【トヨタ・カローラスポーツ試乗記】期待を超えた変貌
- 2019/07/12
- ニューモデル速報
力感ある走りのハイブリッドと、CVTとの相性も良いターボ
最初にステアリングを握ったのはハイブリッド。カローラアクシオ/フィールダーのハイブリッドが1.5ℓエンジンなのに対してカローラスポーツはプリウスと同様の1.8ℓ。この300㏄の違いは小さくない。走り始めはなるべく一般道を普通に走らせるイメージのペースに抑えたが、結構な登り勾配があるのでどうしてもアクセルは大きめに開けていく必要がある。そんな場面でも3000rpm台で頼もしい力感がありグイグイと登っていく。日常的なシーンでは、これ以上必要なことはほとんどないだろう。トルクが薄い1.5ℓエンジンだったら5000rpm付近まで回すこともありそうで、音・振動でかなりの差がでることになる。
せっかくのサーキットなので途中からはアクセルを全開に。驚くほど速いということはないが、コーナーが多くストレートが短いショートコースでは、パワーが不満で退屈するなんてことはない。レクサスが搭載しているマルチステージハイブリッドや最近のCVTによく見られるステップギヤ制御などを持たないので、アクセル全開ではエンジン回転数は高いところに張り付くことになる。それが効率良く速さを引き出しているのだが、スポーティなフィーリングを求める向きにはちょいと物足りないかもしれない。
それだったら1.2ℓターボのCVTがオススメだ。シフトポジションを「M」に入れればマニュアル感覚となり、間延び感のないダイレクトな走りになる。それ以上に感心したのは、通常のDレンジでもスポーツモードを選択すると、走りがかなり楽しくなることだ。コーナー立ち上がりに向けてアクセルを踏み始めると、ドライバーの心理を読んでいるかのように適切なギヤ比とエンジン回転数で待ち構えていて、レスポンス良く加速体制に移っていく。スポーティなドライビングにCVTは不向きと言われてきたが、ドライバビリティのなんたるかを解析して制御を磨いてきたとみえて、そんなネガティブなイメージを吹き飛ばしているのだ。むしろ、ダウンサイジングターボとCVTの相性は案外といいんじゃないかとさえ思えてくる。1.2ℓという排気量の割りには低回転域からトルクが充実しているので、それなりの強さの加速時でも頻繁に低いギヤを使う必要がなく、制御次第でターボラグを感じさせないようにもできる。それでいて無段変速ゆえに限られたパワーを最大限に引き出すことができるからだ。
トランスミッションでのトピックスは、C-HRでは果たせなかったMTの採用だ。いくらCVTが良くできているといっても、自らが操っている感覚が強いMTはスポーティなドライビングにおいては根源的な楽しさを提供してくれる。常にパワーの頂点付近を使うために積極的に低めのギヤを使うも良し、エンジンの回転上昇に伴うトルクやパワーの特性を味わうために高めのギヤで速度を徐々に伸ばしていくも良し。気分次第で自在にクルマの能力を引き出すことができる。
パワートレーンはC-HR同様、1.8ℓハイブリッドと1.2ℓターボという組み合わせ。ハイブリッド(左)は、先代(カローラアクシオ/フィールダー)ハイブリッドと比較すれば+300㏄となり、その分日常域でもゆとりある走りとなる。ターボ(右)はCVTとの相性も良く、マニュアルモードはもちろん、通常のDレンジでもスポーツモードを選択すれば思いの外スポーティに走れる。ちなみにMTが設定されるのは、1.2ℓターボのFF車となる。
苦手意識も払拭してくれる 俊逸なMTに注目!
