<特別編> どうなる? 今後のEVデザイン BMW i8登場! 新たな車社会の創出へ 第41回・東京モーターショー 【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】
- 2021/02/26
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荒川 健
昨年末、政府の方針のもとに経済産業省が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表し、TVメディアが一斉に今後のEVについて取り上げるようになった。
そもそも2016年ごろから北欧を中心として2030年から2040年にはガソリン及びディーゼル車の生産を全面禁止し100%のゼロエミッションを目指すという表明が相次いだ。
EU諸国やアメリカを始め世界中が同調する流れの中で、なぜか日本だけが沈黙していたがようやく2020年末に具体的な指針が示されたのである。
見えてきたか? EV社会
TV番組では今後急速にEV開発が加速しアップル社が先行する自動運転技術競争により自動車業界の再編が進むという話題で盛り上がっているが、クルマ全てをEV化するための課題や自動運転の隠れた問題点には触れられていないのが大いに気になるのだ。
100年に一度の変革期であることは私が2013年ごろからモーターファン・イラストレイテッド誌の特集記事などで何度も申し上げてきた。ようやくそのためには何をなすべきかという世論になりつつあるようだが、100%EV社会を実現する為にはクルマのカタチが大きく変わる可能性があることも私はこの機会に強調しておきたいのだ。
前回も申し上げたように、運転免許証とエンジンキーの役目をスマホが果たし、自動運転技術で絶対にぶつからないクルマによる安全な交通環境が実現すれば、現在の衝突時の安全基準を緩和することができ、より軽く小さいEVが可能になる。そうすればより小さなバッテリーで航続距離も長くなり、デザインもさらに自由度が増し、例えばドア下方のシースルーが可能になったり、フロントウィンドウを含めたキャビンを一体成型にすれば全体のプロポーションを大きく変えることも出来るのである。
そこで今回、ちょうど10年前すでにこんなに進んだデザインのEV(プラグインハイブリッド)が存在し、今後のEVデザインを考える上で見逃がせないモデルなので改めてご紹介しよう。
BMW i8コンセプト
フランクフルトモーターショーでお披露目され、1か月後の2011年10月第42回の東京モーターショーに登場、その斬新すぎるスタイルを間近で見た私は、「いよいよここまでやる時代が来た」と身が引き締まった。私だけでなくクルマの開発に携わる多くの方達も同じような衝撃を受けたに違いない。
遡ること2年前の2009年の9月、フランクフルトモーターショーにVision Efficient Dynamics という未来映画に登場しそうなコンセプトカーが発表され、斬新なディテールデザインとレーシングカーのように地を這うスタイリングに当時私は素直に感動した。
しかし、3気筒ディーゼルエンジンと電気モーターで走るハイブリッド、合計で356馬力という触れ込みに、EVで日本勢に後れを取るBMWの今回限りのショーカーに違いないと当時の私は軽く受け流したのであった。
それが僅かなデザイン変更はあるものの、同じイメージで量産寸前の完成度で2年後に発表されたのだから「身が引き締まる」ほど驚いたのである。
なんとコンセプトに近いままで量産型が登場
アルミのバックボーン型シャーシにカーボン主体のボディ、前輪は電気モーター駆動で後輪がミッドシップ1.5リッター3気筒ターボのガソリンエンジンのプラグインハイブリッドと発表され、内容はBMWが本気で考えたEVの理想が示されていた。
バタフライドアはオリジナルのままで、安全上ウインドウの形状はベルトラインから上のみと変更された。デザイン的にはシンプルになり力強さが増したように感じる。
あの特徴的だったリア周りの凝ったデザインも、おおむね再現されていて、空気の流れを思わせる樹脂成型ならではの完成度の高い作り込みにも驚かされた。
