Type992×Type991比較試乗 「最新は最良」か? 新型ポルシェ911登場にあたり、新旧を比較試乗したら衝撃を受けた
- 2019/10/18
- GENROQ編集部
今度のはどれくらい良くなっているのか―新しい911が登場するたびにポルシェファンの間でこの話題が中心となるのは、いつの時代も同じだ。
初めてターボからターボへの進化となったこのフルモデルチェンジで911はどのような新しい世界を見せてくれるのか。島下泰久が斬る。
REPORT●島下泰久(SHIMASHITA Yasuhisa)
PHOTO●小林邦寿(KOBAYASHI Kunihisa)
※本記事は『GENROQ』2019年10月号の記事を再編集・再構成したものです。
正直に言おう。今回の911新旧比較試乗を終えて、自分自身とても困惑している。最新のポルシェ911カレラS、タイプ992を改めて日本の路上で試したあとには、圧倒的なパフォーマンスに感心しつつも、情緒性という観点では、今の時点ではまだ敢えて先代のタイプ991を選ぶという手もありそうだという結論、実は頭の中ではほぼ出来上がっていた。ところが、続いてタイプ991の後期型に乗り換えて走り出したら……。
2018年11月のワールドプレミアから半年と少し。ようやく最新のポルシェ911、タイプ992が上陸した。ちょうど今月になって素のカレラも発表されたが、まずデリバリーされるのは本国同様、カレラとカレラ4Sとなる。
ギヤボックスが新たに8速となったPDKしか用意されないのも本国と同様だ。しかも今のところ、設定はRHD(右ハンドル)だけとなっている。
ポルシェジャパンは今、商品ラインナップをRHDに一本化しようとしている。筆者とて日本の交通環境にはRHDの方が何かと都合が良いということに異論はない。しかしドライビングポジションはまだLHDに劣るし、そもそも歴史も文化も、強い思い入れを持つユーザーたちとともに紡いできたブランドたるもの、ステアリングを含めたあらゆる面で、敢えて選択肢を狭める必要がどこにあるのか。効率化が最優先ではプレミアムブランドとしては寂しい。
今回の話の本筋ではないので、この辺にしておこう。貴重な新旧比較こそが今回のテーマ。タイプ992とともに連れ出したのは、先代の後期型、いわゆる991Ⅱの911カレラS。つまり同グレードで、更にこちらもRHD、PDKという仕様だった。
改めて2台を並べてみて思うのは、992の方がはるかにマッシヴ且つ硬質なテイストで仕立てられているということだ。ホイールベースは一緒、全長も10㎜違いなので、サイドビューはそこまで大きな差はないものの、正面から見た時のフェンダーの張り出しや、リヤのボリューム感はまるで別物。つい思い出すのはル・マンを走る911RSRの雄姿である。
ディティールも、思い返せば991前期型は全体にもう少し柔らかい雰囲気だった。当時デザイナーに聞いた話ではナローを意識した部分もあったという。それが991Ⅱでだいぶシャープさが強調され、更に70年代のGモデル、いわゆるビッグバンパー世代をモチーフにしたという992は、それを時代に合わせてうまく昇華させ、未来的、クールなどと評したくなる雰囲気を醸し出している。
インテリアの眺めも一気に変わった。タイプ996以降続いていた縦基調のデザインが、992では横基調のレイアウトに回帰している。回帰と書いたのは、これまた空冷時代のそれをモチーフにしているから。アナログ回転計を中央に据えたデジタルパネルを収めるメーターフードのラウンド感なども、まさにというところで、試乗車が装備していたウッドパネルも違和感がない。伝統と革新をうまく融合させる術は、さすがだ。
但しボディサイズは、さすがに大きさを意識せずには居られなくなった。1850㎜の全幅は今どきのC/Dセグメント辺りを見回せば十分に許容範囲と言いたいが、張り出したフェンダーのおかげで有人の料金所などにギリギリまで寄せるのが難しい。こればかりは、仕方がないのだけれど……。
では肝心な走りはどうか。車検証を見ると992の車重は1580㎏にも達していて、991Ⅱの1490㎏より随分重い。もっとも今回の試乗車はガラスサンルーフ、PDCCにリヤアクスルステアリング等々、約860万円分ものオプションが載っていたから、その分は差し引いて考えるべきだが、それにしても……と最初は思った。
しかし走り出すと、これが大きさも重さも、まったく意識させないのに驚かされた。一体、どういうことだろう? ひとつの要因として圧倒的なボディ剛性があるのは間違いない。アルミの使用範囲が拡大されたことで、ボディの振動減衰が速くなったことも、あるいは影響しているのだろうか。
フットワークも軽やかさが際立っている。サスペンションは結構締め上げられているが、カチッと硬いボディのおかげで乗り心地は荒れていない。それでいて、いざコーナーに飛び込めば操舵に対して遅れ無く向きが変わる。リヤアクスルステアリングのおかげでリヤがどっしり落ち着いたRRっぽさは良くも悪くも薄く、とにかくよく曲がり、安定している。
3ℓ水平対向6気筒ツインターボエンジンも、吹け上がりが一層軽やかになった。全域でトルクの密度が高くターボ云々ということを意識させないほどレスポンスは弾けているし、吹け上がりも更に雑味が取れた。但し、正直NORMALモードではそこまでの切れ味ではなく、本領発揮はSPORT以上のモードとなる。
8速になったPDKも普段は早め早めのシフトアップで燃費を稼ぎに行く。2000rpmまで回ることすら滅多にないくらいだが、SPORTモード以上では変速のスピード、切れ味が俄然高まり、小気味よさを倍加してくれる。
動力性能、フットワークのいずれもレベルはきわめて高い。正直、ワインディングロードでは、その片鱗を伺うのも難しい。但し、それと引き換えになのか、フィーリングは全体にドライという感はある。それこそサーキットなどで攻め込めばドーパミンがあふれ出すが、日常域では情緒はそれほど濃くはないというのが率直な印象だ。
ワインディングロードを含む日常域では、991Ⅱの方が味わいは深かったかもしれない。それを確認するべく、ようやく乗り換える。コクピット周辺のデザインやクオリティは、992を見た後だともはや物足りなく感じてしまう。そして何より大きなシフトレバーの存在を野暮ったく感じた自分に驚きつつ走り出すと……というところで、話は冒頭に戻る。
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