弱腰の姿勢を見直し、広くこのクルマの魅力を広めるべきである|ホンダ インサイト ホンダ インサイト:あらためて試乗し、トヨタ プリウスに負けず劣らずな性能の良さを体感!
- 2020/04/22
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MotorFan編集部

1999年にハイブリッド専用モデルとして衝撃デビューを果たすものの、その後、売れ行きも認知度もパッとせぬまま2018年に3代目がデビューした、ホンダ インサイト。その仕上がりは期待を大きく上回るものだった。しかし、売り上げはトヨタ プリウスに優に12倍もの差をつけられている。何故か。デビューからその動向を見守る自動車評論家の瀨在仁志が試乗した。
TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO:MF.jp
衝撃デビューから19年、4年ぶりの復活

2018年12月に3代目インサイトが4年ぶりに復活デビューした。1999年にハイブリット専用モデルとして誕生した初代インサイトだが、それは、じつにホンダらしく、空気抵抗の低減を追求したクーペスタイルにNSX譲りのアルミボディやサスペンションを採用するなど、機能もフォルムもコンセプトカーがそのまま市場に出てきたような衝撃モデルだった。
2代目は2009年、プリウスを追うように量販HVモデルを目指して、先代の宇宙船のようなスタイルから5ドアHVフォルムを纏ってデビュー。プリウスTHSの2モーター方式に対してインサイトは1モーター方式を継承したIMAを採用し、徹底した軽量化を加えることによって商品力をアップ。HEVモデルとして初めて月間トップセールスを記録するなど、初代同様話題には事欠くことはなかった。
いまで言う、いわゆるストロングHVのプリウスに対して、当時2代目インサイトはホンダらしいシンプルなHEV構造と軽量5ドアハッチバックボディの組み合わせによって、価格のお手頃感が受けていた。確かに、プリウスvsインサイトの試乗においてもインサイトで充分! と、私も記名原稿を書いた記憶がある。いまほどHEVが市場に浸透していなかった当時は、電池やモーターの機能価値は未知数だったし、重くなるぶんだけまだまだお邪魔な存在として受け止めていた。

あれから10年が経ち、すっかりとその立場は逆転した。HEVが主力となりつつある日本市場ではインサイトのパラレルHEVに対して2モータ-のストロングタイプのスプリットHEVが主流となって、トヨタのHEVは2017年に累計販売台数1000万台を記録するまで成長した。
反面ホンダを代表するHEV専用モデルの2代目インサイトは2014年に生産を終了。2013年にフルモデルチェンジを行なったフィットに7速DCTと1モーターを組み合わせたi-DCDシステムや、日本仕様のみHV専用モデルとして投入されたアコードに2モーターのi-MMD、2014年には同様にレジェンドに3モーターのスポーツHV・SH-AWDを採用するなどHEVシステム自体は多彩であったものの、トヨタとの差は開くばかり。ホンダらしく独創的で豊富なラインアップでHEV市場を引き継いだものの、コストほど認知度が高まっていないのが実情だろう。
主導権を握れないどころかそのシステムの違いさえ浸透していないなか、ホンダの威信をかけて復活させたのが、HEV専用モデル、しかも上級モデル用のハイブリッドシステム、i-MMDを載せた現行3代目インサイトだった、はずだ。
新型車として登場した当時の印象からすると2代目インサイトとは比較にならないほど上質な作りで、2モーターの走りはスムーズな上に扱いやすい。ハンドリングだって、ペースを上げていっても決して音を上げない懐の深さがあって、今度こそホンダを代表するモデルになると思っていた。にもかかわらず、現行インサイトはデビューから1年以上たったいまでも街中であまり目にすることがない。販売実績を見ると2019年1月から4月までは、かろうじてデータが残る50台には入っていたものの、5月以降はドロップアウトしているではないか。
2019年1~6月の累計販売では5867台のデータがかろうじて残っているが、1~12月の統計では50位にすら入っていなくて、販売実績をすぐに確認することはできなかった。ちなみに上半期のトップはプリウスで70277台。インサイトの約12倍の売り上げである。

