1981年東京モーターショー人気ナンバーワンの3ドアスーパーカー!いすゞピアッツァ |1981年 第24回・東京モーターショー 前編【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】
- 2020/08/14
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荒川 健
80年代、日本の自動車業界はますますの加速を見せる年代だ。その幕開けともいえるのが、この第24回東京モーターショー。145psの自主規制を打ち破ったノンターボの2.8リットルDOHCで170psを発揮して見せてトヨタ・ソアラの市販化、そして驚異のデザイン、いすゞ・ピアッツァの登場など時代の進化が目に見える形で表れ始めたのである。
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117クーペをデザインしたジウジアーロが再び魅せた
1981年、日本ではアートへの関心が高まりカーデザインも急速に進化を遂げた年であった。テレビコマーシャルで「芸術は爆発だ」と岡本太郎氏が叫び、“カーデザインも芸術だ”と言わんばかりに登場したのが いすゞ・ピアッツァであった。
この年の6月に発売したこともあり、TOKYO MOTOR SHOWではナンバーワンの人気で、他社のカーデザイナーや技術者はカメラをひっさげ小さなメジャーと15センチスケールをポケットに忍ばせ晴海に行き、私も実物を前にし「ヨーロッパ車を超えている!」と感動した記憶がある。スポットライトに照らされたシルバーのボディはコンセプトカーのように美しかった。
デザインしたのは伝説のカーデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ氏だ。
1973年のフランクフルトショー以来、Asso(エース)の名前で毎年出品してきた集大成がAsso di Fiori(クラブのエース)である。1978年にいすゞと契約を交わし1979年3月のジュネーブショーにデザインモデルを出品。そして1981年3月のジュネーブショーにはISUZU-Xの名で実車が展示されたのであった。
ウエッジシェイプと名付けられたクサビ形をした最先端スタイルの3ドアスーパーカー!
シンプルなボディはフラッシュサーフェイスと呼ばれる最新技術を採用、ガラスの段差が少ない美しくカーブした面で構成されていた。
少々技術的な話になるが、このフラッシュサーフェイスはとてつもなく面倒なボディ製作法なのだ。たとえばドアガラスを支えるには支持フレームや窓枠の強度が必要で、それ相応の太さや幅が求められる。したがって設計する際には基準線をガラスの厚みも考慮し全て外側をゼロとして取り付け位置を細かく内側で変化させるのだ。これでやっと表側が平らになる。
さらに、ドアの外側にはオープニングレバーが有り最低でも50㎜程度は内側にスペースが必要だ。そしてドアガラスがさらに内側を滑り降りし、ロック機構やドアパネルの補強材などもその隙間に入らなければならない。しかも強度計算の結果や仕様の変更などで板厚が変わったりしたら、その都度手動もしくは手描きで修正をしなければならなかった。当時コンピューターやCADなどの開発ソフトが未発達な時代、本当にいすゞの技術者とデザイナーはすごいことを驚くほどの短時間で成し遂げたのであった。
またそうした新技術実現以外に大問題だったのが、専門用語でフィジビリティ作業(生産技術上の制約、例えばラジエターの大きさ、エンジンの高さ制限、プレスで絞れる深さの限界などを盛り込みデザインモデルのカタチを損なわないように設計すること)の大変さだ。
後年、専門家の間で驚異的とも評されているのが、妥協を許さなかったこの設計作業なのである。ジウジアーロの会心作を実現したいという設計チームの熱意は半端ではなかったのだ!
デザインに多大な進化をもたらしたフラッシュサーフェスボディは、サイド面のドアガラスとピラーの段差が通常だと15㎜から20㎜あったものが、2~5㎜に改善され空気抵抗が大幅に減った。当時第二次オイルショックも起こり燃費向上が求められ、あらゆる車種での空気抵抗係数の低減がブームになり、ピアッツァはその先駆けであった。
美しく見せる技に傾注
ピアッツァには多数の優れたデザイン処理があるが、中でも最高なのはパーティングライン(parting line : 分割線) 設定の絶妙さである。強度を考慮し力強さも同時に表現しながら、すべてのラインがこれしかないというカッコいい位置にあるのだ。それと深い関係にあるのがルーフやボンネットの角の美しい丸さ具合である。その丸さを乗り越えた最適な位置にパーティングラインが有る!
ここで天才ジウジアーロ氏ならではの造形マジックについてご紹介しよう。
ウエッジシェイプのカッコよさを最大限引き出すには、キャビン(客室)中央付近のサイド断面(主断面)を上手く設定することが重要であり、どんなにカッコいいサイドビューが決まったとしても、クレイ作業はこの主断面が決まらなければスタートできないのだ。そしてできるだけその断面を変化させないよう前後に流すことができれば、あの美しいハイライトの面が約束されるのである。
プランビュー(真上から見たカタチ)のサイドラインと主断面の相関関係のルールを守りながら、クレイモデルの表面に光や風景が美しく映り込むよう試行錯誤し調整する。私がマツダ在籍時代はこの作業を「玉成」といっていた。この調整作業を延々と、時には1か月以上かけて根気よく繰り返す場合もあった。
しかし、ジウジアーロ氏はこの作業が早くて上手いのだ。おそらく三面図的な立体把握感覚が身についていて、たえず三次元で物が見えているとしか思えないのである。そういえばラフに描いた三面図が残されているが、スケールを当ててみると誤差の少なさに驚かされた記憶がある。彼は20世紀のミケランジェロなのだ。
今回はこれでパソコンを閉じるが、ジウジアーロ氏にとってもピアッツァの成功は生涯忘れられないプロジェクトだったに違いない。
おまけのまめ知識 by Ken
ピアッツァは、第二次オイルショック後に始まった空力ブームの先駆けでした。
床下の隙間を少なくし平らにすると、CD値はそれだけで0.01~0.02くらい下がりますが、使用しているジェミニのフロアは当時の平均的デコボコだったはずです。にもかかわらずCd=0.36という低い値をたたき出したのでした。ちなみに一般的なセダンは当時0.45がせいぜいといったレベルでしたから、いかに先進的なクルマであったことがわかります。
私が在籍した三菱自動車は1982年頃? だったと記憶していますが三菱重工製の実車風洞を造りました。その後マツダが同タイプを、そして日産が1985年に東洋一の巨大風洞を完成させ、これ以降に開発された車種は風切音や泥はねなど総合的な空力性能が飛躍的に向上しました。
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