【日産フェアレディZ 50thアニバーサリー:900km試乗】古き良き大排気量FRスポーツカーの味を今この時代に味わえる喜び
- 2019/12/23
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遠藤正賢
日産を代表する大排気量FRスポーツカー「フェアレディZ」が生誕50周年を迎えたことを記念した期間限定モデル「50thアニバーサリー」が、2020年3月までの期間限定で販売されている。その6速MT車に乗り、日産本社がある横浜市内から新東名高速道路を経て鈴鹿峠、関宿に至る往復約900kmのルートを走行した。原点回帰を果たしたと言えるこの記念車の、GT性能とワインディングでの走りはいかに。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●平野陽(HIRANO Akio)、日産自動車
下記記事の通り、今回の試乗は新型トヨタ・スープラRZをお伴にしたロングツーリングだったのだが、フェアレディZとスープラは、メーカーは違えど実に似た者同士である。熱狂的なファンからはお叱りを頂戴しそうだが……。
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敢えて大雑把に断じてしまえば、両車とも高級FRセダンのコンポーネンツを巧みに活用し、安価ながら高性能で長距離を快適に走れる、アメリカ市場を主眼としたGT性能の高いスポーツカーとして生を受けた。そのキャラクターと成り立ちは、両車の歴代モデルに脈々と引き継がれている。
そして、現行世代のZとスープラに的を絞って見てみると、いずれも先代より全長とホイールベースが大幅に短縮。回頭性を重視しピュアスポーツ路線を強めたパッケージングとなっている。
しかしながら、それで歴代各車が持ち味としていた、GT性能が損なわれたのかと言えば、さにあらず。下記記事に記した通り、いずれも極めて高い旋回性能とGT性能を兼ね備えていた…新型スープラは「RZ」、フェアレディZは「ニスモ」に限定されるが。
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スープラRZ、フェアレディZニスモは共に、各車における走りのトップグレードであり、パワートレイン、シャシーとも、最も高性能なものを備えている。Zニスモに至っては、シートやボディ補強も専用品だ。また両車とも、空力デバイスを積極的に用いており、これが特に中高速域での操縦安定性向上に大きく貢献しているのは間違いない。
しかしながら、今回試乗した「50thアニバーサリー」は、最もシンプルな標準仕様がベースとなっている。
この標準仕様に対しては、1970年にアメリカのSCCA(スポーツ・カー・クラブ・オブ・アメリカ)のレースで優勝した「Datsun 240Z BRE」をモチーフにした2トーンボディカラーとステッカー、50th Anniversaryエンブレム、リムにレッドラインを追加した19インチアルミホイールを採用。
室内も、50周年記念ロゴと専用ステッチが施されたパワーシートのほか、センターストライプを施したアルカンターラ表皮のステアリングホイール、専用キッキングプレート、専用カラーのシフトノブでコーディネートされている。
これらの結果、シンプルでグラマラスなデザインを持つ、素のフェアレディZの古典的な佇まいがより一層強調され、最新のスープラにはない独特の“味”を醸し出すに至ったのが面白い。
「昔は良かった」と「あの頃が懐かしい」は、筆者個人としては口が裂けても言いたくない言葉のトップ2であるが、なるほどこれならば当時を知る人はからはノスタルジックな、筆者を含め当時を知らない人からはむしろ新鮮なものとして、歓迎されることだろう。
その一方、「ニスモ」専用の前後バンパーやサイドシルプロテクター、リヤスポイラーは備わっておらず、前後のパフォーマンスダンパーやアンダーフロアのボディ補強もない。VQ37VHR型エンジンのパフォーマンスはニスモの355ps/7400rpm&374Nm/5200rpmに対し336ps/7000rpm&365Nm/5200rpmだ。
