ドライバーにクルマの存在を意識させない「究極の人馬一体」を掛け値なしに実現 マツダCX-30 SKYACTIV-X 500km試乗インプレ…ドライバーを立てるタイプの才色兼備な完璧超人。課題はスカイアクティブXの価格設定に対する納得感のみ【売れ筋国産SUV長距離実力テスト】
- 2020/04/22
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遠藤正賢
それでは、肝心の走りはどうか。プラットフォームを共有するマツダ3では、ボディタイプ・グレードを問わずリヤが常に跳ねる傾向にあった。CX-30はそれをベースに最低地上高を35mm上げ、ホイールベースを70mm短縮される一方、車重は40kg重く、タイヤサイズは215/45R18 89Wから215/55R18 95Hとなるなど、プラスマイナス双方の要素があり、試乗前に大きな懸念材料となっていた。
だが、それは杞憂に終わった。鋭い形状の凹凸でこそリヤが跳ねて強めの突き上げを伝えてくるが、それ以外の状況では、ヒビ割れた路面や横浜・元町商店街の石畳路であってもしなやかに凹凸をいなし、車体をフラットに保ってくれる。その際の静粛性も、低音がやや耳に付くものの基本的には高く、いたって快適だ。
高速道路に乗り、東名・海老名JCTから圏央道に入ると直線が続くため、「マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール」と呼ぶACC(アダプティブクルーズコントロール)と、同じく「クルージング&トラフィック・サポート」と呼ぶLTA(レーントレーシングアシスト)を試してみる。すると、LTAに関してはほぼ違和感がないものの、ACCは車間距離をやや取り過ぎるうえ、前走車がいなくなった後の速度回復が遅い傾向。交通量が多く出入口や分岐・合流の多い区間では、安全面を考慮するとやや使いづらい印象を抱いた。
圏央道から関越自動車道に入り、花園ICを降りて秩父地方の一般道へ。やがてアップダウンが激しくタイトコーナーも多いワインディングに入ると、HF-VPH型2.0L直列4気筒エンジン「SKYACTIV-X 2.0」の実力を試す時が来た。
それまでの町中や高速道路をゆっくり流す領域では、サウンドが酷似している(より正確には従来のガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」と同ディーゼルエンジン「SKYACTIV-D 1.8」の中間的に近い)こともあり、「SKYACTIV-G 2.0」より全般的に少し良いかも…という程度の印象だった。
しかしワインディングでは、あらゆる回転域において明らかにツキが良い、具体的に言えばアクセルペダルへの踏力に対しリニアかつレスポンス良くパワー・トルクが立ち上がり、非常にコントロールしやすいことに気付かされる。
その一方で、全負荷時以外はほぼその領域に入るSPCCIの超希薄燃焼も、イートン製スーパーチャージャーを用いた高応答エアサプライも、マイルドハイブリッドによるモーターアシストも、その存在を意識させられることは皆無。
6速ATも上り坂と下り坂、また旋回中のターンイン→クリッピング→立ち上がりまでの一連のプロセスにおいて、極めて適切に変速制御してくれるため、MTモードを敢えて使わずともかなりの所まで意のままに走ることができた。
旋回そのものは、全高1540mmとはいえやや腰高感があり、大きなロールを許容する味付けにはなっているものの、ロールのスピードは抑えられているため、ロール量にさえ慣れればターンイン時の恐怖感は少ない。また、旋回中に大きなギャップに見舞われても、破綻の予兆すら見せることなく姿勢変化が素早く収束するため、全幅の信頼を置いてコーナリングを楽しめる。
こうした走りの良さには、エンジントルクとブレーキの個別制御を利用して操縦安定性向上を図る「G-ベクタリングコントロール」と、電子制御多板クラッチ式4WD「i-ACTIV AWD」の助けも大きく寄与していると思われるが、これらもやはり存在を意識させることは全くなく、運転そのものに集中することができた。
帰路はオプション装着されていた「ボーズサウンドシステム」+12スピーカーで音楽を聴きながらのドライブとなったが、CX-30はマツダ3と同様に、車両の設計段階から「原音忠実再生」を目指したスピーカー配置とノイズ・振動対策が施されている。
