VWゴルフGTI TCR 最新のLSDの効果をテスト! ハイパワーFFスポーツで効果絶大。標準仕様GTIを比較してみる
- 2020/05/08
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MotorFan編集部
そこで回転差を吸収しつつパワーの流出を防ぐことを重要視して、生まれたのが回転差応答型のビスカスカップリングタイプや、左右輪のトルク差で機能するトルクセンシングタイプ。曲がる性能とトルクの流出を抑えることができる優れものである。ただ、ビスカスタイプは回転差が生じて初めてシリコーンオイルをマルチプレートが剪断し、その粘性でトルクを伝えるので、タイムロスや駆動ロスが大きい。一方、トルクセンシングタイプは、タイヤが路面に接地している限りは理想的な駆動力配分や旋回力を生むが、インリフトしてしまうと、ノーマルデフのようにトルクが流出してしまう。
これを何とかできないものか、というよりあってもおかしくなかった電子制御LSDの登場となる。
電子制御油圧式フロントデファレンシャルロック
ゴルフGTI TCR に採用されている電子制御LSDの機能について検証してみた。
ベースとなったゴルフGTI はすでに横滑り防止装置であるESCの拡張機能を用いてフロントタイヤイン側の滑りに応じてブレーキ介入させる電子制御デファレンシャルロック『XDS』を採用しているが、GTI TCRはデフ自体の機能を制限する、電子制御油圧式フロントデファレンシャルロック機構を持つ。
この機能は、フロントデフを介して左右の駆動輪の間にクラッチ機能を持つマルチプレートを組み合わせ、片輪に滑りが生じると電子制御により油圧で締結力をコントロールし、駆動力を最大限に発揮させる仕組みだ。
『XDS』がブレーキ制御に頼る疑似LSD機能であるのに対し、TCRの電子制御油圧式フロントデファレンシャルロック機構は、駆動力自体を機械的にコントロールする本格派である。
ゴルフGTI TCRの電子制御油圧式LSDもマルチプレートを電気的に圧着させてパワーを両輪に振り分けるという意味では機械式と考え方は同じ。いっぽう、接地性に合わせてプレートの圧着力をコントロールしてトルクを左右に振り分けるという意味では、トルクセンシングデフの考え方とよく似ている。つまり、FFスポーツモデルにとっては、駆動力と旋回力を両立させることが重要で、機械式のLSDとトルクセンシングタイプの考え方を生かした電子制御LSDはいま、もっとも進んだデバイスに違いない。
実際にゴルフGTI TCRでインフォテイメントシステムからスポーツモードを選んで試乗した印象を伝えると、ステアリングを切った方向にグイグイと引っぱっていってくれる走りの良さは、ステアリングと格闘しながらサーキットを走っていたときとは隔世の感がある。正にオン・ザ・レールの走りは見違えるほど動きが素直で、速い。トルクステアも抑えられていて実に扱いやすい。これならFFスポーツモデルのLSDとして効果的である。
今度は、ノーマルデフ状態に近いモードを選んでワインディングを走行してみると、スタートダッシュでステアリングが左右にとられると同時に、スリップコントロールのサインが点滅し、290psのパワーを前輪だけで支える事への限界を教えてくれて、LSD効果も薄い。
もちろんこの電子制御デバイスのおかげで、旋回中にパワーをかけていくと、空転しそうになる内輪にブレーキをかけて、LSD機能を満たそうとはするが、コーナーでペースを上げていこうとすると、ブレーキのフェード臭が強くなる。
エンジンパワーが犠牲になり、操っている印象も薄いし、進行方向にノーズは向いてくれてはいるものの、グイグイと引っぱっていくとまでは言えない。安定感は高くライントレース性はよいものの、サーキット走行を行なうと、きっと旋回速度を規制されてしまうことにストレスを感じてしまうはずだ。パワーを押さえ込む減算制御ではなく、パワーを生かし駆動力を最大限生み出しすことこそがLSD効果への期待というものだ。
パワーをかけて、ステアリングやスロットルワークでコーナーは抜けたいのは、FFに限らずスポーツモデルの醍醐味だ。ブレーキ制御はオフにしたうえで、インフォテイメントシステムからデファレンシャルロックを選び出し、モード違いで走ったのが上の写真、上下2カット。上が電子制御デファレンシャル効果を最大限発揮させたスポーツモード。下がノーマルデフに近い状態だ。駆動力が適正に伝達されている上のカットと、ノーマルデフに近い下のカットでは、まずステアリングの切れ角が違うことわかる。