カローラスポーツが新たに採用したiMTは、発進時のエンスト防止とシフトダウン時のブリッピングをアシストしてくれる機能がある。試しに発進時にアクセルを全閉のままクラッチをつないでいったら、エンジン回転数をスッと上げてスムーズに走り出した。これならMTに苦手意識があったり、渋滞時などがわずらわしいと感じている人でもすんなりと乗れるだろう。ブリッピングは、いわゆるヒール&トーをしなくてもシフトダウン時にエンジン回転数を合わせてくれる。熟練ドライバーからは、そんな余計なことはしなくてもいいという声が聞こえてきそうだが、あればあったで有効。わざとヒール&トーをしないで乗ってみたが、コーナー進入時にブレーキングやハンドリングに集中できるので案外と便利なのだ。
パワートレーンからはそれぞれにまずまずの満足度を得られたが、それ以上に驚いたのがシャシー性能だ。走り始めから直感的に良さそうだと感じていたが、じっくり乗り込んでいくうちに改めてTNGAがいい方向に向かっていることを実感した。
まずはドライビングポジションやシートがいい。TNGAは各ユニットをなるべく低く配置して低重心化を図るとともに、ドライバーの座らせ方、ステアリングシャフトの角度なども理想を追っている。ミニバンや軽トールワゴンなどは、ダイニングやオフィスの椅子に座るようなアップライトな姿勢となるが、TNGAは逆で、やや寝そべり気味で、脚は極端にいえば前方に投げ出すようなカタチ。座面は前が少し高くなっている。アップライトだと座面はフラットに近く、姿勢的にも体重が尻の一点に集中しがちだが、TNGAは背中に腰、尻、太もも、膝裏などに綺麗に体重が分散する。長く乗っても尻が痛くならないばかりか、広い面積で身体とシートがフィットしているからブレが少なく、高速域やコーナリング時でも安定しているのだ。さらにカローラスポーツではスポーツシートも採用されており、サイドサポートが強力になっているのでサーキットを攻めても身体が安定していて走りやすかった。
TNGAになってからステアリングフィールが大いに向上していたのだが、カローラスポーツはさらに進化した。シャフト等の剛性を強化したとのことだが、激しくコーナリングしつつ縁石に乗り上げたりしてもガッチリとしていて頼もしい。そういった極限状態ではなく、高速道路の巡航のような走りでもセンター付近がわかりやすく、微舵をあてた時の反応の良さなど、基本的なフィーリングも良好。戻り制御も入っているので、曲がってから直進状態へ戻るときも自然で楽。フリクションもかなり低く抑えられている。
何よりも感心したのがサスペンションのスムーズなストローク感だ。プリウスでもその傾向はあり、C-HRはザックス製ショックアブソーバーを使ってさらにグレードアップしていたが、カローラスポーツは日本のKYB製を採用し、力を入れて開発してきたという。サーキットでコーナリングしていても、ロールは少なく安定した姿勢を保つが、いやな硬さはなくてひたすらにしなやか。高めの縁石を乗り越えても跳ねたりフラついたりすることがなくスムーズなのだ。ボディが無駄に上下動することなく、サスペンションだけが動いて何事もなかったように通過。タイヤも常にしっかり接地している。ボディがしっかりしていて低重心であるなど、基礎体力が高いからサスペンションもいい仕事ができるのだ。それはリヤのスタビリティの高さと、ほどよくクイックなハンドリングのバランスの良さからも伺い知れた。
KYB製のショックアブソーバーは、スムーズな乗り心地ながらタイヤに横力が入ると動きをグッと抑える工夫がなされているが、サーキットだとすぐにその領域を超えてしまう。今後街なかなどでその効果を確かめてみたい。AVS(可変ショックアブソーバー)付きも試したが、スポーツモードにするとロールスピードが抑えられ、踏ん張りが大いに増す。それでも相変わらずイヤな硬さがないのはシャシーの能力が高い証でもあるだろう。
運動性能では欧州勢にも負けない実力の持ち主だが、これだけスムーズな動きなのだから一般道での乗り心地も相当にハイレベルだろう。そのバランスの高次元ぶりは驚きに値する。これだけシャシーが仕上がっていると、モアパワーを求めたくもなる。もっと大きな排気量やレスポンスに優れる新世代のダイナミックフォース・エンジンを搭載したモデルが追加されることを願いたいといったら、気が早すぎるだろうか。
モーターファン別冊・ニューモデル速報 ニューモデル速報 Vol.570 トヨタカローラスポーツのすべて
磨き込まれた足まわりとシャープなスタイリングで魅了
ドライビングインプレッション
ライバル車比較試乗
開発ストーリー
メカニズム詳密解説
デザインインタビュー
使い勝手徹底チェック
バイヤーズガイド
縮刷カタログ
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