ベース車のパッケージングが致命的なレベルでドライバーを選ぶ ダイハツ・コペンGRスポーツvs ホンダS660モデューロX オープンカーとしての爽快感はダイハツ・コペンGRスポーツ、スポーツカーとしての一体感はホンダS660モデューロXの圧勝。ただし…?【ワークスチューン ワインディング試乗インプレ3本勝負】
- 2020/04/30
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遠藤正賢
まずはS660モデューロXをオープンにし、減衰力は前後とも最も硬い「5」、アクティブスポイラーを下げた状態で一般道を走行する。
実車を目の当たりにして改めて感じるのは、その軽自動車とは思えない外装の存在感と、内装の質感だ。ベース車は要素が多いながらもコンパクトさを強調する外観と、ほぼ黒一色の室内が安っぽさを強調してしまっているが、モデューロXにはそれがない。
しかも、今回のマイナーチェンジでアルカンターラが、頻繁に操作する部位に拡大採用されたことで滑りにくくなり、機能面でも進化しているのには好感が持てる。ただし、基本的にはベース車と変わらないシートはクッションに弾力がなくサイズも小さく、それ以前に前後上下方向の空間も不足しているのは大減点だ。
ともあれ実際に走ってみると、低速域で大きな凹凸に乗り上げると車体が上下に跳ねるものの、ダンパーの減衰がしっかり効いて突き上げのピークは弱められているため、意外なほど不快感は少ない。とは言え突き上げは首や腰に響く類のもので、車体が跳ねる頻度も高いため、結論を言えば街乗りでは減衰力を「1」にするのがやはりベストだった。また「1」の方が、車体の動きに適度なダルさが生まれるため、さほど神経質にならずに運転できるのも好感触だった。
なお、「アクティブスポイラー」は70km/hで自動的に上がり、35km/hで格納されるようになっているが、手動で上昇させたところ、明確に後輪の接地感が増すものの空気抵抗も増える。特に高速域では加速の伸びが悪くなり、当然ながら燃費にも悪影響を及ぼすため、流れに沿ってクルージングする時は格納した方が良いだろう。
ところがタイトコーナーの多いワインディングに持ち込むと、こうした印象は逆転する。ダンパー減衰力が「1」の場合、タイトコーナーでは適度なダルさが仇となり、操舵に対しコーナリングパワーが一瞬遅れて立ち上がり、その後やや早いスピードでロールするのが気になってくる。
そこで減衰力を「5」にして脱着式ソフトトップを閉じ、「アクティブスポイラー」を常時上昇させた状態で走行すると、ほんのわずかな操作にもレスポンス良く、また大きな凹凸でも無駄な挙動変化を抑え短時間で収束させながら、リニアにクルマが動いてくれるようになった。
しかも、104Nmもの最大トルクを2600rpmという低回転域で発生し、かつ最高出力64psを発生する6000rpm付近まで綺麗に吹け上がるS07A型直列3気筒ターボエンジンは、どの回転域からでもピックアップが鋭く、特にマニュアルモードを駆使して走行した時は非常に加減速のコントロールがしやすい。そのため全幅の信頼を寄せて、クルマとドライバーが一体になったかのような感覚で、コーナーを駆け抜けることができるのだ。
では、コペンGRスポーツはどうか。
外観は、ワイド感を強調する「GR」シリーズ共通テイストの前後バンパーが功を奏し、軽自動車らしさは顔を潜めている。だがS660モデューロXは全高1180mmのミッドシップ車なのに対し、コペンGRスポーツは全高1280mmのFF車ということもあり顔が分厚く、良くも悪くもボーイズレーサーの雰囲気が濃厚だ。
またグレーを基調としたGRスポーツ専用インテリアは、ベース車に設定されているベージュまたはレッドのインテリアと比べて華がなく、カーボン調やピアノブラック調の加飾パネルもそれに拍車をかけている。モモ製ステアリングホイールの本革は硬く安っぽいもので、レカロ製セミバケットシートはサイズとホールド性、フィット感こそ申し分ないものの着座位置が高めなのが気になった。
そして実際に走らせると、オープンの状態で一般道や高速道路をゆっくり流している分には、細かな路面の凹凸をしなやかにいなし、車体をフラットに保ってくれるため、快適に走ることができる。
だが電動開閉式ルーフを閉めた状態でタイトなワインディングを走ると、大きな凹凸でサスペンションがバタつき不安定になるとともに、強烈な突き上げを乗員にもたらす傾向が顔を出す。ベース車の時点でボディ・シャシー剛性が極めて高く、追加の補強を必要としなかったS660モデューロXに対し、コペンGRスポーツは補強を追加してもなお剛性が不足しているのを露呈した格好だ。
また重心は明らかにS660モデューロXより高く、かつ操舵と駆動を前輪のみに頼るFF車ということもあり、タイヤの限界が訪れるのも早い。そしてブレーキの制動力が踏み始めも奥の方でも絶対的に不足しており、速度と荷重のコントロールが非常に難しい。また剛性や容量も不足しているのか、ジャダーやフェードの兆候が早々に現れたのも気になった。
