【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 7回目】いよいよスタイリング───その3「僕の想いを伝えたい!」
- 2019/08/04
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MotorFan編集部
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これまでいろいろ私的なことを書かせていただいたので、もしかすると今回の内容はどこかで一部かぶっているかもしれないが、そのあたりは是非ご容赦を願ってお読みいただければと思う。しかも今から40年も前の話で始めさせてもらおうと思っているのでたいへん恐縮ですが。
TEXT●難波 治(NAMBA Osamu)
気がついてみたら、このコラムを書き始めて丸1年が経ち、2年目を迎えた。MotorFanも2年目突入である。編集部の皆様ご苦労様です。
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当時、私は大学でデザインを学ぶ3年生だった。同じ大学で工業デザインを学んでいた同級生5人のなかで、大学に入った時からカーデザイナーを目指していたN君の住むアパートへ遊びに行った時のこと、彼の部屋の書棚にCar Styling誌がずらっと並んでいるのをみて、初めてこういう車のデザインの専門誌があることを知ったということをどこかで書いたと思う。
N君は高校生の時にCar Styling誌に出合って以来この本で紹介されている自動車のスケッチを見ながらクルマの絵を独学で勉強してきていて、僕から見るとすでに彼の力量は本のなかのスケッチとほぼ同レベルまで達していたと思うほど素晴らしいスケッチを描いていた。
一方僕はといえば、何になりたいのかぼんやりしていて。もともと高校時代は器用に洋裁をして洋服を作ってしまう姉の影響でファッションに興味があり、また雑誌のなかに出てくるモデルさんを見ていてヘアーデザイナーにも興味を持ったり、ファッション誌ばかりを見ているうちに(しかも女性服専門誌)次は広告の世界に興味を持ち始め、アートディレクターになることが夢になり、これは案外本気でそう考えて、ならば美大へ入らねばならない!とばかりに、そこから慌ててデッサンの勉強を本格的に始めた。というように目標がフラフラとしている状態で大学に入学したのだが、入学してみると、そこからさらに一気にたくさんの選択肢へと世界が広がった。そして月日が流れ、大学3年生になった時に前述のN君のアパートの話へと繋がってゆくわけだ(少し話の本筋から外れるが、実は高校時代にファッションの方も勉強をかじり始めていて、ファッションポーズとかのスタイル画の練習を見よう見まねで描き始めたのだが、いやぁ人を描くのはとにかく難しい。全然ダメだった。生き物を描くのはとても難しい。今でも人や動物のイラストなどが描けるカーデザイナーに出会うと、それだけで尊敬してしまう)。
そして僕はN君に簡単な手ほどきを受け、自動車デザインの世界へ入り込むわけだが、大学3年で初めて描いたクルマのスケッチは、それはひどいものだったと記憶している。クルマの形をとるのが精一杯という状態。もともと子供の頃から絶対大好き、というくらいにクルマに興味があったわけではないので、クルマという物体をじっくりと観察したことがない。我家にはクルマがなかったので、ちょうど前号で書かせていただいたようなクルマの構造や、パッケージからくるような理屈も持ち合わせておらず、まるでお餅を膨らませたような、しかしタイヤだけは履いているので、ああこれは多分クルマの絵なんだろうな、というような絵を描いていたように思う。
N君は小さな頃から教科書の余白にビッチリとクルマの絵を描いていたタイプ。僕は、教科書の余白はすべてパラパラ漫画のホネホネマンだった。
学生のその時には、サムネイルや小さいサイズのラフスケッチをたくさん描きまくって練習を重ねていたのでもなく、1枚の下絵を描いてはその上に新しい紙を重ねて形を取り直して、パステルで色をのせて1枚を仕上げていくようなやり方をしていったように覚えていて、当時、しっかりとマーカーや色鉛筆、パステルを使い分けてレンダリングを描いていたかどうかも記憶は曖昧だ。無駄にパステルを減らしていたように思う。N君とてスケッチの描き方の教え方を知っているわけではく、スケッチで何をどう表現して描けば、本当のクルマっぽく見えるようになるのかというところまでは教わることができなかった。
それでも「好き」という情熱はすごいもの。「好きこそ物の上手なれ」の言葉通りそれなりにクルマの絵を描くようになって、卒業後はなんとか自動車会社のデザイン部に滑りこんだ。
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そもそもスケッチとは何か。なんのために描くのか。私が考えるのは、スケッチは説明図であるということ。デザイナーが描くそのクルマの《計画図》がスケッチであると認識をしている。もちろん自分が生み出した過去に例を見ない魅力的な外形のシルエットやモチーフを見せるためではあるが、それがどのような組み合わせや構成する要素をもって出来上がっているかを同時に説明をしているものである。その絵に全てが盛り込まれている。
設計者であれば図面で表現するのだが、デザイナーはスケッチで自分の考えを語るのである。第三者に伝えるために描き、そして理解をしてもらわなければならないし、何より惹きつけ魅力的だと思わせる力を発揮しなくてはならない。
その表現手段は、カタチ(外形)そのものは線で引くのだがあとは光の写り込みや、反射、変化のグラデーションを駆使して表現をする。その絵が実物大のクルマになった時を意図して、本物での見え方に可能な限り近づける。また魅力的な部分をいかに誇大表現をして第三者に魅力的に感じてもらうかが重要なポイントだ。だから実際のクルマの写真を見た時と同じような見え方の理屈を守らねば、見た人にその通りに理解をしてもらえないが、しかし写真と同じでは魅力がない(実は写真もその被写体を撮った時に使用するレンズで本当の立体が誇張されたり歪んでいるし、また写真家もその効果を意図的に使用するものだ)。だから本物の見え方の理屈と可能な限り近づけるのではあるが、そこにデザイナーの演出が含まれるものになる。
スケッチは画材の進歩やスケッチのテクニックの向上にともなって変化をしてきている。当初はスケッチのなかの大きな面積に色を塗るということをせず、色付きのキャンソン紙にホワイトの色鉛筆だけでスケッチを描く、ホワイトレンダリングが主流だった。その後、その上にパステルやマーカーで色を軽くつけて、サーフェイスの見え方をより効果的に説明するような手法が出てきた。またアメリカのアートセンターを中心にマーカーを使用した非常にビビッドな演出効果の高いスケッチが出てくると、それが世界を席巻した。現代はパステルなどの画材で色付けをしていた部分をPCのレンダリングソフトに任せて、手をパステルの色に染めずにモニターの画面上で描くようになっている。
これらの表現力の変化は、もともとのいかに素早く短時間で自分の考えを相手に見せて理解をしてもらうかという目的から、いかに演出効果の高い絵を見せられて、コンペティションにどうやって勝つかという方向に曲がってったように思うところがある。しかし一方では、これまでのハンドによるアナログな手書きスケッチは、描く方もプロのデザイナーで、見る方もプロの判断者であったために、専門家でないと判りにくい表現もあったのだが、その視点から見てみると現代のスケッチは一般の人が見ても理解を得やすいものになっているという見方もできる。
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