トヨタ新型ハリアー(ガソリン仕様):第3世代に進化したパワーステアリングがハリアーの乗り味を決定づけている。ガソリンモデルも悪くない
- 2020/07/19
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世良耕太
トヨタの新型ハリアーは、ステアリング・フィールが秀逸だ。電動パワーステアリング(EPS)の味付けが第3世代へ進化しているという。お世辞抜きで現在のEPSでトップ級。重すぎず軽すぎず手応えがいい。これはHEV仕様もガソリン仕様も共通だ。モーターリングライターの世良耕太がハリアーのガソリン仕様(FF)に試乗した。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
転舵したときの感触がいい
見る目が変わるとはこのことだ。「売れている」とは聞いていたが、新型ハリアーに乗ってみるまで、このクロスオーバーSUVにはほとんど無関心だった。目の前を通り過ぎても、目で追うことはしなかった。でも、いまは違う。新型のステアリングを握ってみて、印象はがらりと変わった。クルマは乗ってみるもの、である。
「ステアリングを握ってみるまで」というのは例えでもなんでもなく、文字通りの意味だ。ステアリングホイールの握り心地のことを言っているのではなく(もちろん、悪くはないが)、転舵したときの感触がいいのだ。いや、もっといえば、直進時、ステアリングに手を添えているだけの状況も含めてフィーリングがいい。
「これはいいゾ」と感じたのは、駐車スペースで走り出し、出口に向けて軽く舵をあてたときだ。手応えがある。当たり前の話だが、その手応えがとてもいい。軽すぎないし、重たくもない。ステアリングを握る手と路面に接したタイヤに乖離がなく、1600kg級のクルマをメカニカルに動かしている確かな感触がある。筆者は新型ハリアーに乗って、「いいクルマだ」と実感したが、理由の大部分は、気持ちのいいステアリングの感触による。
もちろん現代のクルマゆえ、電動パワーアシスト機構付きだ。ラックパラレル(平行軸)式電動パワーステアリングである。ラックケースと平行にアシストモーターを配置し、ベルトドライブでモーターのアシスト駆動力を伝える。大きなラック推力を必要とする重量級向けで、機構上、フィーリングが良いとされる方式だ。
だが、ラックパラレル式EPSを採用したから自動的にフィーリングが良くなるわけではない。肝心なのは味つけだ。聞けば、新型ハリアーが搭載するEPS(電動パワーステアリング)は第3世代だという。そう聞くと、第1世代と第2世代が気になる。「第1世代は10年くらい前?」と勝手に見当を付けたのだが、とんだ見当違いだった。
第1世代は現行プリウス(2015年12月発売)とC-HRだという。つまり、最新のTNGAプラットフォームが登場してからの話だ。5年足らずの間に第3世代になっているのだから、急速に進化していることになる。プリウス/C-HRのEPSはコラムアシスト式なので、「世代」はアシスト方式とは関係ない。トヨタの考える理想に近づいているかどうかだ。第2世代はクラウン。第2.5世代はカローラ・セダン。そして、第3世代はハリアーとRAV4 PHVだ。
こだわったのは「直結感」だという。運動性能のすべてに関わる部分の評価を担当する片山智之氏(トヨタ自動車株式会社 凄腕技能養成部 FDチームグループ GX 匠)に話を聞いた。「匠」はテストドライバーのトップガン(最高峰)である。
「直結感とは例えば、ほとんど真っ直ぐの状態でも、いいクルマはステアリングとタイヤの直結感を感じるよね、と。かつてはそこを出そうとしたときに、実験チームのなかで思いは通じても、設計チームには届かなかったのです。チューニングできるところとできないところが設計要件で決まっていたからでした。3年ほど前に実験チームと設計チームが同じ組織になったので、垣根を切り崩してチューニングしました」
ハードの話ではなくソフトの話だ
「テストコースで100km/h出してという状況ではなく、コースに出る前のパーキングで0〜20km/hで走っているときの話です。第1世代では戻し側がまだ足りないという意識があり、第2世代でそこに手を打ちました。ただ、まだニュートラル付近は満足できず、そこに着目したのが第3世代です」
「まだまだ」と謙遜するが、最近のトヨタは、新しいクルマが出るたびに、どんどん走りが良くなっているのを実感する。走りといっても限界付近の話ではなく、駐車場の中を移動したり、一般道をスーパーマーケットに向かって走ったりといった、ごく当たり前の日常領域での走りのことだ。走りを支えるダンパーにも、改革の手が入っている。
かつてのトヨタなら、ハリアーとRAV4という同じプラットフォーム(最新世代はGA-Kプラットフォーム)を共用する車種の場合、同じ素材を使って力ずくで味つけを変えていたのだという。「それじゃだめだ」という主張が受け入れられるようになり、車種ごとに素材を変えることができるようになったという。
「ポイントは、極微低速です。今まで計測していた桁よりひとつ下の領域まで見ることで、しなやかさと運動性能の両立を図っています」
結局のところ、トヨタ車の走り(繰り返すが、限界領域のことだけを言っているのではない)が矢継ぎ早に良くなっているのは、豊田章男社長の大号令によるものだ。「豊田章男はオーナーシェフで、僕ら(匠)はコック長のようなもの」と片山氏は説明する。『いいクルマを作ろう』という掛け声を匠なりに咀嚼し、メニューを考案して味を決める。最近のトヨタはどれもいい味を出しているが、レストランでもメニューによって料理に変化があるように、ハリアーとRAV4では味つけが異なる。しかし、「レストラン・トヨタ」の味であることに変わりはない。「なんだよ、何食べてもみんなカレー味じゃないか」ってことにはならない。そこも含めて、ウマイ。
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