下のコーナリング状態は、旋回速度を合わせてステアリングを切り込んでいってはいるものの、旋回姿勢に入ると同時にイン側の接地感が減少し、トルクが抜け始める。さらにパワーをかけていこうとしてもイン側のリフト量は収まらないから、トルクはさらに流失して速度は上がらない。同時に空転しているぶんだけ旋回力は落ちるから、ステアリングを切り込み旋回力と駆動力とのバランスをとっている。そのため、舵角は上のカットに比べて拳半分ぐらい多くなっているのがわかる。駆動力が増加していないから、一度傾いたボディは大きいままとなっている。
いっぽう、上のカットでは、旋回速度に合わせてステアリングを切り込んでいっても、初期のロール量は同じものの、イン側からのトルクの流出は感じにくい。一度はリフト気味にはなってタイヤのグリップ力は落ちた物の、滑りが生じようとしたところ、空転しそうになったところをセンシングして油圧でクラッチプレートを圧着。イン側の空転を押さえ込むことによって、前輪の駆動力を復元して旋回力をキープした。
体感的にはパワーをかけていっても駆動方向の滑り感は感じられないどころか、グイッと引っぱっていこうとする。結果、旋回外方向に働いていた力が、進行方向の力に打ち消されてボディの傾きも収まってくれている。まさに、駆動力の高さによって姿勢を安定させている結果がこの2枚のカットの違いなのだ。
つまり、電子制御LSDは、機械式LSDのように左右輪の回転軌跡を考慮せず、力ずくで直結状態を作ったり、ビスカスLSDやのように回転差は生かしてくれているものの、タイムラグや駆動ロスが大きいのとは異なって、タイヤの性能を上手に引き出してくれていることがわかった。もっとも現状トルセンLSDのように日々進化しているものもあるし、ESCの拡張機能もより高度化している。なによりもFFのシャシー自体が接地性を上げていることでLSD自体の要求シーンが減ってきていることも確かだ。
ゆえに今後FFスポーツモデルの駆動力コントロール技術がどこに落ちついていくかはまだまだ未知数である半面、より緻密な制御が要求されていくに違いないから、次の一手は実に興味深い。4輪でクルマが動いている限りデフの進化は止まらない。改めて奥が深いことを知り、知れば知るほどその違いを掘り下げていってみたくなった。
また、タイヤの限界もあることから、LSDを装着したからといって、FFが4WDのように強力な駆動力を得られるものではない。あくまでもタイヤの性能低下分を補うことこそが目的だから、過度な期待感は禁物。
いままで捨てていたトルクを無駄なく拾い上げる作業こそがLSDの仕事だから、いうなれば排気エネルギーを再利用したターボシステムみたいなもの。環境対応としてダウンサイジングターボができたように、駆動ロスを最小限に抑えて燃費効率を上げるなど、LSDの利用価値はスポーツドライビングアイテムばかりでなく、次世代車両に向けて再認識され大きく進化するときが来るかもしれない。これからも注意深く、その機能を追っていきたいと思った。
VWゴルフGTI TCR(FF/7DCTT)
全長×全幅×全高:4275mm×1800mm×1465mm
ホイールベース:2635mm
車重:1420kg
サスペンション:
F|マクファーソンストラット式
R|4リンク式
タイヤ&ホイール:235/35R19
駆動方式:FF
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
型式:DNU型(EA888)
最小回転半径:5.7m
排気量:1984cc
ボア×ストローク:82.5×92.8mm
圧縮比:9.3
最高出力:290ps(213kW)/5400-6500rpm
最大トルク:380Nm/1950-5300rpm
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
燃料:プレミアム
燃料タンク:50ℓ
燃費:
WLTCモード燃費 12.7km/ℓ
市街地モード 9.2km/ℓ
郊外モード 12.8km/ℓ
高速道路モード 15.1km/ℓ
トランスミッション:7速DCT
車両本体価格:509万8000円
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