乗降性と荷室の使い勝手、「ホンダセンシング」の充実度にも要注目 〈新型ホンダN-WGN L・ターボ:試乗記〉N-BOXより約20万円安くてハンドリングは圧勝、乗り心地は同等の高いレベル。コストパフォーマンスの高さは現行モデルNo.1だ!
- 2020/01/07
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遠藤正賢
では、最も肝心な走りはどうか。端的に言えば、二代目N-BOXより良くなったのはハンドリングと加速性能、変わらないのは乗り心地、悪くなったのは静粛性だ。
全高が115mm低く車重も約50kg軽いという基本的スペックの違いに加え、N-WGNのフロントサスペンションには新たに横力キャンセルスプリングが採用されている。これがタイヤが上下動した際にダンパーへ加わる曲げモーメントを打ち消すため、ダンパーロッドに生じるフリクションが減り、小さな入力でもサスペンションがスムーズに動く。その結果として、乗り心地が良くなり旋回時の姿勢変化もリニアになる効果が期待できる。
その効果を最も強く体感できるのはやはりワインディングだろう。テスト車両の装着タイヤは155/65R14 75Sのブリヂストン・エコピアEP150で、明らかに燃費と乗り心地を重視したものだったが、実際のハンドリングはそうしたタイヤの性格を感じさせないほどレスポンス良く軽快で、しかもロールはリニアかつじんわりと粘るように深まっていくため安心感は絶大だった。この点では、安定性一辺倒の二代目N-BOXよりも大きく優れており、これをもってN-BOXではなくN-WGNを選ぶ決定打になり得るだろう。
パワートレインは、エンジンはWLTCモード対応のため排ガス浄化性能が強化され、CVTには下り坂やワインディングでエンジンブレーキを積極的に活用する「ブレーキ操作ステップダウンシフト」が新たに実装されているが、基本的には二代目N-BOXとほぼ共通。そのためN-BOXでも必要充分だった加速性能は、上り坂をECONモードで走っても余裕を感じるほど力強いものとなり、ノーマルモードでは「速い!」と思わず叫んでしまうほどだった。
一方で粗粒路を走った際のロードノイズは二代目N-BOXよりも大きく、良路から移行した際の変化も大きく感じられたのは気になる所。エアロモデルの「カスタム」にはルーフおよびボディ側面にインシュレーターが追加されるため、この点は大きく改善されている可能性が高いのだが、そもそもこうした差別化戦略は迷惑なことこの上ない。
クルマはあくまで日常の足、クルマで目立とうとは思っていない、(マイルド)ヤンキーに見られたくない、これらのいずれかに当てはまるユーザーはまず、「カスタム」を購入の選択肢に入れることはない。標準仕様と「カスタム」とで機能面の差を付けるのは、早急にやめてほしいと切に願う。
全グレードに標準装備(廉価グレードにはレスオプション設定あり)されるADAS(先進運転支援システム)「ホンダセンシング」は、二代目N-BOXよりもさらに進化。CMBS(衝突軽減ブレーキ)が横断自転車のほか街灯のない夜間での歩行者検知に対応し、ACC(アダプティブクルーズコントロール)は渋滞追従機能付きにグレードアップした。そして、車線中央の走行を維持するよう支援するLKASも、N-BOXと同様にNA・ターボ車問わず標準装備されている。
特にACCとLKASに関しては、スズキ、ダイハツはもちろん日産・三菱連合でさえ今なおターボ車やエアロモデル中心の展開(しかもオプションまたはグレード別設定)となっており、かつ車速・車間制御もラフさが目立つのに対し、新型N-WGNのものはその両面で大きなアドバンテージを持っている。それをホンダの宣伝・広報部門はもっと積極的に、分かりやすくユーザーにアピールすべきだ。こうしたイメージ戦略に関しては世界一巧みな日産の爪の垢を煎じて飲むべきであろう。
そんな新型N-WGN L・ターボホンダセンシングの車両本体価格は、税別139万円。N-BOX G・Lターボホンダセンシングの税別158万円と比較すると19万円安いのだが、もっと価格差が少なくてもおかしくないほど、両車の走りと機能、質感の差は少ないように感じられた。一言で言えば「これで充分」、コストパフォーマンスの高さでは現行モデル随一だ。もし筆者が実用的なクルマの購入を迫られたとしたら、その第一候補となるのがこの新型N-WGN L・ターボホンダセンシングである。
それだけに、デビュー間もない2019年9月より、EPB(電子制御パーキングブレーキ)の不具合によって生産停止に追い込まれ、12月にはリコールに発展。この1月にようやく生産が再開される見込みというのは、実際のセールスへの影響以上に、N-WGNの良さに深い影を落としたという意味でも、残念でならない。そしてこの問題は、同じ部品を使う予定だった新型四代目フィットにも、発売を当初の2019年11月から2020年2月へと延期させるという悪影響を及ぼしている。年度末商戦と重なり販売が本格化する2月以降、実際に購入するユーザーがどのような判断を下すのか、注意して見守りたい。
【Specifications】
<ホンダN-WGN L・ターボホンダセンシング(FF・CVT)>
全長×全幅×全高:3395×1475×1675mm ホイールベース:2520mm 車両重量:860kg エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:658cc ボア×ストローク:60.0×77.6mm 圧縮比:9.8 最高出力:47kW(64ps)/6000rpm 最大トルク:104Nm(10.6kgm)/2600rpm WLTC総合モード燃費:22.0km/L 車両価格:152万9000円
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