サスペンションのセッティングも違う。タイヤ&ホイールも、上級グレードと同等にされてはいるものの、「ニスモ」と比較するとリヤタイヤの幅が1サイズ小さく(285/35R19 99W→275/35R19 96W)、タイヤ銘柄は「ニスモ」のダンロップSPスポーツMAXX GT600に対しブリヂストン・ポテンザRE050Aと異なる。
そして、最大の懸念事項は、「ニスモ」(ブレーキホースとフルードも高性能タイプ)と「バージョンST」「バージョンS」に標準装備される4輪アルミキャリパー対向ピストンブレーキが備わらないこと。加えて、「ニスモ」のレカロ製セミバケットシートに対し、「50thアニバーサリー」は表皮こそ専用だが基本的な構造はその他のグレードと同じで、しかもあの悪名高い、調節スイッチが座面サイドサポートに備わるパワーシートに格上げされていることだ。
今回の試乗は、120km/h制限区間を含む新東名高速道路に鈴鹿峠のワインディング、関宿のタイトで超低速走行を強いられる宿場町まで含まれた、往復約900kmものロングツーリング。こうした違いがもたらす影響は、長旅の中で見えてくるだろうと思っていたのだが……ことシートに関しては、運転席に座った瞬間、見えてしまった。
「これは900kmも走り続けたら、間違いなく疲労困憊になり、腰の持病も悪化する」。そう直感した。
具体的には、座面の前後長が明らかに短いうえ、前後高さをどのように調節しても、ヒップ周りの落とし込みが少なく平板な形状はカバーできない。だからどうしてもヒップに面圧が集中し、太股や膝裏はやや浮いた状態になる。そして背もたれも高さが足りない。中でも致命的なのは、その絶対的なサイズ不足だ。
座面は中央前後を測ってみると53cmあるのだが、座面後端と前端中央は盛り上げられているため、実際にヒップと脚が触れるのはスエード調ファブリックが用いられている部分。そこで計測した座面長は47.5mに過ぎなかった。背もたれも、ヘッドレストを含まない高さは58cmしかない。これでは有り体に言って、よほど小柄な人でなければ、フィットするはずもない。
筆者は身長176cm・座高90cm・体重100kgで、しかもヒップが高く大きく脚が長い、どちらかと言えば白人や黒人の中年男性に近い体型の持ち主である。だから合わないのはやむを得ない……で済むはずがない。これは軽自動車でもクラウンでもない。アメリカを主戦場とするスポーツカーである。先代Z33型がデビューした2002年から現在に至るまで、ほぼ改良することなくこのシートを使い続けた日産には、改めて失望の念を禁じ得ない。
なお、「ニスモ」を試乗した際に指摘した、幅が絶対的に不足しているフットレストはまったく変わらず。こうしたことから、ワインディングはもちろん一般道や高速道路でも姿勢保持に意識の多くを割く必要に迫られることが容易に想像でき、そして実際にその通りだった。
だがそれでも救いだったのは、「ニスモ」に対するエンジンやボディ、サスペンション、エアロパーツの違いが、実際の走り味にもたらしている影響が思いのほか少なかったこと。エンジンはNAとはいえ3.7Lもの大排気量で、極低回転域のトルクに不足があろうはずもなく、かつレブリミット7500rpmまでの吹け上がりは極めてシャープだ。
低回転域ではロードノイズにかき消されてエンジンサウンドがほとんど聞こえなくなり、シフトチェンジの度にタコメーターを確認しなければならないのは玉に瑕だが、このフェアレディZの6速MT車には、シフトダウンの際に回転を自動的に合わせてくれる「シンクロレブコントロール」が全車標準装備されている。だからそれをONにしている限り、少なくともシフトダウン時はタコメーターをさほど気にせず走れてしまう。
乗り心地は「ニスモ」と比べると路面の凹凸をやや拾いがちではあるものの不快なほどではなく、その一方で旋回性能と高速域のスタビリティは極めて高い。「ニスモ」との差は、サーキットに持ち込んで限界領域でコントロールしタイム計測しなければ、恐らく見えてこないだろう。
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