一体この差は何なのだろうか
まずはあらためて子細を見ることにした。久しぶりに目にするインサイトはデビュー当初のイメージどおり、シビックより上質で、アコードよりもスポーティ。室内に目を向けるとリヤシートの足元は広いし、インパネ周りの作り込みも最近評判のマツダ車同様に立体感があって個人的には好み。メーターの液晶が大味で暗い印象があることが唯一気に入らないが、厚みのある前席周りの作りはお金がかかっている印象だ。
実際に走り出して見ると低速域ではモーターでスルスルと加速し、EVモデルとなんら変わることがない。EV自体の走りは初期加速以降、伸びがなくて味気ない乗り味と思っていたが、インサイトは力強く伸びもある。
エンジンがかかったり止まったりするトヨタのTHSⅡに比較すると、明らかに次世代のパワーフィールといった印象だし、パワーがモーターに一元化されているだけに、実用域で違和感がない。それどころかエンジン車並みに後半も伸びていくあたりは、EVに対する先入観を払拭してくれる。なによりエンジン音無くしてしっかりと加速してくれることで走りに上質感がある。きっと輸入車のピュアEVのように、大きなモーターだからこそ実現したもので、これにエンジンが組み合わせたインサイトのHEVユニットは、現状1、2を争う出来栄えのはず。

インサイトのHEVシステムを再確認してみると、通常では日産ノートe-POWER同様にシリーズHEVとして機能し、日常レベルではモーター走行する。エンジンは発電用として使う。高速域や急加速を行なうときにはエンジンを始動させて発電モーターを介してパワーサポートしたり、エンジンと直接駆動となる。このあたりはすでに先達のアコードで学習済みだが、インサイトはより一層EVシーンが多い気がする。
プリウスのようにエンジンで加速したりモーターで加速したり、ミックスして走行するなど、状況に応じて稼働するのではなく、あくまでもモーターが主で、エンジンは従の関係。だから、EVとしての走りが実感しやすいわけだ。やはり、モーター自体のパワーもなければなかなか実現しないシステムだから、ここに関してはコスト高であることに違いない。
それでも充電も含めて、走行サポートなどでエンジンがかかるときも多いが、そのタイミングが絶妙。エンジンの存在感はノイズなどから確かに感じられるが、始動したときや、動力が繋がった瞬間の振動が小さくて、変化が少ない。エンジンは充電の時に大きなノイズを出して走行フィールとの違いに困惑させることもなく黒子に徹してくれている。仮にエンジンがずっとかかっていたとしても常にスムーズさがあり、ホンダらしい精度の高いガソリンユニットであることも大きい。加速感自体1.5ℓ直4というスケールが振動面からも理想的なサイズだったのかもしれない。
走りが楽しめるEV
2モーターシステム自体は、日本デビュー間もない頃に先代アコードで随分と試乗してきたが、明らかにインサイトの方が上質。エンジン自体インサイトは1.5ℓとコンパクトであることも大きいが、マウント類や遮音材などを含めて、EV走行を充分に楽しめるような対策がしっかりと施されているといえる。
ポテンザの欧州向けブランドとも言えるTURANZAを装着していることでもわかるとおり、多くのHEVモデルが低転がりタイヤを選んでいるのとは異なり、走りを決して犠牲にしていないのがインサイトの持ち味。その半面、快適性で言えば路面との当たりがやや重めのぶんだけノイズは発生しやすく、室内にも届いてくる。モーターで走っているにもかかわらず、外からのノイズや風切り音が気になってしまう。
今回は、高速を日光から常磐方面への空いている環境で走っていたこともあるが、パワートレーンからのノイズの進入対策同様、もう一歩改善を望みたいところ。それでも100km/h近くまでモーターで走れる気持ちよさは格別。ゆっくりとした追い越しレベルなら、エンジンに頼ることもないし、トルク感も充分。なめらかさと力強さを実現するモーターのパワフルさをしっかりと楽しむことができた。


