ノート用よりも高性能化されたe-POWERで、Sハイブリッド車に対し燃費・動力性能とも大幅アップ 〈日産セレナe-POWER 800km試乗〉その魅力は常時モータードライブだけではない! 長距離多人数乗車でもほぼ不満を抱かない完成度の高さ。
- 2019/07/20
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遠藤正賢
日産の国内販売においてノートに次ぐ看板モデルであるとともに、シリーズハイブリッドシステム「e-POWER」の設定車種となったことで、ますますその地位を強固なものとした、5ナンバーサイズの背高ミニバン・セレナ。2018年2月に追加されたその「e-POWER」搭載車の最上級グレード「ハイウェイスターV」に乗り、日産本社のある横浜市内から首都高、東名、中部横断道を経て身延山(山梨県南巨摩郡)付近に立ち寄り、清里高原(山梨県北杜市)に至る、往復約800kmをドライブした。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢/日産自動車
SUVの大流行とミニバンの衰退は、両者を掛け合わせたクロスオーバーモデルが増え続けている東南アジアを除き、全世界的なトレンドとなっている。しかしながら、かつてミニバンブームの火付け役となった日本において、ボクシーなスタイルで室内が広い背高タイプだけは、今なお販売台数ランキングの上位を占める人気のジャンルだ。
【ミニバン販売台数】(出典:日本自動車販売協会連合会「乗用車ブランド通称名別順位」2019年1~6月実績(抜粋))
日産セレナ 5万3662台
トヨタ・シエンタ 5万926台
トヨタ・ヴォクシー 4万7836台
ホンダ・フリード 4万5548台
トヨタ・アルファード 3万5265台
ホンダ・ステップワゴン 2万9295台
トヨタ・ノア 2万9155台
トヨタ・エスクァイア 2万2284台
トヨタ・ヴェルファイア 2万762台
三菱デリカD:5 1万1924台
ホンダ・オデッセイ 7887台
この中で、実質的にはともあれ額面上は直近の販売台数ランキングでトップに輝いているのが、日産セレナである。現行五代目(C27型)のデビューは2016年8月。当初は2.0Lガソリン車と、それに鉛バッテリー2個を組み合わせた「Sハイブリッド」車しかなく、発売後もヴォクシーとシエンタの後塵を拝していた。だが、e-POWER搭載車の発売によって状況は一転。2018年暦年および年度の双方で、ミニバンセグメントにおいてランキングNo.1を獲得している。
そんなセレナe-POWERに搭載されるパワートレインは、ノートe-POWERの高性能版というべきもので、EM57型モーターは最高回転数を10000rpmから11000rpmにアップし、インバーターの内部素子を強化。VCM(車両コンピューター)と駆動用リチウムイオンバッテリーコンピューターもチューニングが変更され、最高出力が109psから136ps、最大トルクが254Nmから320Nmとなった。なお、発電のみ行うHR12DE型直列3気筒エンジンも、最高出力が84psとなっている。
今回試乗した「e-POWERハイウェイスターV」の車重は1760kgに及び、これに大人の男性1~4人が乗車したが、1人の時はもちろん4人乗車でも、またドライブモードを「ECO」にしても、過不足ない加速性能。逆に言えばSハイブリッド搭載車は、燃費を重視するあまり意図的に緩慢なアクセルレスポンスとされたため、1人乗車時でも決して性能に余裕があるとは言いがたいものだったのだが。
ただし、清里付近の急な上り坂が多い道などでアクセルを開け続け、バッテリー残量計の目盛りが1/4以下に達すると、充電のためエンジンが高回転域をキープするとともに、モーターへの電力供給が減って加速が鈍化。音の変化がなく耳につきやすいエンジン音が車内を満たすとともに燃費も急激に悪化する。
逆に満充電になると、アクセルオフ時の回生ブレーキが強まるとともに完全停止まで作動する「ECO」および「S」モードでも、回生による制動力が大幅に弱まる。そのため良い燃費と快適な走りを維持するには、他のハイブリッドカー以上に賢いエネルギーマネジメントが求められる。
だが、この状況を除けば、セレナe-POWERの走りはいたって快適。フロントまわりを中心に静粛性が大幅に強化されたのに加え、タイヤサイズもSハイブリッド車「ハイウェイスターG」の195/60R16 89Hではなく195/65R15 91Sとなったことも相まって、荒れた道でも突き上げは少なく静かで、後席の住人とも大声をあげることなく会話を楽しめた。
日産セレナe-POWERの使い勝手を徹底チェック!│ミニバンレビュー
パワートレーンが違うだけ……ではないのがe-POWERの使い勝手だ。運転席まわりを変更しているほか、2列目が左右独立のキャプテ...
またシートも、1列目と2列目は身長176cm・座高90cmの筆者には若干小さめではあるものの、クッションに弾力がありフィット感は良好。往復800km、12時間近い走行を経てもなお、疲労感は思いのほか少なかった。
これは、クイックではないが鈍くもなくリニアで、身延山付近のワインディングを走行しても操縦安定性に優れるハンドリングも功を奏しているのだろう。ただし、1人乗車の時が最もバランスが良く、人数が増えるにつれてその重さに神経を遣う必要が増していくため、多人数乗車が前提のミニバンとしてはセッティングの方向性に疑問を抱いたのも事実だ。
なお3列目は、窮屈というほどではないもののやはり狭く、シートサイズも小さく平板で、長時間乗車はできれば避けたいというのが本音。その代わりシートアレンジは極めて容易で、説明書きを読まずとも軽い力で容易に格納・展開することができる。
今回は往復約800kmの道中、霧雨や土砂降りの雨を含むほとんどの天候を経験したが、単眼カメラによる予防安全技術「プロパイロット」は、勾配が少なくカーブは緩く白線も明瞭で、周囲の交通量も少ないなど、道路自体の環境さえ良ければ機能停止しにくく、適切な走行軌跡と車間距離、速度を維持する傾向。だが、カメラの映像が不鮮明になりやすい霧雨だけは苦手らしく、加減速・操舵アシストとも機能停止する場面が度々見られた。
そして、ハイブリッドカーには不利な走行状況が大半を占めたにも関わらず、約800km走行後の総合燃費は15.6km/L。燃料タンク容量は55Lと決して大きくはないものの、辛うじて全行程を無給油で走りきることができた。
このようにセレナe-POWERは、重箱の隅を突くような細部を除けば不満を抱く点はほとんどなく、すでに極めて高い完成度を備えていると断言できる。これが今後のマイナーチェンジなどで、かえってバランスを崩すようなことがないことを祈るばかりである。
【Specifications】
<日産セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)>
全長×全幅×全高:4770×1740×1865mm ホイールベース:2860mm 車両重量:1760kg エンジン形式:直列3気筒DOHC 排気量:1198cc ボア×ストローク:78.0×83.6mm 圧縮比:12.0 エンジン最高出力:62kW(84ps)/6000rpm エンジン最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3200-5200rpm モーター最高出力:100kW(136ps) モーター最大トルク:320Nm(32.6kgm) JC08モード燃費:26.2km/L 車両価格:340万4160円
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