さらに、KF-VET型直列3気筒ターボエンジンはスイートスポットが3000~5000rpm付近に限定され、そこから外れた時の加速の落ち込みも大きいため、マニュアルモードを駆使しても速度のコントロールは容易ではない。また12Nmという数値以上に、S660モデューロXよりも加速力が弱い印象を受けた。
このように、走りに関してはS660モデューロXの圧勝と言わざるを得ない。しかも、ベース車の時点で少なくない差があったものが、両車ともチューニングを受けたことで、その差がより一層広がっている。コペンGRスポーツはブレーキに手が加えられていないことを差し引いても、なおそのギャップは歴然としている。
だがベース車の時点で、コペンがS660に対し明確に勝っている所がある。それは、荷物の積載能力と、オープン走行時の爽快感だ。
コペンには電動開閉式ルーフを格納してもハンドバッグが、展開すれば9インチのゴルフバッグ1個を斜めに積めるトランクがあるものの、S660にはトランクそのものが存在しない。強いて言えば脱着式ソフトトップの収納BOXがそれに当たるが、背の低いスーパーマーケットの買い物袋なら辛うじて3個ほど入るか、という程度の“ウナギの寝床”だ。
そしてコペンは、着座位置に対しドアパネル上端が低く平らで、後方のロールバーも小ぶり。ウィンドウフレームは傾斜こそ強いものの眼前に迫るほど近くはないため、開放感は大きい。また、サイドウィンドウを上げれば風の巻き込みが減り、高速域でも爽快なオープンエアモータリングを楽しめる。
しかしながらS660は純粋なオープンカーではなく、ロールバーを兼ねたBピラーが明確に存在するタルガボディだ。しかもそのロールバーが乗員の頭上にあり、S2000より低い重心高を実現するため全高が1180mmに設定されている影響で、身長176cm・座高90cmの筆者では後頭部が常に当たる。
そのうえドアパネルは高く後ろ上がりで、目の前にあるウィンドウフレームは傾斜も強いため開放感は皆無。そして何より、サイドウィンドウを開けても閉めても、走行中の風の巻き込みは強烈だ。
これでは一体、何のためのオープンカーなのか。S2000も現役当時しばしば「限界領域でなければ楽しめない」「クーペで良かったのでは?」などと評価されたが、10年以上S2000に乗り続けている筆者はこれらに対し「No」だと断言できる。しかしS660は、限界領域でなくとも楽しめるが、オープンカーである必然性はゼロと言っていい。むしろクローズドにした方が空力に優れ、より運転に専念できるのは間違いない。
身長170cm以下、座高85cm以下で、かつオープンエアモータリングと最低限の積載能力を求めない読者には、迷うことなくS660モデューロXをオススメする。だが、前述の四条件を一つでもクリアできないならば、コペンGRスポーツの方が良いだろう。そして、四条件を一つもクリアできない筆者が選ぶのは、やや消去法的ではあるものの、やはりコペンGRスポーツの方だ。ただし、LSDが標準装備される5速MT車の方ではあるが。
■ダイハツ・コペンGRスポーツ
全長×全幅×全高:3395×1475×1280mm
ホイールベース:2230mm
車両重量:870kg
エンジン形式:直列3気筒DOHCターボチャージャー
総排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6400rpm
最大トルク:92Nm/3200rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ:165/50R16 75V
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:19.2km/L
市街地モード燃費:15.2km/L
郊外モード燃費:20.5km/L
高速道路モード燃費:20.6km/L
車両価格:238万円
■ホンダS660モデューロX
全長×全幅×全高:3395×1475×1180mm
ホイールベース:2285mm
車両重量:850kg
エンジン形式:直列3気筒DOHCターボチャージャー
総排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6000rpm
最大トルク:104Nm/2600rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前後:マクファーソンストラット
ブレーキ 前後:ディスク
タイヤサイズ 前/後:165/55R15 75V/195/45R16 80W
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:20.0km/L
市街地モード燃費:15.2km/L
郊外モード燃費:21.1km/L
高速道路モード燃費:22.3km/L
車両価格:304万2600円
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