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「もしかしたらSONYは、本当に自動車を造るかもしれない」ソニーの自動車産業参入は「YES」か「NO」か。

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日本の自動車メーカー6社(トヨタ/ホンダ/日産/マツダ/スバル/三菱)についていえば、前述のエンジニアリング会社のどれとも付き合いがないところはない。開発委託、基礎解析の委託、さらには自社が行なっているR&D(研究開発)の方向性に誤りがないかについてエビデンス(証拠)を求めるなど、さまざまな形で日系各社が欧州系エンジニアリング会社と付き合っている。

もしソニーが市販車を造りたいのであれば、それを実現する方法はいくらでもある。もちろん資金は必要だ。量産までをソニーが手がけるとしたら少なくとも2,000億円はかかる。この資金をどう確保するかは大きな問題だ。

写真6: 一時期、中国政府はBEVスタートアップ企業を支援したが、生き残ったのは数社だった。その1社であるNIOはこのスーパーカーEP9が事業の「御神体」である。累積赤字を解消できなくても投資家は期待を寄せている。

しかし、たとえば中国ではNIO(蔚来汽車)やBYTON(拜騰汽車)など新興BEV(バッテリー電気自動車)メーカーは市場からの資金調達で数千億円を手にしている。ソニーがクルマを作るとなれば、出資を申し出る投資家は少なくないはずだ。ちなみにNIOはまだ累積赤字を抱えているが、投資熱を支えているのはショーに出品して話題になったEP9(写真6)の存在だ。NIOの御神体である。その意味では、ソニーのVISION-Sは十分に御神体としての素養を持つ。

問題は、ソニー・オートモーティブを立ち上げ市販車を販売して得られる利益と、システムディベロッパー兼システムサプライヤーとして広く不特定多数の自動車メーカーと取り引きする場合とを比べ、どちらが得かということだ。筆者は、後者のほうがはるかに得だと思う。「ソニー・オートモーティブと同じシステムを採用しています」という謳い文句だけで成功できるのは中国とインドの自動車メーカーくらいのものだろう。

いや、これは組み合わせとしておもしろい。たとえば中国の浙江省吉利集団がオーナーであるボルボ・カーズだ。組み合わせとして、ボルボとソニーは非常に魅力的だ。吉利集団は傘下にロータス・カーズを持つからピュア・スポーツカーの展開も可能だ。あるいは、インドのタタ財閥がオーナーであるジャガー・ランドローバーとソニー。これも知名度と企業イメージは充分すぎるくらいある。もうひとつ、英国のアストンマーティンとソニーという組み合わせは、新しいスタイルのハイエンド商品をアストンマーティンが持つ契機になり得る。

コンセプトカーとしてのVISION-Sに話を戻すと、ソニーが車載デバイスの分野として狙っているのは当面2分野だろうと想像する。カーエンターテイメントと、LiDARやカメラなどのセンサー類だ。さらに先を読むとしたら、リチウムイオン電池の生みの親であるソニーという点から電池動力分野もあり得る。

カーエンターテイメントは、現状では音楽を聴いたり映像を見る(当然、運転者は無理)ための仕掛けだが、VISION-Sにはひとつの売りとして「360°あらゆる方向から音が聴こえる立体音響技術」が搭載されている。この機能を礼賛するメディアは多いが、じつは過去に、これと同様の技術はお蔵入りになったことがある。カーオーディオで大きなシェアを有していたパイオニアは、カロッツェリア・シリーズのハイエンド・カスタマイズ商品の目玉機能としてDSP(デジタル・シグナル・プロセッシング)技術を使った音楽での仮想現実空間実現を1980年代後半の時点で開発した。

家庭では、左右スピーカーから等距離の位置に座れば、録音エンジニアが意図したステレオイメージを聞くことができる。しかしクルマでは、右ハンドル車だと運転者は右スピーカーに近く、助手席乗員は左スピーカーに近い。この物理的制約をDSP技術で解消し、どの席にすわっていても「センター席」にいるように聴こえるオーディオシステムをパイオニアは試作した。

当時新聞記者だった筆者は、そのプロトタイプを経験したが、当時は360°均等サラウンドではなく、あくまで左右スピーカーの中央席だったにもかかわらず、音のセッティングを詰めた試乗車を運転すると、自分があたかも「センターハンドル」のクルマを運転しているかのような気持ちになってしまった。車線内で無意識のうちに左側に寄ってしまうのだ。

当然、パイオニア技術陣もその点を危惧していた。結局、安全性を優先してこのシステムはお蔵入りになった。たとえば今後、完全自動運転のクルマが実現すると仮定すれば、360°サラウンドは商品になるだろう。しかし、クルマを運転している実感がなくなるような音楽再生は危険である。ソニーはどのうような展開を考えているのだろうか。

ソニーの車載オーディオは、たとえばフォード純正システムでは聴き疲れのない、耳障りな刺激音を出さない非常に完成されたレベルであり好感が持てる。そもそも走行騒音や車体振動がつきまとうクルマでのオーディオのあり方は、リアリティ一本槍では成立しない。当然、ソニーはそこをわかっているだろう。

写真7:ダッシュボードを占領する全面ディスプレイ。同様のデザインは中国BYTONのほうが先だったが、まだ量産車は出ていない。仏・フォルシアは曲率を持ったディスプレイを開発し提案している。

もう1点、VISION-Sのカーエンターテイメント分野では、ダッシュボードほぼ全幅におよぶディスプレイ(写真7)が売りだ。運転者に対してはナビゲーション画像や車両状態を示すデータを必要に応じて見せ、運転者以外には映画などのプログラムを見せる。ディスプレイ全体をHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)の考え方で一元管理していた。ここに使っていた半導体はアメリカのクァルコム製である。

ソニーのような家電メーカーは、内製部品は意外に少ない。内製する場合は外販を視野に入れて開発するか、自社で相当量の需要を見込める場合にかぎられる。ソニーで言えば、旧コニカミノルタから買収した写真用カメラ部門は現在、フィルムの代わりとなるイメージセンサーの供給元という一面を持つ。普及版のコンパクトデジタルカメラやスマートフォン向けのイメージセンサーは事業の柱のひとつである。ハイエンドのデジタル一眼レフ領域でソニー製イメージセンサーのシェアは低いが、スマートフォンのカメラ数が増えている現在、この分野は好調だ。

その一方で、車載センサー分野ではソニーの存在感が薄い。アメリカの2社、オン・セミコンダクターとオムニビジョン・テクノロジーズを合わせると世界シェアの3分の2を握る。アメリカのエレクトロニクス産業はまだ廃れていない。どんどん新しい勢力が誕生する。ソニーのシェアは約8%である。

写真8: ヴェロダインのLiDAR。もともとはオーディオメーカーだったアメリカのヴェロダインは単純に社長の趣味でLiDARを造り、これが当たったためオーディオ部門は他社に売却した。

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