マツダ3では、そのコンセプトを最も色濃く体現しているのはむしろ標準装備のパイオニア製「マツダ・ハーモニック・アコースティックス」+8スピーカーの方だったが、その傾向はCX-30でも変わらず。
ボーズは走行中のロードノイズに打ち消されることを考慮しても低音が強すぎ、音の定位も曖昧で、ボーカルやアコースティック楽器の細かなニュアンスが「マツダ・ハーモニック・アコースティックス」ほどは伝わって来ないのが残念でならない。
このようにCX-30は、美しいデザインと必要充分な実用性、そしてクルマの癖を意識させない爽快な走りを兼ね備えた、ほぼ欠点のないクロスオーバーSUVである。それはもはや、才色兼備な完璧超人と言っていい……しかも、三歩下がって後ろを歩き、ドライバーを立てるタイプの。一目惚れし、深く知ってより一層虜になり、「欲しい」と心の底から思わせる、そんなクルマだ。
しかしいざ、今回テストした「SKYACTIV-X」搭載グレードを購入するとなると、最大のネックとなるのはやはり、価格だろう。
今回テストした「X Lパッケージ」4WDの車両本体価格は371万3600円。同じ「Lパッケージ」で見てみると、SKYACTIV-D 1.8の「XD Lパッケージ」4WDは330万5500円、SKYACTIV-G 2.0の「20S Lパッケージ」4WDは303万500円で、それぞれ40万8100円、68万3100円安くなる。しかも使用燃料は、「SKYACTIV-G 2.0」がレギュラーガソリン、「SKYACTIV-D 1.8」は軽油となるのに対し、「SKYACTIV-X 2.0」はハイオクガソリンだ。にも関わらず、装備内容の違いはアルミホイールの色と「SKYACTIV-X」エンブレム程度しかない。
この価格差は率直に言って、納得し難いものがある。今回の行程を通じての燃費は15.1km/Lだったが、これは恐らく「SKYACTIV-G 2.0」より1割ほど良いという程度で、70万円近い価格差を埋めるのは不可能に近いだろう。「SKYACTIV-D 1.8」は言わずもがな、だ。
では、エンジンの性能やフィーリングはどうかと言えば、「SKYACTIV-G 2.0」よりすべてにおいて上回っているのは間違いない。が、誰もが乗った瞬間に気付き感動するほど大きな差があるかといえば、疑問符が付く。「SKYACTIV-D 1.8」と比較すると、トルクと燃費では敵わないうえ、「SKYACTIV-D 1.8」もディーゼルとしては並外れたレスポンスの良さを備えているのが、また難しい所だ。
マツダがCX-30で掲げている開発思想やセールスポイントは、ほとんどすべて実現されているのは間違いない。だが「SKYACTIV-X」に限定すれば、少なくとも現時点では「SKYACTIV-G 2.0」に対し70万円弱、「SKYACTIV-D 1.8」に対し40万円強もの出費を上乗せしてまで選ぶ価値はない。筆者がもし購入するなら、選ぶのは間違いなく「SKYACTIV-D 1.8」を搭載する「XDプロアクティブ ツーリングセレクション」の4WD車だ。
せめて「SKYACTIV-X」搭載車が「SKYACTIV-D 1.8」搭載車と同等の価格になるか、「SKYACTIV-X」搭載車にしか与えられない特別な装備が大幅にプラスされれば、もっと積極的に薦められるようになるのだろうが。
■マツダCX-30 X Lパッケージ4WD
全長×全幅×全高:4395×1795×1540mm
ホイールベース:2655mm
車両重量:1550kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1997cc
エンジン最高出力:132kW(180ps)/6000rpm
エンジン最大トルク:224Nm/3000rpm
モーター最高出力:4.8kW(6.5ps)/1000rpm
モーター最大トルク:61Nm/100rpm
トランスミッション:6速AT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:215/55R18 95H
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:16.4km/L
市街地モード燃費:13.4km/L
郊外モード燃費:16.5km/L
高速道路モード燃費:18.1km/L
車両価格:371万3600円
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