現行四代目メガーヌの5ドアハッチバックは2015年9月のフランクフルトショー、現行十代目シビックはセダンが2015年9月に北米で、5ドアハッチバックが翌2016年9月のパリサロンで発表されている。
従って、後発モデルが先行するライバルを見て明確に差別化を図ったという典型的な図式は、この2台には当てはまらない。しかしながらこの2台、全幅は1875mm、全高は1435mm、最大トルクは400Nmという所まで、見事なほど一致している。
【ルノー・メガーヌ ルノー・スポール トロフィーMT】全長×全幅×全高:4410×1875×1435mm ホイールベース:2670mm トレッド:前1620mm/後1600mm
にも関わらずこの2台は、まず見た目の印象が全く異なる。メガーヌR.S.は一見するとベース車との違いが少なく、ディテールも全体的なプロポーションも、良く言えばオーソドックスで買い物から冠婚葬祭まで困らない、悪く言えばフランス車への期待値の高さをを差し引いてもなお平凡に感じられるスタイルだ。
しかしながら実際には、ベース車に対しフロントが60mm、リヤが45mmワイド化されており、前後バンパーやグリル、ルーフスポイラーなども専用デザイン。ただし素のメガーヌR.S.と「トロフィー」との外観上の違いは、19インチアルミホイールのデザインと「TROPHY」デカールの有無、ブレーキキャリパーの色に留まっている。
【ホンダ・シビック タイプR】全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm ホイールベース:2700mm トレッド:前1600mm/後1595mm
かたやシビックRは、ベース車の時点でクーペライクかつ直線基調の攻撃的なスタイルながら、前後にオーバーフェンダーを装着して全幅を75mm拡大。前後左右に装着される大型のスポイラーや、前後バンパーやグリル、ボンネットなどに穿たれた開口部、20インチのアルミホイールで、このクルマがホットハッチであることを極めて分かりやすく主張している。
有り体に言えば、三菱のお株を奪うほどのガンダムルックで、これほどまでに東京・秋葉原の電気街が似合うクルマは他にあるまい。実際に以前、別の取材で秋葉原を訪れた際、道行く外国人観光客が次々とその姿をスマートフォンのカメラに収めていった。裏を返せば、これで葬儀に参列するのは、故人が業界関係者か相当のクルマ好きでなければ躊躇われる類のデザインだろう。
インテリアも、デザインの方向性はエクステリアと基本的には変わらず、メガーヌR.S.トロフィーMTがオーソドックスなのに対し、シビックRは分かりやすくレーシーな装いだ。インパネやドアトリムの質感は両車とも五十歩百歩で、後発のトヨタ・カローラスポーツやマツダ3はもちろん、遥かに先行していた七代目フォルクスワーゲン・ゴルフに対しても明確に見劣りする。
では、肝心の操作系はどうか。まずメガーヌR.S.トロフィーMTは、アクセルペダルとブレーキペダルの間隔が狭く段差も少ないため、ヒール&トーどころかトー&トーさえ容易にこなせる。
またパーキングブレーキが、「EDC」(=デュアルクラッチトランスミッション車)は電動式になるのに対し「MT」はレバー式、いわゆる普通のサイドブレーキとなるため、サーキット走行やジムカーナの際にサイドターンが可能なのも、非常に好ましく感じられた。
だが、6速MTのシフトフィールは、かつての日産マーチ12SRによく似た感触。軽くストロークも短いものの、シフトレバー自体の剛性が不足しているのか、常に華奢な印象がつきまとう。
しかしそれ以上に疑問符が付くのはステアリングホイールだ。まず単純にグリップが太すぎ、ただ保持するだけでも少なからず握力を要求される。そして何より、常に握る左右に滑りやすいナパレザー、送りハンドルをする時以外はまず握らない上下に滑りにくいアルカンタラを巻いているのは完全にあべこべだ。この辺りは率直に言って理解に苦しむ。そもそも、触感の異なる素材を組み合わせず一種類に限定するのが、操作量の多い市販車のステアリングにおいては望ましい。
なお、「トロフィー」にはレカロ製セミバケットシートがフロントに装着されるが、座面が若干短い(筆者実測51cm)うえヒップポイントの落とし込みも少ないため、太股から膝裏にかけてのフィット感が芳しくなく、ヒップに面圧が集中しがち。「ブランドものだから良いものとは限らない」という、ごく当たり前のことを再認識させられた。
対するシビックRは、メガーヌR.S.トロフィーMTほど近くはないが、各ペダルの間隔は適切で、シフトダウン時に自動で回転を合わせる「レブマッチシステム」を用いずともヒール&トーは容易。
シフトフィールはホンダ一流の軽く短く剛性感に溢れるものだが、シフトレバーが短すぎ、球形のアルミ製シフトノブも滑りやすく手の平を添えにくいため、正確に操作しにくいのが玉に瑕だ。
またパーキングブレーキが、メガーヌR.S.トロフィーMTとは対照的に電動式という点には、失望を禁じ得ない。
ステアリングホイールは全面本革巻きで、「しっとり」と言える感触ではないもののフィット感は概ね良好。テイ・エス テック製のフロントセミバケットシートはサイズ・フィット感・ホールド性とも申し分ないもので、ワインディングのみならず町中でも非常に快適に過ごすことができた。
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