またトヨタが2007年に発表したハイブリッドスポーツカー・コンセプトFT-HSのブルーのボンネットアクセントによく似たアイデアを取り入れ、リアにもブラックで強調したブルーのラインでリアコンビネーションランプを縁取りするなど、最近の日産のe-Powerにつながる“ブルー=EVのシンボル”が定着したのではないだろうか。
ちなみに2013年に量産を発表し翌2014年日本でも発売されたのだが、しばらくして都心の丸の内近辺で見かけたときには周囲の落ち着いたビル群に妙に溶け込んでいて、あのSF的なスタイルが以外に似合うということに驚いた。そして周囲のタクシーなどが一気に古臭く感じられたことが今でも忘れられない。
だが最近、このプラグインハイブリッドのi8はイメージリーダーカーの役目を終え生産を終了してしまった。BMWはドイツの2030年ゼロエミッション計画に向け、同時期に発売された純粋EVであるi3生産の一本化を図り、しかも今後大幅な増産を予定しているとのことで、とりあえずカーボンニュートラルに向けた取り組みで世界をリードする形となった。
2035年に向けて…
しかし中国では2019年に早くも法律で2035年100%EV化の実施を決定したが、プラグインハイブリッドは規制の対象外とされていて、国土の広さを考慮すれば合理的な落としどころのように私は考える。不可能とも思える2030年100%EV化を掲げる国よりも、中国は本気で取り組む姿勢が感じられるのだ。
世界の流れは100%EVにむかって正式に動き出した。しかし解決しなければならない大きな問題は数多くある。例えば日本の場合、高速道路のサービスエリアに設けられている充電スポットは現在の100倍は必要になる。1台当たり300㎞走行できたとしてガソリン車の1回10分程度の給油時間に比べ3回の給油に相当する充電が必要で、しかも高速を走る全てのクルマが1台最低30分はかかるからだ。
おそらく今のサービスエリアの3分の1に相当する面積と最低50台の急速充電器が無ければ順番待ちプラス30分のタイムロスになる。果たして未来社会でそんな不便が許されるかという点だ。
さらにはその充電に必要な電力供給の問題がある。専用の高圧電線も大電圧が必要な急速充電器を稼働させる量が必要になるだろう。そして日本中の至る所に高圧電源を備えた充電スポットが立つことになるのだ。
そして最後の大問題は日本の総発電量だ。トータルでの消費電力は原子力発電が望めない現状でいったいどう折り合いをつけるのだろうか。今後10年間で太陽光と風力発電が景観問題をクリアしながら何百か所も造れるのだろうか。
そんなわけで私が最も望ましいと考えるスマートな解決策は、日本が主導してバッテリーを世界共通規格で統一し、個別の充電ではなく、バッテリーユニットのモジュールごと交換する方式の採用だ。これについては、ある企業がすでに開発し実証試験も行われている。
これだとガソリン給油と同等の時間で済み、バッテリーもゆっくり充電できるため寿命も延びるのだ。そして先ほどの充電スペースや設備の心配も無く、ある程度のバッテリー保管庫は必要になるが、現在のガソリンスタンドの数とスペースでほぼ賄える。
そこで私が提案したいのは、EV用のリチウムイオンバッテリーを国有資源と位置づけ、個人の所有物ではなく国がEVの登録台数に従い充電サイクルと流通や劣化を考慮した十分なユニット数を生産し流通させるというやり方だ。
新技術はますます個人負担の金額が大きくなる。それがネックになり一斉のEV化がずるずると引き延ばされるといった、戦略の名目倒れにならないよう万全の策を講じることが必要なのだ。
日本政府が本気で2050年グリーン成長戦略を掲げるなら、バッテリー使用料を出来るだけ廉価にし、国を挙げて“みんなのEV”を構築推進することによって、はじめて明るく発展可能な未来社会が実現できるのではないだろうか。
とにかくこれまでにない、新しい社会に適応した制度の在り方の一つとして私はバッテリーの国有化を提案したい。最近国交省が2035年頃を目標にプラグインハイブリッドを含む100%EV化を推進すると発表し、これで中国と足並みを揃えた形となったが世界に遅れることなく確実に実現できることを願ってやまない。
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