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【DS7クロスバック試乗】驚きの仕掛けと独特のセンス。これは日本人には作れないクルマだ!

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2014年に分社化されたDSオートモビルのフラッグシップ、DS7クロスバックは個性の塊だ。まずはエクステリアで目を引き付けられ、乗り込めばインテリアの仕掛けに驚かされる。エスプリの効いたクルマ選びをしたいなら、候補リストの最上位にランクされる1台である。

TEXT●安藤眞(ANDO Makoto)

フレンチラグジュアリーを謳うDSのフラッグシップSUVがDS7 クロスバック

“DS”と聞いて何を思い浮かべるかで、クルマオタクの度合いが測れる。任天堂のゲーム機なら「普通の人」。フランスの旧車、シトロエンDSを思い浮かべた人は、相当なクルマオタクと言って良いだろう。後輪をフルカバーした空力ボディや、エンジンを止めると猫が座るかのように車高の下がるハイドロニューマチックサスペンションなど、当時(1955年)のクルマの中では異次元ともいえる存在だった。

1955年に登場したシトロエンDS。先進的なデザインとメカニズムで、世界に衝撃を与えた。

DSは1976年に生産を終了し、しばらくその名前を途絶えさせていたが、2009年にコンパクトハッチバック車のシトロエンDS3として復活。シトロエンのプレミアムモデルを担うサブブランドとして再スタートを切った。

DSはその後もモデルを追加してシリーズ化するかに見えたが、14年にはDSブランドそのものを分社化して“DSオートモビル”を設立。企画やデザイン、開発や販売をシトロエンブランドから分離することで、コンセプトをより純粋に追求する方向へと踏み出した。

ブランドコンセプトは、「フランスの高級車を、もう一度フランス人の手で」というもの。フランスの伝統的ラグジュアリー文化を自動車産業に注入し、フランスならではの高級車を再興することを目標としている。

そのDSオートモビルの自社開発第一弾となったのが、DS7クロスバック。17年2月にジュネーブショーで公開され、日本には18年7月に上陸しているが、今回、改めて試乗する機会を設定していただいた。

DSウインググリルと呼ばれる、左右に広がる大きなグリルが特徴。上級グレードのGrand ChicはLEDヘッドライトを採用、6つの配光モードを自動制御する機能も備わる。

「改めて」と書いたものの、僕はこのクルマに試乗するのは初めて。なので、まず概要を把握しておこう。ボディサイズは全長4590mm×全幅1895mm×全高1635mm。全長と全高は国産のミディアムクラスSUVと変わらないが、全幅が特異に広い。

プラットフォームはグループPSAのEMP2。シトロエン車でいえば、C5シリーズと同じ系統となる。

全長4590mm×全幅1895mm×全高1635mmというスリーサイズ。国産車だとトヨタRAV4が比較的近い大きさだ(RAV4は全長4600mm×全幅1855mm×全高1685mm)

搭載されるエンジンは、2.0Lディーゼルターボと1.6Lガソリンターボの2種類。今回、割り当てられたのは後者で、パワースペックは165kW(225ps)/300Nm。これをアイシンAW製の8速ATを介し、前2輪を使用して地面に伝達する。4WDは用意されず、SUVというより“乗降性と見晴らしの良いプレミアムワゴン”といった趣だ。

エンジンは試乗車の1.6L4気筒ターボのほか、2.0L4気筒ディーゼルターボもラインナップ。トランスミッションはいずれもアイシンAWの8速ATが組み合わされる。

外観は意外とスッキリ上品。シトロエンの上級ブランドと聞くと、アールヌヴォーを現代風にアレンジしたアヴァンギャルドさを連想してしまうが、デザインの基本はアールデコ。直線を基本とした幾何学模様の組み合わせで“魅せる”手法を使用している。

カメラとミリ波レーダーの組み合わせによる、全車速追従式のACCを標準装備。前車が完全停止したのち、3秒以内に再発進すればアクセル操作なしで追従してくれる。

ドアを開けて最初に目に飛び込んでくるのが、シートの造形。高級時計の金属ベルトにインスパイアされたというデザインは、1枚の革をブロック状に縫い分けている。座ったらゴロゴロしそうだな、と思ったが、予想に反してヒタッと柔らかく体を包むフランス車らしいシートだった。

ナッパレザーのシート表皮は時計のブレスレットをモチーフにしている。

内装も幾何学パターンを組み合わせたアールデコ調。細かく説明するより、ディーラーで実車を見ていただいたほうが良いのだが、フロアコンソールの銀色加飾部はクルドパリ(パリの石畳)文様だそう。18世紀に活躍したスイスの時計職人ルイ・ブレゲが、文字盤に陰影を与えることで針を目立たせるために考案したものだそうだが、こうした「語れるウンチク」を備えているのが高級ブランドには必要な資質。国産車も寄木細工や漆の研ぎ出し技法を取り入れればいいのに。

