ホンダ・フィット | 極細Aピラーと2本スポークステアリングが車両感覚と舵角の把握を著しく困難に ホンダ・フィットホーム(1.3ℓガソリン車)500km試乗インプレ:安楽なシートと走りで帰省やロングドライブも楽々!…ただしドライバー以外。【最新の軽&コンパクトはファーストカーとして使えるか?】
- 2021/03/14
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遠藤正賢
コロナ禍が猛威を振るう昨今、プライベートな空間を保ちながら自由に移動できるマイカーの良さが見直されつつある。
そこで、クルマの運転のブランクが大きいペーパードライバーや高齢者、あるいはこの機会に運転免許を取得した初心者にオススメなのが、安価かつ狭い道でも扱いやすい軽自動車やコンパクトカーだ。しかし、肝心の帰省や旅行でも、家族みんなが快適に過ごせるのだろうか?
「最新の軽&コンパクトはファーストカーとして使えるか?」と題したこの企画、3台目はホンダのBセグメント5ドアハッチバック、フィットの量販モデル「ホーム」FFの1.3Lガソリン車。高速道路約300km、一般道約200kmのルートを走行した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、本田技研工業
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2020年2月に発売された現行四代目フィットには、性格が大きく異なる「ベーシック」「ホーム」「ネス」「クロスター」「リュクス」の5タイプがあり、パワートレーンはいずれにも1.3Lガソリンエンジン+CVTと1.5Lガソリンエンジン+2モーターハイブリッド「e:HEV」が設定されている。
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発売直後は「e:HEV」の「ネス」「クロスター」および1.3L車の「ホーム」に、千葉県木更津市内を中心として各50km・1時間程度試乗。またその他タイプの実車を見比べる機会に恵まれたが、この中で最もコストパフォーマンスが高いのは1.3L車の「ホーム」だった。
しかし、実際にファーストカーとして使うことを想定すると、この短距離短時間走行で結論づけるのは難しい。そこで今回は1.3L車「ホーム」で高速道路約300km、一般道約200kmを丸一日かけて走り、帰省やドライブに使用した際の走りや快適性を検証することにした。なお、今回のテスト車両は、下記のオプションを装着している。
【メーカーオプション】
・ホンダコネクトforギャザズ+ナビ装着用スペシャルパッケージ
・コンフォートビューパッケージ
・16インチアルミホイール
【ディーラーオプション】
・9インチナビVXU-205FTi
・ドライブレコーダーDRH-197SM
・ETC2.0車載器ナビ連動タイプ
・フロアカーペットマット
前回のテスト車両はボディカラーがミッドナイトブルービーム・メタリック×シルバーの2トーンだったが、今回はエアーライトブルー・メタリックのモノトーン。やはりこちらの方が、先代より一転したエクステリアデザインのシンプルさが際立ち好感が持てる。
シンプルなデザインに一転したのは運転席まわりも同様だが、いたずらにタッチパネルに頼らず、むしろダイヤルやスイッチを多く残し、シフトレバーもe:HEVを含めて全車ともごく一般的なストレート式としたのも見識だろう。ただし、2本スポークのステアリングホイールはやはり、舵角を直感的に把握しづらい。またリム部のウレタンが滑りやすいのも、他社に下手な本革より触感に優れるものがある今となっては要改善点だ。
その一方、フロントシート下に燃料タンクを配置する「センタータンクレイアウト」は、2001年に発売された初代より継承され続けている。これが実現するのは、大人の男性4人が快適に過ごせる居住空間と、1人分の引っ越し荷物さえ飲み込む広大な荷室、多彩なシートアレンジというフィットのコアバリューであり、この3つを兼ね備えるという点においては、初代デビューから20年が経過した今なお競合他車を全く寄せ付けない。
とりわけ現行四代目は前後シートのパッドがサイズアップされたことで、ホールド性とフィット感が劇的に改善されている。ただし、先代より不足気味になっていた後席のヘッドクリアランスは現行モデルでも改善されておらず、身長174cm・座高90cmの筆者では後頭部がルーフ骨格に当たってしまう。また、後席をダイブダウンさせた際、荷室フロアに若干の段差ができるようになったのは痛し痒しか。
