歴史に残るデザイン 覚えてますかフォードka(カー) 第32回東京モーターショー 2/2【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】
- 2021/01/22
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荒川 健
1997年は会場の雰囲気が大きく変わった。各ブースには初めて商用車が加わり大型トラックやバスなども乗用車の奥に展示され、それぞれのメーカーの全容が一目でわかるようになったのだ。また、国際展示場での消防法の基準が変わりヨーロッパのショーと同様にブースの2階部分の使用が可能になり、海外からのジャーナリストや顧客向けの軽食サービスが解禁になった。
世界の5大モーターショーの中で最も遠く離れた地球の反対側なのにもかかわらず、当時注目度はトップクラスで、前回取り上げたように、マイバッハのお披露目も東京モーターショーが選ばれたのだ。
フォードKaはカッコ良すぎ? カワイすぎ?
そして第32回には歴史に残るグッドデザイン・カーが登場している。
フォードKaだ。「これがジドウシャだ!」という意味合いが込められたネーミングで、1996年のパリ・サロンに登場し世界中が注目した。
とにかくぶっ飛んだデザインで多くのカーデザイナーが、“考えるデザイン”の大切さみたいな啓蒙を受けた。少なくともなにがしかの影響を受けたのは私だけではなかったはずだ。
ディメンションが凄い。大人4人が移動するのに最小の室内空間を設定し、ベースである一回り大きいフィエスタのフロアに乗せたのだから面白い。
末広がりに目いっぱいタイヤを四隅に踏ん張ったカタチになるのは当然で、後年のディズニーアニメ「カーズ」のキャラクターとしてこのまま登場してもおかしくないデザインだ。
合理性の中に光る造形の面白さ
デザインの特徴として最初に述べたいのはボンネットのパーティングラインをまっすぐフロントグリルにぶつけていることである。そして全体にわたり丸い立体造形にしたことにより、ヘッドランプをこのラインの外側に収めるアイデアは最高であった。
またリヤデザインもフロント回りと完璧に一致した処理でボディパーツを最小限にし、シンプルさに徹した完成度の高さはお見事と言わざるを得ない。
バンパー機能を備えた超大型のフロント及びリヤのPP製アンダーボディパーツは金型代などの製造コストは割高だが、一方で組み立て工数の低減によるメリットもあり、長い目で見れば進化型の設計デザインなのである。
デザインで付け加えるべきは、その丸さ具合の節度感である。ただ丸いのではない。ドアやフェンダーの断面カーブのピークに通るハイライトが計算し尽くしたベストの位置に綺麗に通り、したがっておむすびのような安定感と同時に、クルマの造形に不可欠な緊張感のある塊としての美しさを達成しているのだ。
コンセプトは“フォードの良心”が垣間見られて興味深かった。
とにかく安く作ることに徹して、1950年代から作り続けている1.3ℓのOHVエンジンを搭載し、先ほど述べたフィエスタのフロアを流用してコストのほとんどをデザインに振り分けたのだ。前年のパリ・サロンで登場するや物凄い反響で、とにかくデザインでは最高の評価を受けた。
しかし日本市場ではわずか2年での撤退とは
日本では1999年から発売されたが輸入車がエアコン付き150万円という価格には驚いた。しかも国産車をしのぐ質感の高い素材のインテリアは驚異的で、モダンなカジュアル感が新時代のカーデザインを印象付けていた。
しかしである。こんなに評価されたにもかかわらず、日本ではわずか2年で市場から消えてしまった。日本ではデザインが進みすぎていて、一部の人たちには熱狂的に支持されたが、性能面で劣るクルマという烙印が押されたのだ。
マニュアルミッションの60psといっただけで、日本ではバカにするメディアが当時存在した。そうした他人の意見をうのみにする国民性は今もあまり変わってはいないが、当時の自動車雑誌は絶対だった。
私は試乗車に乗ってみて驚いた。古いエンジン? 作り続けているのは故障が少なく長持ちするからで、レスポンスと振動や音が悪いのはOHVだから当然。クラッチに剛性感が有るため早く走りたい時はマニュアルミッションで高回転をキープした運転が実に楽しい。つまり本来の運転の楽しさが味わえる貴重なクルマだと感心したのだ。
タイヤが四隅に踏ん張っているせいもあり、きびきび感が抜群で、当時だいぶ前に手放したアウトビアンキA112アバルトに似ていて懐かしんだ記憶を鮮明に覚えている。
個性が無く平均的で癖の無い無難なクルマがベストセラー車の条件である日本では、こんなにカッコよくて安くてもカタログ性能が良くないと“受け入れてもらえない”という前例を作ったモデルとなってしまったのはとても残念である。
ちなみに欧州では2008年まで販売され、フォードの最小機種ということでロングセラーの人気車なのであった。
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