ドライバーにクルマの存在を意識させない「究極の人馬一体」を掛け値なしに実現 マツダCX-30 SKYACTIV-X 500km試乗インプレ…ドライバーを立てるタイプの才色兼備な完璧超人。課題はスカイアクティブXの価格設定に対する納得感のみ【売れ筋国産SUV長距離実力テスト】
- 2020/04/22
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遠藤正賢
一部でやや沈静化の動きは見られるものの、SUVは依然として日本を含め全世界的に人気が高く、その裾野も徐々に広がりつつある。
「売れ筋国産SUV長距離実力テスト」と題したこの企画では、2020年1~3月の販売台数ランキングで上位につけた国産SUV4台をピックアップ。SUVユーザーに多いであろうアウトドアレジャーや帰省での使用を想定し、各車とも約500kmを走行して長距離長時間での疲労度を測るとともに、都心の町中や高速道路、郊外の一般道やアウトドアスポット近隣の荒れた路面で走りの実力をチェックする。
最後の4本目は、CセグメントのCX-5と、BセグメントのCX-3との中間に位置するパッケージングが与えられた、マツダの新たなクロスオーバーSUV「CX-30」。横浜市内の市街地から首都高速道路と東名高速道路、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)を通過して、埼玉県秩父市内の一般道とワインディングを走り、関越自動車道経由で横浜市内に戻るルートを走行した。
今回テストしたのは、世界初のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)を実現したSKYACTIV-X(スカイアクティブX)エンジンを搭載し、本革シートなどを装着する最上級グレード「X Lパッケージ」の6速AT・4WD車。
メーカーオプションのソウルレッドクリスタルメタリック、スーパーUV+IRカットガラス&CD/DVDプレーヤー&地デジチューナー、360°セーフティパッケージ、ボーズサウンドシステム+12スピーカー、電動サンルーフに、ディーラーオプションのナビゲーション用SDカードなど、約60万円分のオプションが装着されていた。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、マツダ
マツダが近年掲げているクルマ作りの思想は、筆者が抱いている理想のクルマ像に極めて近い。
「引き算の美学」の考え方に基づいてプレスラインや分割線を極力減らし要素を削ぎ落とした内外装デザイン、自然な感覚で運転できることを追求した「人間中心」の運転環境、統一感を持たせたスイッチの操作感、ドライバーにクルマの存在を意識させないほどの「究極の人馬一体」を目指したパワートレイン・ボディ・シャシー等々、ほぼすべてにおいて全面的に賛同できると言ってよい。
無論これらの考え方は、個別に見ればマツダが初めて掲げたものとは限らず、個々のブランドや車種においてはすでに実現されていることも少なくない。だが、これらをまとめて体系立て、一般ユーザーにも明言したうえで、全車種共通の設計思想として展開していることにこそ、大きな価値があると思う。
しかし、言うは易く行なうは難し。掲げる理想と実車の仕上がりとのギャップに首を傾げることはままあるものの、それでもマツダは、車種によっては年に1回以上の頻度で改良を重ね、着実に理想へと近づいていった。
そんなマツダの最新モデルが、2019年9月に発売されたCX-30である。そして2020年1月、待望のSKYACTIV-X搭載車が追加された。
【マツダCX-30 X Lパッケージ4WD】全長×全幅×全高:4395×1795×1540mm ホイールベース:2655mm トレッド:前後1565mm 最低地上高:175mm
実車を太陽光の下で目の当たりにすると、並のプレミアムブランドのクルマが裸足で逃げ出すほどの美しさと高級感に、ため息をつかずにはいられない。特に、「余白」「反り」「移ろい」をテーマとして、光と陰のゆらめきを表現したサイドビューは、深みのある陰影とともに車体の造形が鮮明に現れるソウルレッドクリスタルメタリックのボディカラーによって一層際立ち、観る者の視線を釘付けにする。