さて、ホンダの本社がある東京・青山から都心の幹線道路を走り始めると、運転席の柔らかくもコシのあるたっぷりしたクッションが全身を包み込み、これにスローな反応のアクセルペダルとステアリング、ソフトながら粘り腰なサスペンションも相まって、早くもその安楽さに身を委ねたくなる。また、アイドリングストップからの復帰も、EPB(電動パーキングブレーキ)をオートホールドにした際の発進も滑らかで、街乗りは快適そのもの。しかし、ゆったり流していると刺激は少なく、一方で粗粒路でのロードノイズはやや大きいため、眠気を催しやすいというのが偽らざる本音だ。
やがて首都高速道路に乗り、都心環状線、横羽線、湾岸線と大回りして池袋線から大宮線・与野ICまで走り続ける。
すると、街乗りでは心地良く感じられたスローな反応、とりわけアクセルペダルのそれが、非常に心許なく思えてくる。特に合流や追い越し時に加速がワンテンポ遅れがちで、本格オフローダーを運転しているような錯覚に囚われる。しかし、それを見越してアクセルペダルを深く早く踏み込み、エンジン回転を4000rpm以上に高めると、加速・レスポンスとも俄然良くなり、エンジンサウンドも甲高いものに豹変するのは、むしろホンダ車らしいと言えるだろう。
有効水平画角約100°の単眼カメラが新たに採用されたADAS「ホンダセンシング」も試してみたが、渋滞追従機能付ACC(アダプティブクルーズコントロール)は車間距離をやや開け気味で、かつ再加速時の速度回復はやはり遅い。だがLKAS(車線維持支援システム)の制御は自然で、直進時は蛇行せず、かつRの小さなコーナーでも制御を放棄せずにしっかり旋回するのは驚きだった。
与野ICからは一般道で川越・小江戸へ向かい、さらに国道254号線で埼玉製作所寄居完成車工場の最寄り駅、東武東上線みなみ寄居駅へ。
このコースは道幅は広いが凹凸は大きく荒れた幹線道路と、歩行者や自転車の追い越し・すれ違いに気を遣う細い生活道路の両極端だったが、前者では意外なほど車体が左右に揺すられやすく突き上げも強めで、疲労を蓄積させやすいことに気付く。
そして後者では、現行フィットが大きなセールスポイントとする極細のAピラーが、斜め前方の死角低減には寄与する一方、車両感覚を著しく掴みにくくしていることに気付かされた。具体的には、視点を遠くに置くほどその極細Aピラーを脳が認識しにくくなるため、幅方向の余裕を多めに取り、速度も落として走行せざるを得ないのだ。
またフィットのボディ形状はワンモーションフォルムのため、元よりボンネットは運転席から視認できないのだが、Aピラーが意識の外に消えるため、その傾斜角からノーズ先端の位置を推測することも容易ではない。
これほど致命的なレベルで人間工学に反した設計がなされていると、ドライバーがそれに慣れることで対応するのは難しい。もし狭い道を走り続けることになれば、ドライバーは早々に疲労困憊となるだろう。
なお、約500km走行後のトータル燃費は19.2km/L。WLTCモード燃費19.6km/Lとほぼ変わらず、帰省に使ってもおサイフに優しいと予想できる結果となった。
長さは4m以下、幅は5ナンバーサイズで、立体駐車場に難なく入る高さながら、居住空間・荷室とも広くシートアレンジは多彩。細かな欠点はあるものの、あらゆる場面で役に立ち、かつ快適に走り続けられるのは間違いない。ただし、ステアリングと前方視界の設計に難がある。
端的に言ってこの現行四代目フィットは、運転が苦手な人に優しいクルマではない。むしろ助手席か後席に乗せてもらった方が、快適に帰省やドライブを楽しめる。運転は多くのクルマを乗り継いできた熟練ドライバーに任せた方が無難だろう。だがその場合は道中、疲労困憊になるであろうドライバーをぜひとも労ってほしいものだが。
■ホンダ・フィットホーム(FF)
全長×全幅×全高:3995×1695×1515mm
ホイールベース:2530mm
車両重量:1090kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1317cc
最高出力:72kW(98ps)/6000rpm
最大トルク:118Nm/5000rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:195/60R15 84H(テスト車両は185/55R16 83V)
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:20.2km/L(テスト車両は19.6km/L)
市街地モード燃費:15.5km/L(テスト車両は15.2km/L)
郊外モード燃費:21.0km/L(テスト車両は20.5km/L)
高速道路モード燃費:22.6km/L(テスト車両は22.0km/L)
車両価格:171万8200円
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