ワインディングや高速でペースアップしていくとエンジンの直接駆動モードになるが、モーターのスムーズなサポートも感じられて、1.5ℓユニットがメインで働いていることに不足はない。スポーツモードにするとエンジン音が上昇して、それまでのオーバートップギヤからシフトダウンした印象となり、感覚的にはガソリン車で言えばオーバートップの6速から5速を選んだ時のよう。エンジンと駆動系が1対1の関係になっている時の印象で、アクセルに対する応答がよくなり、エンジンサウンドもややうるさくなってくる。印象としては3000rpmを超してしまっているようなノイズ感で、ガソリン車ならシフトアップしたくなるような領域。それだけにスポーツモードはワインディング以外ではあまりありがたみは感じない。
ハンドリング的にはフロントの接地感が高いことで操作に対する動きは素直。ロールが深くなることも少なく、旋回に見合うぶんだけ沈み込む。モーターや電池の重さを意識させるより、クルマ全体が一体となって重厚さを演出している乗り味で、安定感をキープしながらドライバーの意を汲んだ動きを見せてくれる。ひと言で言うなら操作に対して無駄がなく常に落ち着いている。
このあたりステアリングフィールが軽くて、接地感がアップしたとはいっても常に路面の動きを感じやすいプリウスとは好対照。操作フィールのすべてがプリウスの軽さに対して、インサイトは重め。それでいながらしっかりと操作に対してクルマの動きをコントロールできているのは、シャシー性能が高いからに違いない。
改善するべくは、企業としての姿勢ではないか
HEVシステムも乗り味も、売上ナンバー1のプリウスとはまるで異なるものの、これが販売実績上障害となる理由とは思えない。むしろモーターでの走りの良さはピュアEVに迫るものだし、HEVとしての機能も明らかに進化してエンジンの存在感も邪魔をしていない。エンジンとモーターの組み合わせ的には、今回使った上では充分満足できるレベルにある。
走りに関しても常にボディをフラットに保っていて、4輪の接地感も高いことから操縦性も悪くない。あえて言うなら走行中の静けさがサルーンと考えたら物足りないが、それは後に控えるアコードに託せばいい。走りの良さとHEVの可能性ならいまのインサイトはやっぱりベストなパッケージングに思えてならない。今回400km以上を走行。その8割がたが高速をやや速めのペースでの走行だったが21.3km/ℓの燃費も悪くないと思う。なにしろたった40ℓのタンクながら、500km近く走ってまだメーターが半分を指している。その上でまだ300kmくらい走れるのだから。
もしかしたらプリウスならさらに良い燃費データを残してくれるかもしれないが、クルマに要求されるものはやはり走行性能こそが優先されるべき。走ってナンボ! と常々思っている自分にとっては、燃費が少々劣ってたとしても、プリウスとどちらを選ぶかとなれば、間違いなくインサイトを選ぶ。

あとは価格だ。プリウスが3モデルあって、256~306万円なのに対して、インサイトは332万円(LX)と356万円(EX)の上下グレードのみ。同じクラスのモデルとして認識するにはやや差があることは否めない。HEVの機能を考えると価格差があることは充分納得できるものの、この時点でプリウスと同じ土俵に上がれないのは痛い。せめて300万円前半のモデルがあれば、プリウスに大敗することはなかっただろう。また、ホンダ自体もインサイトの実力をあまりにも伝えなさすぎる。ショールームでさえあまり目にしないクルマを買うほど酔狂な人も多くないだろう。
いま一度、ホンダ自体がこのクルマの魅力を再認識して販売戦略を練り直す必要性があるのではないだろうか。今回あらためて試乗し、その性能の高さ確認してみると、プリウスに負けているのは、性能ではなくて戦いの場にすら出て行っていない弱腰の姿勢にあると思う。以前のようにホンダらしく、商品に対する自信を胸張って伝えてほしいものである。
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ホンダ・インサイトEX
全長×全幅×全高:4675mm×1820mm×1410mm
ホイールベース:2700mm
車重:1390kg
室内長×幅×高:1925mm×1535mm×1160mm
サスペンション:
F|マクファーソン式
R|マルチリンク式
タイヤ:215/50R17
駆動方式:
エンジン形式:直列4気筒DOHC
型式:LEB-H4型
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm
圧縮比:13.5
最高出力:109ps(80kW)/6000rpm
最大トルク:134Nm/5000rpm
最小回転半径 5.3m
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:40ℓ
モーター:H4型交流同期モーター
最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm
最大トルク:267Nm/0-3000rpm
JC08:31.4km/ℓ
WLTCモード燃費:25.6km/ℓ
市街地モード 22.8km/ℓ
郊外モード 27.1km/ℓ
高速道路モード 26.2km/ℓ
車両本体価格:356万4000円
※試乗車はオプション込み
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