クルマそのものはヴェゼルツーリングモデューロXの圧勝だが80万円弱の価格差を許容できるかが鍵 「まだ上があったのかよ」と驚かせるトヨタC-HR S-T“GRスポーツ”のシャシー性能。だがホンダ・ヴェゼルツーリングモデューロXはその上を行く【ワークスチューン ワインディング試乗インプレ3本勝負】
- 2020/03/30
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遠藤正賢
自動車メーカー直系の社内カンパニーや関連会社が開発・販売を手掛ける「ワークスチューン」のコンプリートカーが、近年にわかに活況を呈している。ワークスならではの高いコストパフォーマンスとトータルバランスの良さを兼ね備えたニューモデルが、各社から続々と発売されている。
「ワークスチューン ワインディング試乗インプレ3本勝負」と題したこの企画、1本目はトヨタとホンダ、両社を代表するコンパクトクロスオーバーSUVをベースにした「C-HR GRスポーツ」と「ヴェゼルモデューロX」に、箱根ターンパイクなどで試乗した。
なお、今回テストしたのは、「C-HR GRスポーツ」が1.2L直4ターボエンジンに6速MTを組み合わせた「S-T」、「ヴェゼルモデューロX」が1.5L直4ターボエンジンにCVTを組み合わせた「ツーリング」の、いずれもFF車だった。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)/トヨタ自動車
「まだ上があったのかよ」
C-HRの“GRスポーツ”を走らせてすぐ、口からついて出たのはこの一言だった。
C-HRはベース車自体が、トヨタのクルマづくりの構造改革「TNGA(Toyota New Global Architecture)」に基づく軽量・高剛性・低重心の両立を目指したプラットフォーム第一弾「GA-C」をベースとしながら、トヨタとしては異例ずくめのこだわりとコストのかけ方で、欧州車に互するシャシー性能が与えられたモデル。
コンパクトSUVとは思えないハンドリングと乗り心地の良さ、クーペライクかつ極めて前衛的なスタイルで、2016年12月の発売直後より大ヒットとなり、2017年には国内登録車SUV新車販売台数1位(自販連調べ)を獲得したのは記憶に新しい。
それをさらに、2019年10月のマイナーチェンジに合わせ、トヨタのガズーレーシングカンパニーがトータルチューンしたのが「C-HR“GRスポーツ”」だ。「GR」シリーズの中ではライトチューン仕様に当たるものの、専用のフロントデザインにインテリア、225/45R19タイヤ&19インチアルミホイールを採用。合わせて前後サスペンションと電動パワーステアリングを専用セッティングとし、専用フロアセンターブレースを装着している。
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なお、C-HRの“GRスポーツ”は、今回のテスト車両である1.2L直4ターボエンジンに6速MTを組み合わせた「S-T」FF車のほか、1.8L直4エンジン+ハイブリッドの「S」FF車にも設定されているが、車重は前者の方が50kg軽い1400kg。しかも通常の「S-T」には用意されているCVTを敢えて設定せず6速MTのみとしているのも、その心意気や良し、だ。
とはいえベース車である「S-T」の215/60R17、あるいは上級グレード「G-T」の225/50R18タイヤに対しインチアップされ、それに合わせてボディ・シャシーも強化されていることから、「かえってベース車の良好なバランスが崩れ、乗り心地も悪化しているのでは」と心配していたのも事実。トヨタに限らず過去のコンプリートカーにはそんな残念なモデルも珍しくないだけに、それが試乗前の懸念材料の一つだったが、実際に乗ってみた第一印象は冒頭の一言の通りだった。
町中をゆっくり走らせても、固められたボディ・シャシーのおかげで操舵レスポンスはより一層鋭くなり、旋回中のロールは抑えられていることがすぐに体感できる。それでいながら荒れた路面でも、ロードノイズこそやや大きく感じるものの、振動や突き上げはベース車と同様に少なく、極上のオンザレール感を味わえた。
その時の心境を例えるなら、学年一の美人だった初恋の同級生に数年ぶりに再会したら、もっと美しく成長していた…そんな感動と驚きが、最も近いのではないだろうか。
そしてそんな印象は、ワインディングに持ち込んでも、比較的綺麗な路面をほどほどのペースで走っているうちは、全くと言っていいほど変わらない。ベース車の時点で備わっている重心の低さが功を奏し、タイトコーナーでもロール感は少なく安心して旋回できる。そのうえ前述の通りボディ・シャシー性能が底上げされているため、SUVどころか並みのセダンが太刀打ちできないほど爽快なハンドリングを楽しめた。
しかし、より限界に近い領域に差し掛かると、違った一面が顔を出す。大きな凹凸を乗り越えた際にはサスペンションがややバタつき、下り坂で強くブレーキングすると路面の凹凸に対し敏感に反応してリヤがふらつきやすくなる。しかもその揺れがすぐには収束しないため、不安定になった車体をなだめるのに少なからず苦慮したのが正直な所。そういう意味では良くも悪くも、このC-HRはあくまで「GRスポーツ」であり、限界領域まで想定した「GR」や「GRMN」ではない、ということなのだろう。
さてここで、ベース車と共通ではあるものの、今回のマイナーチェンジで追加された、8NR-FTS型1.2L直4ターボエンジン+6速MTの組み合わせについても言及したい。
筆者はこのパワートレインが搭載されたカローラスポーツに試乗した際、「煮ても焼いても食えない」と評しており、その印象が強く残っていただけに、率直に言ってこのC-HR S-T“GRスポーツ”に対しても、パワートレインに対する事前の期待値は非常に低かった。
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だが幸いにも、スロットル特性が変更されているのか、特に2000rpm以下でアクセルペダルを踏み込んだ初期の反応が“カローラスポーツよりは”良好に。さらに「ECO」「NORMAL」「SPORT」の3種類が用意されるドライブモードごとの差が少なくなり、「SPORT」がベストという点は変わらないものの、「NORMAL」でも町中を流す分にはストレスを多少は感じにくくなっている。
しかしながら、より深くアクセルペダルを踏み込んでいくと、ストロークの半分から先は、吹け上がりの早さ、パワーの出方にほとんど変化がないことに気付く。つまり、ただ単純に、アクセルペダルの踏み始めからスロットルバルブを大きく開いている、それだけのことだった。
そして6速MTは、カローラスポーツよりも大きいタイヤ外径に合わせるためか最終減速比が3.944から4.538へと低められているものの、その感触はほぼ変わらず。シフト、クラッチともストロークは長く操作力も軽いのだが、動きはスムーズで節度感もあり、誰にでも操作しやすい一方、アクセルペダルとブレーキペダルの間隔が前後・左右方向とも離れており、お世辞にもヒール&トーがしやすいレイアウトとは言い難い。
全体的にギヤ比が高すぎ、ブリッピング時の吹け上がりも非常に悪いため、シフトチェンジの際に回転合わせを自動で行う「iMT」は必須なのだが、これがカローラスポーツのように「SPORT」モードだけではなく全モードで使用可能になったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。
従って、残念ながらこのC-HR S-T“GRスポーツ”でも、その素晴らしいボディ・シャシーをパワートレインが台無しにしており、文字通り“足を引っ張っている”という点ではカローラスポーツと大差ない。ハンドリングと乗り心地は極上でも、まるでドライバーの意に沿わないパワートレインを御するのに多くの神経をすり減らす必要があるため、“意のままの走り”とは対極の存在になってしまっていた。
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