フィアット・パンダ デザインを読み解く「たたみ4畳のコンパクトな大物」
- 2020/06/17
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CAR STYLING編集部 松永 大演
フィアット・パンダの全長はわずか3.6mちょっと。トヨタ・ヤリスが4mにやや及ばない程度だが、それよりも30cmも短い。できるだけ小さいサイズで、存分に満足できる車を提供するのがフィアットだ。この考え方は初代フィアット500=トポリーノの時代から全く変わっていない。ここでは、現行パンダのデザインから見た真実を読み解いてみよう。
パンダといえば高い利便性
世界があっと驚いた初代パンダも、ミニマリズムの発想で縦横にアイデアの手腕を見せつけた車だった。合理的な生産性を考えながらもスタイリッシュな造形を生み出したり、新たな素材を使ったり、そして過去の技術に学んだりと時空を超えた提案が盛り込まれた。そのあたりにもジウジアーロ氏が“鬼才”との異名を手に入れた一因があるかもしれない。
そんななかで、合理性ばかりがパンダの特徴と捉えられがちだが、実際には使い勝手の良さにも秀でていた。
布張りのダッシュボードは全幅分のトレイを持ち、小物を入れ放題。極めて薄いハンモック式のシートは、取り外して外でも使えるし、後席は折りたたみ方が自在。座面先端を持ち上げることで、シートで囲まれるV字型の空間を作り、スイカなど転がりやすいものをそのまま乗せることもできた。前席と併せて、フルフラットだって実現した。こんな小さいのに、こんなに何でもできる! その嬉しさや愛しさが、イタリアン・コンパクトの魅力として光ったのだ。
コンパクトなサイズに存分な魅力を満載
実はその“何でもできる”という可能性を、わずかなサイズのなかでさらに伸ばしたのが2代目や現行型となる3代目のパンダの特徴だ。初代の途中で追加された4x4モデルはその後の2代目の有力なアイテムとなり、現行モデルではFFと4WDを揃えながら、クロスオーバー的存在感を全面に押し出している。
最新モデルの全高1550mmというプロポーションは、イタリア都市内の狭い街路を振り回しても不安のない高さ。それでも、アップライトな着座姿勢によって室内は大きく使える。
インパネ周りは、2代目譲りの独特の空調の操作系配置を継承した上で、インパネシフトとして、脚周りを広くし、さらに大きな前席シートを配置することを可能としている。
荷室の床下収納構造もあれば、後席シートバックを倒せばフラットで扱いやすい大きな荷室を実現するなどのアイデアを織り込む。
リヤコンビランプをリヤピラー位置に集約することによって、リヤゲートをできるだけ広く開くようにした上で、ピラーの造形も直立に近い部分をできるだけ上まで伸ばすなど、実質的にたくさん積める構造に配慮している。
長さ3.6mちょっと、幅1.7m未満というと、たたみで考えるならば、ほぼ4畳以内という小ささ。そのなかで、本当に小さいのにすごく使える、を実現したのが現代のパンダだ。
エクステリアは車の狙いを明確化する
さらにエクステリアのプロポーションによって、何でもできる能力をより印象付けるものとしている。
ここでエクステリアデザインを、先代からの流れとして解説してみよう。
2代目から生まれたマルチパーパスのスタイルは、やや背が高く直線基調で極めて安定した佇まいを見せたものだった。また、独特のサイドウインドウグラフィック(サイドウインドウの形)が、その機能性の高さを主張する。
大きな前後のサイドウインドウは、出かけるのが楽しくなるような明るくて見晴らしの良さを印象付ける。さらにサイドウインドウに続く荷室部分をウインドウとする、シックスライトとすることで室内を広く感じさせる。
シックスライトを形成しているリヤピラー部分のウインドウは、サイドウインドウに対して小さくしていることで、ある種のリズムを感じさせる。その上重要なことは、居住空間とは別の空間の存在を示していることだ。居住エリアとは分けられた荷室の存在感を主張することが、パンダとしてのメッセージになっている。
3代目の現行モデルは動感豊かに変身
そして2代目の人気によって、3代目もスタイルを継承することになった。しかし次なる3代目は、さらなる主張を加えた。
2代目が持ち合わせていなかったものとして、活発さ、力強さ表現したことだ。広く扱いやすい室内を持ち、仕様によってはかなりのラフロードも走破できる能力を持ちながらも、2代目の基本的デザインはおとなしいコミューター的な形を持っていた。若干ビジネスライクで、タクシーとしても使っても似合うほど。
それを本来の機能を表現するべく、もっとアクティブに、パーソナルなTシャツ&ジーンズのような私服に着替えさせた。
内側に持っている力強さや頼もしさを、筋肉質なボディとして表現。2代目と3代目を比較してみれば、3代目は柔らかな形状を纏うが、それをファットだと感じる人は少ないだろう。削ぎ落とせる部分をそぎ落としながら、力の象徴となるタイヤを支えるフェンダーをがっしりと見え、筋肉質だ。高めに設置したヘッドライトと、ヘッドライトから続くボンネットの立体感。大きなバンパーと、付随する大きなインテーク。ボディをしっかり守ってくれそうなプロテクターなど、力強さに併せて、万全なプロテクトも備えた。
本国では、よりアクティブな様々な仕様も登場したが、パンダの世界観をさらにアウトドアに広げることができたのも、この新しいデザインに追うところが大きい。
これら内外の構成によって、ここには狭小住宅に見るセンスのいい機能的アイデアが詰まった感じ。狭いけど、こんな家なら使いやすそう、ちょっと住んでみたいな、と思わせる雰囲気を車で具現化して見せるものとなった。
標準モデルであっても、ルーフボックスやスキーキャリアをつけたり、ちょっとごついタイヤ&ホイールをつけてみたりするだけで、すぐに冒険仕様となってしまうのがパンダ。遊び行きたくて仕方ない、そんな形の実現も十分な成功を得ているようだ。
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