ジムニーの定番カスタム「ハイリフト」って、いったい何のためにするの?【スズキ・ジムニー偏愛連載・第7回】
- 2020/08/19
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MotorFan編集部
スズキ・ジムニーを購入して、「つるし」のまま乗っている人は珍しい。それくらい、ジムニーとカスタムの親和性は高い。特に人気なカスタムが、「ハイリフト」だ。その効果と手法について、ご紹介しよう。
TEXT●山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka) PHOTO●APIO/スズキ
ハイリフトは走破性の向上とドレスアップに効果大!
ジムニーの楽しみ方のひとつに、カスタムがある。街を走っているジムニーをチェックすると、ほとんどの車両が何らかのパーツを付けていることに驚かされる。80年代から90年代にかけて、大規模な四駆ブームがあった時には、カスタムはデフォルトのようになっていたが、未だジムニーという車種のカスタム率の高さには驚くべきものがある。
ジムニーのカスタムメニューはいくつもあるが、その中でも定番なのが「ハイリフト」だ。その名の通り、サスペンションをアフターマーケット品に交換して、ボディを“上げる”というチューニングのことを言う。なぜハイリフトを行うかには、いくつかの理由がある。
第一の目的は、悪路走破性、いわゆるオフロード性能の向上のためである。ジムニーJB64型は205㎜、ジムニーシエラJB74型は210㎜のロードクリアランスを有している。ロードクリアランスとは最低地上高のことであり、路面から車体の一番低い箇所までの距離をいう。ジムニーの場合は、デフケース(アクスルのほぼ中央にあるディファンレシャルギアが収まった部分)までの距離となる。
なぜ、ジムニーがこれほどのロードクリランスを有しているかというと、それはオフロードにおいて障害物を避けるためだ。例えば大きな岩だとか、コブのように張り出した地形だとかが、車体に当たらないようにするための構造だ。
ジムニーはオフロード4WDの中でも、余裕のあるロードクリアランスを持っている方だが、それでも本格的なクロスカントリードライブをする人には足りないことがある。そこでさらなるロードクリアランスを得ようということで、リフトアップというメニューになるのである。
リフトアップの第二の目的は、サスペンションのトラベル量(タイヤが上下できる量)の拡大だ。ジムニーの3リンク式コイルリジッドサスペンションにおいて、サスペンションが動く量というのは、基本的にはホーシングの長さとコイルスプリングの長さで決まる。ただ、ホーシングを変えることは基本的にできないので、自由長の長いコイルスプリングを装着することになる。
なぜ動く量が大切になるかというと、それはオフロード走行には路面追従性が関係するからだ。路面の摩擦係数が低く、地形が複雑なオフロードにおいて、クルマが前進するにはタイヤのトラクション(前に進むための摩擦力)が重要になる。凹凸のある地形でもタイヤをしっかりと路面に押しつけて、トラクションを稼ぐことが悪路走破性のカギとなるのである。
例えば、ジムニーのフロントサスペンションには「スタビライザー」というパーツが付いている。これは、サスペンションの余分な動きを抑制するバネ(トーションバー)の一種である。なぜこういうパーツが付いているかというと、ジムニーのように自由長が長くバネレートが低めのコイルスプリングが付いていると、オンロードのコーナーリングにおいて車体が傾き過ぎてしまうからだ。車体が傾き過ぎると、高速でコーナーを曲がれないだけでなく、横転の危険性がある。
ところが、このスタビライザーはオフロードでは邪魔になる。せっかくサスペンションとタイヤが動こうとしているのに、スタビライザーがその動きを抑制しようしてしまうからだ。オフロード4WDの中には、このスタビライザーの働きをスイッチでカットできるものが存在するし、アフターマーケットには手動でスタビライザーの働きを切り離せるパーツも売られている。つまり、オフロードではサスペンションが多く動いた方が、走破力に有利に働くわけだ。
これに加えて、リフトアップすることでタイヤのサイズアップができるのも大切なポイントだ。もちろんノーマルサスのままでもある程度のサイズアップは可能だが、あまり大きなタイヤを履かせるとタイヤハウス内に干渉することになる。
リフトアップ最後の目的は、ドレスアップである。現行型のジムニーのノーマルのままでも十分に見られるスタイリングだが、リフトアップを施し、タイヤをサイズアップすることによって、見た目の迫力が大幅に増す。オフロードは走らないけれど、見た目をモディファイしたいのでリフトアップするという人も少なくないし、ドレスアップだけを目的にしたサスペンションキットも発売されているくらいだ。
リフトアップにはコイルスプリングとダンバー、ラテラルロッドの交換が必要
では、どのようにリフトアップするかを見ていこう。
まずコイルスプリングだ。当然ながら、純正のものよりも自由長が長いものを装着する。これに合わせて、ダンパー(ショックアブソーバー)の交換も行った方がいい。コイルだけ変えるという人もいるようだが、スプリングのバネレートに合わせた減衰力を持ったダンパーに変えないと、ハンドリングや乗り心地が悪化することが多い。現行型のジムニーの場合、2インチか3インチアップというのがスタンダードなリフト量だが、重心のことや見た目のバランスを考えて2インチをチョイスするショップが多い。
さて、コイルとダンパーを変えたらリフトアップ完了、というわけではない。まずラテラルロッドの変更が必要だ。ラテラルロッドは、ホーシングが車体中央に来るように位置決めをしているリンクのひとつ。ボディとホーシングにそれぞれ取り付け位置があるのだが、リフトアップすると長さが足りなくなって、ホーシング位置がズレてしまう。そこで、リフト量に合わせた長さに調整できるラテラルロッドに交換する必要が出てくる。
さらに、リフトアップをするとキャスター角が不足してしまう。キャスター角とは、タイヤが直進するように、進行方向に対して付けられるフロントのコイルスプリング&ダンパーの取り付け角度のこと。キャスター角の修正は、トレーリングアーム(前のリンク)の取り付け部にあるブッシュを偏芯ブッシュ(中心点がズレたブッシュ)にするほか、補正アームの取り付けによって行う。
これに加えて、リフトアップで足りなくなったブレーキホースの延長や、リフト量によってはラダーフレームのクロスメンバーの交換も必要となる。
リフトアップに必要なパーツは、多くの場合はキット化されているが、別々のメーカーの物を好みに合わせて組み合わせていくという人も少なくない。エキスパートになると、どこのどんなパーツを組み合わせるかも、ジムニーの醍醐味になるだ。
ちなみに、スズキ系ディーラーによっては、サスペンションの変更によって整備や修理を断る店もあるので覚えておきたい。しかし誤解して欲しくないのは、メーカーであるスズキがリフトアップを否定しているわけではない。ジムニーの市場が長年創ってきたリフトアップという文化があることは、開発陣も重々承知している。その証拠に、現行型で新造されたラダーフレームのフロントクロスメンバーを、リフトアップした時にプロペラシャフトが当たることを想定して、取り外してアフターパーツに交換できるよう設計しているのである。
さて、リフトアップしたジムニーで林道などのオフロードに行くと、本当に安心感が違う。ちょっとやそっとで、ボディをヒットさせる心配がないし、走破力もグッと上がってクロスカントリーがラクになる。初心者にとってハイリフトは敷居が高いカスタムだと思うが、実はオフロードビギナーこそハイリフトすべきだと思う。
さらには、各社ともオンロード性能の向上も標榜したサスペンションを開発している。車高が上がっても、ノーマルよりオンロードでシャキッと走るようになるサスペンションがあることも、ぜひ知っておいてほしい。
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