メーターは12.3インチの液晶モニターで、センターにも8インチのタッチ式モニターが備わる。
シフトレバー周りのクローム部分には「クルドパリ」加工が施される。
レザーには真珠の粒のように極小のステッチだけが残される。

エンジンをかけようとして、いきなり洗礼を受ける。シトロエン系なので覚悟はしていたが、エンジンスタートボタンが見当たらないのだ。よくよく探すと、普通ならハザードランプスイッチのあるような位置にあった。

やれやれ、とエンジンをかけると、スイッチの上に、アナログ時計がニュッと顔を出した。しかも高級ブランドB.R.Mだ。僕は走る性能と関係ないギミックはあまり好みではないのだが、エンジンを始動するとクルマがリアクションを返すのは、ハイドロニューマチックサスペンションの油圧が立ち上がって車高が元に戻る本家DSの様子を思い起こさせ、思わず口元が緩んでしまった。

ダッシュボード中央上部にはスタータースイッチを配置。回転式のB.R.M製アナログ時計がドライバーを出迎えてくれる。「サヴォア・フェール」と呼ばれるフランスの匠の技をクルマのインテリアに取り入れようという試みのひとつだ。

それ以外の操作系には特殊なところはなく、モダンな電子式シフトセレクターでDレンジを選んで発進。1590kgの車重に1.6Lエンジンだが、発進から高速の合流までトルクのツキは良く、不安も不満も覚えない。そもそも300Nmという最大トルクは、前2輪で伝達するにはほぼ上限。これ以上あっても、砂の浮いた路面程度でも頻繁にトラクションコントロールが介入して不愉快になるのが関の山だ。

乗り心地はソフトでしなやか。特に、“アクティブスキャンサスペンション”を作動させると(ドライブモードで“コンフォート”を選択)しなやかさが増す。フロントカメラで前方5〜25mの路面の凹凸を検出し、車輪が通過するタイミングで減衰力を緩める装置なのだが、ワイドトレッドが効いているせいか、操舵応答性が甘くなることはない。

ちょっと残念なのは、タイヤの硬さが感じられること。特に減衰力全体が低くなるコンフォートモードになるほど目立ちやすい。タイヤを見ると、235/45R20という大きくぺったんこのものが付いており、指定空気圧も前250kPa/後240kPaと高めの設定。銘柄もグッドイヤーのイーグルF1と、勇ましいものが選択されていた。

TOKYOと名付けられたデザインの大径ホイールは確かに格好いいし、プレミアムブランドには見栄えも大事だ。でも20インチホイールは、オプションでも良かったのではないかと思う。わざわざTOKYOと名付けているのは、クルドパリ向きではないからなのか? と見るのは意地悪か。

Grand Chicに標準の20インチアルミホイール。

後席の居住性にも触れておくと、身長181cmの僕が運転席スライドを合わせた状態で、ヒザの前も頭上も余裕は80〜90mm(大きめスマフォの短辺ぐらい)。ただし前席下にはつま先が半分ぐらいしか入らないので、少しヒザが持ち上がった“体育座り”っぽくなり、「ゆったりひろびろ」という感じではない。180cmが前後に座れるのだから文句はないとはいえ、前席下に足が入るかどうかで、ずいぶん印象は変わるものだ。シートの掛け心地が良いだけに、細かい部分が気になるのかも知れないが。

身長165cmの編集部員が座ると、頭上や膝周りには余裕が感じられて居住空間に不満はなかった。

そんなDS7クロスバックの車両本体価格は589万円(オプション込みだと675万6500円)。同じ価格で「誰でも知っている定番車」を買うよりも、楽しく刺激的な日常を楽しめると思う。

見た目はエキセントリックだが、ユーティリティを犠牲にしていないのがDS7 クロスバックのいいところ。荷室は広々として使いやすい。
後席の背もたれを前倒しするとご覧の通り。

DS7 クロスバック GRAND CHIC 諸元表

■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4590×1895×1635mm
ホイールベース:2730mm
車両重量:1570kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.4m
燃料タンク容量:62L(無鉛プレミアム)

■エンジン
形式:水冷直列4気筒DOHCターボ
排気量:1598cc
ボア×ストローク:77.0×85.8mm
圧縮比:10.2
最高出力:165kW(225ps)/5500rpm
最大トルク:300Nm/1900rpm
燃料供給方式:筒内直接噴射

■駆動系
トランスミッション:8速AT

■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rディスク
タイヤサイズ:235/45R20

■価格
589万円

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