【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 3回目】私、デザイナーという職業をしております。
- 2019/07/04
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MotorFan編集部
モノのカタチには必ず理由があります
ところで我が国においては近代産業が入り込んできた明治時代に「模様」とか「装飾」などの図案・意匠という意味でデザインという言葉が伝わってしまったために、デザインの本来の意味が理解してもらえないまま、ずうーっと表面の形や色などを考える人と捉えられていてきてしまったようです。実はそれから100年以上も経った今でもその意識がぬぐい去られていない部分があって、今でもものづくりの上での二次的な仕事だという考えがまだ根強く残っているのはとても残念なことだと思っています。いまなお「お前たちは表面のカタチを考えるだけなので 『コスメティックデザイナー』だ」と分類される時もあるようなのですからこれは本当に残念でなりません。これもデザイナーの仕事の行程の最後のところだけしか見えていないからなのでしょうが……。
実は世界最先端をいく日本の自動車会社においてもまだそれに近い感覚が残っていて、僕は大変残念に思っています。デザイナーは「意匠屋」と思われている節が強く残っています。僕は自動車という商品のデザインをひと筋にやってきたデザイナーなので特にそういう思いが強く出てしまうのかもしれませんが……。
モノには働き(機能)があって、そのモノのカタチには必ず理由があります。働きを持つ部分までは単に「機械」であって、そこに何らかの付加価値をつける仕事がデザインだと考えています。デザイナーは機械から商品へ仕立てる役割を担っているのです。だからこそ、そのために、デザイナーは機械としての働きを熟知し、同時に商品として、道具として人との関わりを考察し、カタチに落とし込み、結果としてその製品をとおして企業活動を活性化させて企業に利益をもたらしていますが、実はデザイナーの思いは単にその企業の経済活動だけにはとどまってはいません。デザイナーは自分達の仕事が社会生活を向上させ、人々の心を豊かにし、文化を創り上げているという意識を持っています(これは企業活動の根本ともずれることはないのだと思います)。皆さんの生活のすべての場面で使用する工業製品でデザインされていないモノはありません。私たちの生活はデザインされたモノに囲まれていると考えていただくとデザイナーの役割の重要さをわかっていただけると思います。
デザイナーはそのためにデザインする対象の歴史を探り、紐解き、その製品が市場で生き抜いてきたルーツを探ります。徹底的に探ることで小さな事象を見つけ出し、それらをつなぎ合わせることでひとつにつながる何かを見出します。そうすることがこれからを生き抜くための変化を知ることにつながるからです。
皆さんはデザイナーっていう人たちはなんだかラフな格好をして、好きな時間に働いて、絵など描きながら楽しそうに、時には遊んでいるかのごとく思っておられるかもしれませんが、実はそんなことはまったくなくて、とても地味で目立たないことをじっくりと考えているんです。まあ、時々は自己顕示欲の強さが表に出てしまう方もいらっしゃいますが(笑)。
もともと以前は全体を見るべき設計者がものの成り立ちも、それを包み込む意匠も全体をも含めて考えて創り出していたのだと思いますし、そのモノが何を求められ、どうやってそれを達成するかを考える、そういう才能を持っている人が携わっていたのだと思います。その後、現代の分業化された製造業のなかではデザインを仕切るデザイン部門のボスも設計者同様に全体を見て様々な判断を下しています。最終的に企業の考えを可視化して表現しお客様にお届けするのはデザイン部門の役割ですから。そうやって考えるとデザインというのは企業の大切な経営資源ですし、デザインは「性能」のひとつであると考えられます。少なくとも欧米の自動車会社はかなり前からそういう考え方をしています。特に自動車の技術が成熟してきて各国各メーカーでの技術に以前ほどの差が見い出せなくなってきた現代では、モノの価値をどのように考え、それを使うユーザーにとっての所有する価値をどうやって付加するかという点でデザインはとても大事な要素(性能)になってきているのです(例えばこれまでの車の馬力や排気量から発する所有欲に代わって)。
日本の製造業においては、モノを考え、モノを計画し、必要な構成部品を購入し、モノを作り、モノを売る、そのおのおのの部門のトップが会社のボードメンバーを構成しているのですが、その全体を調和しバランスさせて可視化し、企業とお客様との直接的な関わりを担うデザイン部門はなかなかその役割を担わせてもらえていません。権限と責任をもっと持たせるべきだと僕は常々そう思っています。しかし、そう扱ってもらえないのはデザイナーの力不足からくるのかもしれませんね。
Volkswagen Type 1(1938)
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