開発ストーリーダイジェスト:トヨタ・ハリアー
- 2020/05/18
- ニューモデル速報
様々なメーカーがクルマを開発しているが、その過程には様々な苦労や葛藤があるに違いない。とりわけ、長い歴史を誇るモデルでは、全くのゼロからのスタートした初代はもちろん、代替わりの際の重圧もあっただろう。今回はまもなく新型が登場する「トヨタ・ハリアー」の開発ストーリーを初代から三代目まで振り返ってみることにしよう。
REPORT:ニューモデル速報編集部
まもなく4代目となる新型の発売を予定しているハリアー。その初代モデルが誕生したのは1997年のことだ。開発でチーフエンジニアを務めた内本恒男は、「日米ともにMPV(多用途車)が流行っていて、97年には全需要の50%を超える勢いがある。消費者はセダンに飽きてきた上に、使い勝手の制約に不満もあった。一度でもミニバンやSUVの高いアイポイントを経験すると戻れない。」と振り返った。
実際、自身もエスティマに乗っており、たくさん荷物を積める点と見晴らしの良さに魅力を感じていたのだが、地上高がネックになる場面にも遭遇したという。また、当時の消費者の多くはクルマの買い替えは上級車へのステップアップであり、上質な乗り心地を一度でも体験すると捨てがたいものだった。そういった経験や事情から、クロスカントリー性や動力性能そして静粛性を兼ね合わせたクルマができないだろうか?というのがハリアー誕生のきっかけとなった。さらに、RAV4の成功も後押しになったという。
しかし、全く新しいジャンルへの挑戦だけあって様々な苦労があった。ワイドカムリの横置きパワートレーンが採用されたがセダンよりも高い着座位置を成立させるためにフロアパンを新設したほか、後席の空間についても広さを求めるアメリカ側に対してボディの取り回しを良くしたい日本側とで対立があったという(後席のスライド機構で解決)。乗り心地では、従来のSUVに不足していた安定感を高めるために、大型井桁型フレームを用いた最適ジオメトリーの確保やリヤスタビ径やダンパー減衰力を詰めてステアリング応答のしっかり感を出したという。
ラグジュアリーSUVという新ジャンルを開拓した初代の功績を受けた二代目では、「運転する楽しさをより高めようという目標を立てた」と主査を務めた岡根幸宏は語る。
初代ハリアーでも乗り心地やハンドリングは決して悪くなかったが、プラットフォームとサスペンションを刷新することで、直進安定性とコーナリング時のトレース性能を高めたという。また、競合車(X5、Mクラス、カイエン)が登場してきたこともあって、ハリアーの存在感を際立たせるために最上級グレードにはエアサスが採用された。
インテリアの質感向上も図られており、木目調パネルにウォールナット柄とバーズアイ柄の2種類を用意。ステアリングホイールに用いられるウッドは、アメリカでライフルの銃床を作っているところが手掛けるほど本物感が追求された。また、静粛性についても音を遮るという方向から音を吸収するという方向へシフト。これによって、会話明瞭度を上げつつ、軽量化も達成。上質な内装や乗り心地は、200km/h以上の高速で走るヨーロッパや荒れた路面のアメリカでも誇れる仕上がりとなった。
初代、二代目と正統進化を遂げたハリアーだが、有元真人がチーフエンジニアを務めた三代目はレクサス・RXから独立して日本専用モデルとして開発が始まった。初代と二代目が当時の新技術を数多く搭載して築き上げた革新と先進そして高級という特徴はそのままに、若年層の購入比率が高かったことにも着目し、そこをしっかりと掴むことが最大の目標だったという。
まずボディサイズは、二代目から小型化が図られた。当初は日本での取り回しを考慮して全長を4700mm以下に収めようとしたが、デザイナーとの1ヶ月にわたる議論の末、スタイルがよく見えるように4720mmに落ち着いた。
初代から受け継がれていた乗り心地の良さは、日本で使うことから50〜60km/h以下における常用域に注力し、テストコースでも上限が60km/hに制限して味付けされた。その他にも、ボディ剛性を向上させるだけでなく、あえてわずかにねじらせることで突っ張り感を解消したり、室内の隔絶感を高めるために遮音・制振・吸音材の配置を見直し、ドアを閉めた瞬間の静寂感にもこだわったという。
インテリアは“ちょっと着崩したフォーマル”をテーマに、キルティングパターンを施したシート表皮や本杢調パネル、本革調のトリムなどを用いて本物を超えた高級感を表現するために、初期段階から素材を吟味するというユニークな手法でデザインされた。
そんな三代目ハリアーは、お買い得感も魅力であり、当時の優遇税制恩典を確保するべく2.0L直4を搭載。FF車で280万円と価格を抑えることにも成功した。初代と二代目はプレミアム路線を目指していたが、三代目はライフステージではなくライフスタイルで選ばれるクルマとして仕上げられた。
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