CO2フリーのレース!燃料電池車による新シリーズ 2023年にドイツでスタート、25年には世界で。その名は「HYRAZE LEAGUE(ハイレイズ・リーグ)」
- 2020/08/19
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世良耕太
HWAは8月18日、ドイツ・シュトゥットガルトでオンラインプレゼンテーションを行ない、新しいレースシリーズの立ち上げを発表した。その名は「HYRAZE LEAGUE(ハイレイズ・リーグ)」である。「HYRAZE」は、HYDROGEN(ハイドロジェン=水素)とRACING(レーシング)、ZERO EMISSION(ゼロエミッション)を組み合わせた造語だ。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota)
ネーミングが示すように、競技に用いる車両は燃料電池車だ。車載タンクに搭載する水素を空気中の酸素と反応させて発電し、その電気でモーターを駆動して走る。各輪にモーターを備える車両の最高出力は800hp以上を想定。パワーウエイトレシオは2kg/hp以下、トップスピードは250km/h以上で、0-100km/h加速を3秒以下でクリアするパフォーマンスを見込んでいる。
HYRAZEリーグで用いる水素は「100%グリーン」を想定している。再生可能エネルギーなどを利用して精製したCO2フリーの水素ということだ。これを最大700bar(70MPa)の高圧水素タンク2本に貯蔵する。競技車両は減速時に回生したエネルギーを蓄えるバッテリーを搭載。減速時のエネルギーの大部分を回生でまかなうことで油圧ブレーキの負担が減り、ダストが減るとしている。
さらに、発生したブレーキダストは大気に放出せずいったん車内に取り込み、環境に中立な状態にして排気する考えだ。車体製作にあたってはカーボンファイバーを使わず天然繊維のコンポジットを使用することで、CO2フットプリントを減らすプランである。シャシーは当面共通とし、空力的な制限を設けながらも、ボディは参戦チームが独自にデザインできる決まりとする。
コース上での追い越しシーンを増やす狙いから、ダウンフォースはあえて不足気味にする方向で考えている。ダウンフォースが不足するとブレーキング距離が伸びることになるが、モーターの発電機能を利用した運動エネルギー回生の観点からは好都合だ。
HWAはAMGの創設者のひとりであるハンス・ヴェルナー・アウフレヒト(Hans Werner Aufrecht)が1998年に立ち上げた、レースとハイパフォーマンスカーを扱うエンジニアリング会社だ。2018年まではDTMに参戦していた(もちろん、走らせていたのはメルセデス・ベンツ)。2019/2020年のシーズン6からは、フォーミュラEに参戦するメルセデス・ベンツのチーム運営を担当している。また、2021年からの開始を予定するエクストリームE(フル電動SUVによるアドベンチャーレースシリーズ)への参戦も表明済みだ。
車両のコンセプト立案やキーコンポーネントの開発およびエンジニアリングはHWAが担当。競技の運営に関してはDMSB(ドイツモータースポーツ連盟)とADAC(ドイツ自動車連盟)が協力。安全面に関してはDEKRA(車両検査機関)とDMSBが協力する。
モーターや燃料電池など、車両のキーコンポーネントに関して技術を提供するのは、メガサプライヤーのシェフラー(Schaeffler)だ。HYRAZEリーグの競技車両はステア・バイ・ワイヤー・システムを搭載する予定だが、この技術を搭載することにしたのは、量産車が適用する自動運転技術への技術のフィードバックを見込んだものだ。また、トルクベクタリングの技術に関しても期待を寄せている。
HYRAZEリーグは、リアルのレースとeスポーツのリンクを計画しているのも特徴だ。チームは1台あたり2名のドライバーを登録。そのうち1名はリアルなレースに参戦し、もう1名はeスポーツイベントに参戦する。リアルなレースとeスポーツイベントの双方のポイントが、シーズンのランキングに反映する。どちらか一方だけ優秀でも好成績につながらない仕組みだ。eスポーツ部門のシリーズパートナーには、WESA(世界eスポーツ協会)がついている。
HYRAZEリーグは2021年に車両開発に着手し、2022年にテストを実施する予定。2023年にまずはドイツでシリーズをスタートし、2025年には世界各地でのレースシリーズ立ち上げを目論む。「環境と若者」をキーワードにした新しいレースシリーズは、モータースポーツの新しい潮流となるだろうか。関与している団体や企業の顔ぶれを見ると、本気度が伝わってくる。
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