エンジン車は、いつまで続くか。 その1「ECVノルウェーモデルを読む」2020〜2021年自動車産業鳥瞰図
- 2020/12/30
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牧野 茂雄
ICE(Internal Combustion Engine=内燃エンジン)を搭載する新車の販売が禁止される。英国も、フランスも、そして日本も……このように報道されている。まだ法制化されていない案件ばかりなのだが、世の中には「そうなる」と伝えられている。1年前にはまったく予想していなかった事態であり、「カーボンニュートラル」「電気自動車」といったバズワードだけが完全に一人歩きしている状況だ。では、ここまで急激に政治がICE車禁止へと舵を切った背景は何なのか。そして自動車はどこへ向かおうとしているのか。これを3回にわたって探ってみる。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
さきごろ、日本自動車工業会(JAMA)の豊田章男会長は、オンライン記者会見で参加者からの質問に対して以下のように語った。なお、豊田JAMA会長が言う「電動化」にはさまざまな形のHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=ハイブリッド車)が含まれる。PHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=外部充電可能なHEV)も含まれる。
「日本の電動車比率は世界第2位で35%。1位はノルウェーの68%だが、台数で見ればノルウェーの10万台に対し日本は150万台だ。作っている工場自体も、工場のCO2(カーボン・ダイオキサイド=二酸化炭素)排出量は2009年度の990万tから2018年度には631万tへと36%削減した」
「菅総理の言うカーボンニュートラル2050は、国家のエネルギー政策の大変化なしにはなかなか達成は難しいという点をご理解いただきたい。日本では火力発電が約77%、再エネ(再生エネルギー)および原子力が23%だが、ドイツは火力6割弱、再エネと原子炉47%、フランスは原子力中心だが89%が再エネ&原子力であり火力は11%にとどまる。トヨタ・ヤリスの生産で見れば日本よりフランスのほうがカーボンニュートラルで考えれば成績は良い。となると日本ではヤリスを生産できなくなる」
「あえて言うが、日本で販売される乗用車400万台をすべてEV化したらどういう状況になるかを試算した。夏場の電力ピーク時には発電能力を10~15%増やさなければならない。原発でプラス10基、火力発電であればプラス20基必要な電力規模だ。また、保有自動車のすべてをEV化した場合、充電インフラへの投資コストは約14兆円から37兆円になる。個人住宅の充電機増設は約10〜20万円、集合住宅では50〜150万円、急速充電器の場合は平均600万円かかる」
「BEV(豊田JAMA会長はEV=エレクトリック・ビークルと言ったが、その意味はBEV=バッテリー・エレクトリック・ビークルなので、ここではBEVに置き換えて表現する)生産で生じる課題は、まず電池の供給能力が現在の約30倍以上必要になる。そのコスト(おそらく設備投資だろう)は約2兆円だ。(工場出荷前の)完成検査時には充放電をしなければならないので、年産50万台のBEV工場は毎日一般家庭5000軒ぶんの電力を消費する。1台のBEVの蓄電量は家1軒が1週間に消費する電力に相当する」
「CO2を出す火力発電で電気を作り、毎日5000軒分の電力が単に充放電されるのがBEV生産であり、このような形をわかって政治家の方があえてガソリン車をなしにしましょうと言っておられるのかどうか。ぜひ正しくご理解いただきたい。これは国のエネルギー政策そのものであり、ここに手を打たなければ将来、ものを作って雇用を増やし、税金を納めるという自動車業界が現在やっているビジネスモデルが崩壊してしまうおそれがあるということを、ご理解たまわりたい」
JAMA会長としての発言であり、この発言内容はJAMA理事会での承認を得ているはずだ。JAMAは国内自動車メーカーの団体であり、各社の商品構成はまちまちだ。BEVを推進している会社もあればHEVが中心の会社もある。ICEの熱効率改善に心血を注いでいる会社もある。しかし、自社の立場はさて置き、日本の自動車産業全体としての意見陳述を行なったと筆者は理解する。
日本の主要製造業の製品出荷額は2017年統計で319兆円。そのうち自動車産業は60.7兆円である。設備投資額5.8兆円のうち自動車は1.3兆円。研究開発費12兆円のうち自動車は3兆円。GDP(国内総生産)590兆円に占める自動車とその関連産業の規模は69兆円。全世界での日本ブランド車年産台数は約2700万台、世界生産台数の約28%。これが日本の自動車産業である。
日本で生活している以上、「私はクルマは持たないから関係ない」とは言えない。生活物資は自動車が運ぶ。長距離輸送に鉄道や船を使ったとしても、店頭や倉庫までは自動車が運ぶ。インターネットのウェブサイトで注文した品を発注者まで届けるのも自動車だ。自給自足の生活を送っていたとしても、完全に自動車と無縁ではいられない。何より、食料もエネルギーも日本は海外に多くを依存している。それを購入する原資は海外で販売される日本車が稼いでくる。年産2700万台のうち3分の2は海外生産である。
豊田JAMA会長が言う「電動車比率35%の日本」は、純粋なBEVだけでなくさまざまなタイプのHEVも含んでいる。いわゆる電動化=エレクトリフィケーション率だ。EV=エレクトリック・ビークルというあいまいな表現使い続けてきた日本は一般メディアもひっくるめてEV=BEVであり、ここが誤解の出発点でもある。海外で「ICE車禁止、すべて電動化に」との声があがると電動化=エレクトリフィケーションではなくEV、すなわちEV=BEVと捉えてしまう。これが誤解を呼び、誤解が拡散される。
ちなみに現在、EU(欧州連合)ではBEVとPHEVをECV=エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル(外部充電可能車)と呼んでいる。EUの自動車排出CO2規制はTtW=タンク・トゥ・ホイールの考え方だ。車載タンクからホイール=車輪までの間、つまり走行中に排出されるCO2だけを規制対象にしている。だからBEVはすべてCO2排出ゼロとなる。どのような方法で発電された電力なのかは問われない。火力発電でも原子力発電でも、太陽光や風力などの再生エネルギーでも、電力を使うのであればすべてTtWではCO2排出はゼロになる。
軽自動車も含めて「将来はすべてを電動化する」と管総理と経済産業省内の一部は言う。しかし、それは愚の骨頂ではないか? 車両価格100万円程度の重量が軽くてエネルギー消費も少ないクルマに、わざわざ重たい電池を積んでBEVする価値があるとは思えない。三菱「i」をBEV化した「i-MiEV」は、車両重量が約150kg重たくなった。車両重量が電費に与える影響が大きいことこそは現在のBEVの弱点であり、重たくて高いクルマをだれが買うだろう。「補助金を付けます」と言っても、補助金は国庫負担だろうが地方自治体負担だろうが、すべて原資は税金だ。
豊田JAMA会長が言うように、自動車産業を抱える日本ですべてのクルマをECVにすることは不可能だ。ECV普及のために策を弄すれば弄するほど、おそらくは愚策だらけになってゆくだろう。
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