なお、マツダが「深化した魂動(こどう)デザイン」と呼ぶこのテーマは、先にデビューしたマツダ3より打ち出され、今後発売されるマツダ各車に共通して用いられる見込みだが、マツダ3とCX-30とでは決定的に異なる点がある。それは、マツダ3はあくまで美しさ最優先でデザインされているのに対し、CX-30はパッケージングありきで設計されている、ということだ。
前述の通りCX-30はCX-5とCX-3の間に位置するモデルとして企画され、その中で日本の立体駐車場に入庫できることも設計要件として盛り込まれたため、全長4400mm以下、全幅1800mm以下、全高1550mm以下に収めることが至上命題となっていた。また、後席を含めて大人がくつろげるキャビンと、ヤングファミリー日常的に積む荷物を載せやすいラゲッジスペースを、美しいデザインと両立させることも、CX-30では大きな開発テーマに掲げられていた。
そうした課題を解決するうえで要となっているのが、居住性確保のためバックドアウィンドウを後退させるとともにDピラーを寝かせたアッパーボディ、塗装部位=車両全体をスリムに見せるボディ下部の無塗装樹脂パネル、荷室開口部を拡大しつつ軽快に見せるためキャビンから大きく張り出させたリヤフェンダーとバックドアパネル中央のくびれである。このうち無塗装樹脂パネルは、ピンポイントで観ると分厚く感じるのが正直な所ではあるが、擦ってしまった際の修理費を低減できるという点では大いに歓迎すべきだろう。
また、これらデザイン上の工夫が、車両感覚の掴みやすさに直結していることも、筆者は賞賛すべきポイントとして最大限強調したい。マツダ3はセダン・ファストバック問わず車両感覚の掴み所が皆無に等しく、絶対的な視界も狭いため、非常に運転に気を遣うクルマになっていた。それだけに、「深化した魂動(こどう)デザイン」がCX-30ではデザインのためのデザインに堕すことなく、機能に裏付けられたものへと“進化”したことに、筆者はほっと胸をなで下ろしている。
インテリアはCX-30に限らず近年のマツダ車に共通して、その優美さと質感の高さに感嘆させられるものだが、従来のマツダ車に対する数少ない不満が、ファブリック内装におけるカラーバリエーションの乏しさ、具体的にはブラックしか用意されないことだった。
テスト車両は「Lパッケージ」のリッチブラウン内装×ブラック/チャコール本革シートだったが、CX-30の場合、同じ「Lパッケージ」にはピュアホワイト本革シートもある。そして他のグレードは、内装色がネイビーブルーとなり、ファブリックシートはブラックまたはグレージュから選択できるようになった。
テスト車両の組み合わせも充分にエレガントだが、より攻めているコーディネートという意味でも、筆者はネイビーブルー内装×グレージュファブリックシートの組み合わせを一推しとしたい。
運転席に座ってみると、マツダが主張する通り、ステアリングホイールとペダル類が身体に正対しており、不自然な姿勢を全く要求されないことにまず驚く。またステアリングホイールはグリップが細いため余計な握力が不要で、アクセルペダルは足の軌跡とずれにくいオルガン式になっていることにも、深く頷かずにはいられなかった。
だが、内気循環/外気導入と吹出口の切り替えスイッチ自体にアイコンが描かれていないエアコンパネルと、天地が浅い8.8インチセンターディスプレイはやや疑問。前者は直感的な操作の妨げになり、後者はナビの地図をヘディングアップに設定すると進行方向の表示範囲が非常に狭くなる点で、理に適っているとは言い難い。
シートは前後とも座面が若干短いものの背もたれは大きく、サイドサポートは硬く大きいためホールド性は良好。一方、中央のクッションと本革の表皮は柔らかめで、フィット感も優れている。後席は身長176cm・座高90cmの筆者が座っても頭上・膝回りとも10cmほどの余裕があり、まさに“必要充分”と言うべきその絶妙なパッケージングにまたも感心させられてしまった。
ラゲッジルームは後席使用時430Lという数値上の広さ以上に実質的な積み下ろしのしやすさを重視したもので、Jサイズのスーツケースを2個平置きでき、グローバルサイズのベビーカーが積めるよう開口幅を1020mmに設定。また重いものも出し入れしやすいよう、開口高を731mmとしている。一方で後席は掛け心地を優先しているため、背もたれを倒してもやや強めの傾斜と4cmほどの段差ができるため、長尺物を積むのはあまり得意とは言えなさそうだ。
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