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次世代水平対向エンジンへの提言(4)前軸はどこへ置くか——AWDはこれがむつかしい

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1997年のTMS(東京モーターショー)でスバルは、前軸を前方に移動させた水平対向4気筒エンジンのコンセプトを披露した。想定した搭載車はコンセプトカー時代のエクシーガだった。また、筆者がかつてスバルの開発担当役員氏にインタビューした際、「OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)化という選択肢もあるはず」と尋ねたところ、「検討したことがある」との回答だった。このエンジンの未来については、スバルもいろいろと悩んでいるのだろう。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

 1997年当時、EJ型と「次世代エンジン」の比較図がスバルのTMS資料には掲載されていた。前軸をシリンダーブロック後方、後ろ側の気筒のすぐ隣まで前進させるアイデアだった。その、スバル公式図が(1)図である。エンジン設計部門で検討した結果、上のイラストの位置まで前軸を前進させることができるという結論に至った。下は当時のEJ20型エンジンとAWD(オール・ホイール・ドライブ=全輪駆動)トランスミッションの組み合わせである。この図からは、前軸出力位置の変更だけでなくトランスミッションも「何か新しい仕組み」を考えていたことが読み取れる。

 また、このころ筆者は「エンジンマウントを左右シリンダーブロックの前方に置く検討をしている」ことをスバル関係者から聴いていた。前軸を前に出せばパッケージングの自由度が高くなる。ステアリングラックと前軸の関係も新しいトライができる。エンジンマウントも新しい方法にチャレンジする。そういうムードだったのかもしれない。ただ、エンジンマウントについては実際に左右バンク前端への移設を試験的に行なったラリーカーがあったが、「ラリーには不向き」と判断された。結局、市販車でも採用されなかった。

 もうひとつ、水平対向エンジンでのパッケージング検討を行なったメーカーがスバル以外にもあった。マツダである。RE(ロータリーエンジン)搭載車のパッケージングを検討する段階で「ライバルが追随できない最強のパッケージングを組む」という考察から「ライバルならどうREに対抗するか」を考えたのだ。導いた結論は「水平対向4気筒エンジンによるFRはもっとも手強い」だった。

 その後、トヨタがスバルに「水平対向エンジン搭載のFRスポーツカーを開発委託する」との情報を得て、実際にこの案件が「2座席のFRクーペ」と発表されたとき、本誌は元マツダのエンジニアで2代目RX−7の開発主査を務めた須藤 將(すとうすすむ)氏(故人)に水平対向FR車のパッケージング検討を依頼した。そのイラストが(2)図。須藤氏が考えたのは「フロントミッドシップ」だった。しかもトランスミッションは後輪側に置くトランスアクスルである。

(ILLUSTRATION:熊谷俊直)

「AWDをやめてFRだけにするならパッケージングの自由度が広がる。AWDだと前軸の位置でほぼ決まってしまう。前後に短い水平対向4気筒エンジンのメリットを最大限に活かすならファイアウォール(エンジンルーム隔壁)ギリギリまでエンジンを後退させ、ステアリンググラックはFRの定石どおり前引き(前軸中心より前にラックを置く)にする。エンジンの主力軸はできるだけ下げたいが、下げるとエンジンから出た排気マニフォールドをほぼ直角に曲げなければならないから、排気系のレイアウトがむつかしい。ポルシェもつねにこれで悩んでいる……」

 当時、須藤氏はこう言った。筆者も考察に加わり(2)図の下絵を描いた。描きながら「これは運動性が良さそうだ」と思った。須藤氏は「ターボ仕様にするとなると、ちょっとむつかしくなるなぁ」と仰った。また、須藤氏は「リヤサスペンションは長いトレーリングアームを持った方式にして、ボディ側ピボットはできるだけ上に置きたい。サイドシル部分に箱を作り、そこに食い込ませるくらいでないと」とも仰った。のちにマツダがスカイアクティブボディで採用する方式を、元RX-7の主査はこのとき推奨していたのだ。

 では、次世代水平対向エンジンをOHV化すると、サイドビューではどうなるか。'97年のスバル資料をベースに、筆者の「空想」を入れた側視図が(3)図である。エンジン下面にあるのは排気用カムシャフトの出っ張り。これはクランクシャフ直下の中央部分だけだ。オイルパンはない。潤滑はドライサンプ方式にする。トランスミッションもオイルパン不要の方式にする。想定しているのは電動モーターを内蔵するハイブリッド・トランスミッションだ。青で描いてあるのは排気系。これをどうするかがむつかしい。

 前軸はシリンダーブロックの直後まで前進させる。シリンダーブロック中央上面に置く吸気側カムシャフトとシリンダーブロック下面に置く排気側カムシャフトのエンド部分がシリンダーブロック後端にほぼ重なる。その直後にフライホイールと発進デバイス(乾式単板クラッチか、湿式多板クラッチか、トルクコンバーターか……)。その先にトランスミッション。そして、スバルの商品である以上AWDは必須だから前軸位置をしっかり考えなければならない。パッケージングの自由度に配慮しながら、同時にできるだけ前に置きたい。

 前軸とステアリングラックの位置関係はどうするか。前輪駆動車は前軸の後ろ側にラックを置く「後ろ引き」が常だが、前軸の後方、赤い丸の位置にラックを置けるとして(当然、トランスミッションのこの部分を削れるよう内部レイアウトを考える)、エンジンは「ほんのわずかに前上がり」か。ドライサンプにしてエンジン搭載位置を下げ、前軸の出力軸を通常のFF車の地上高に置くとなると、シリンダーブロックから出る排気管は直角に近い曲がりになる。これは仕方ないか……。

 MFiが考える水平対向OHV化は、エンジン全幅を狭くすることが主眼であり、これは車両搭載性のためだ。バルブの上にカムシャフトが位置するOHC(オーバー・ヘッド・カムシャフト)、しかも吸気バルブ/排気バルブをそれぞれ別の各シャフトで駆動するDOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)ではシリンダーヘッドが大きくなってしまう。一方、エンジンブロック側にカムシャフトを置き、そこからプッシュロッドを伸ばしてバルブを動かすOHVならシリンダーヘッドは小さくできる。水平対向エンジンの場合、シリンダーヘッドはそのままエンジン横幅の寸法になる。横幅を小さくすればボディ設計への影響がなくなり、車両搭載性が改善される。だからOHVなのだ。

 筆者手描きのポンチ絵(4)図は、OHV化した水平対向エンジンのシリンダーヘッド内部である。プッシュロッドがロッカーアームを押し、ロッカーアームがバルブを押す。スプリングは巻きばね(コイルスプリング)ではなく「く」の字型をした板ばね。バルブの「戻り」に板ばねを使うアイデアは欧州のあるエンジニアリング会社が開発している。耐久性は十分だという。目的は「シリンダーヘッド高さを抑えるため」だ。まさにMFiが考えるOHVにぴったりの機構だ。

 本気でOHV化を考えると、悩む点がいくつも出てくる。それと、エンジンの回転上限の設定。想定をエンジン+電動モーターのハイブリッドにすれば楽になるが、できればエンジン単独での搭載も実現させたい。さて、どうするか……(つづく)。

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