“マッキナとクルマは別物” トヨタ・ヤリスと乗り比べてみたフィアット・パンダの『価値』 同条件で燃費を計ったら、パンダ、大健闘!
- 2020/06/30
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世良耕太
最新のトヨタ・ヤリスとイタリアの愛すべきピッコラ・マッキナ、フィアット・パンダを同日、同コースで比較試乗してみた。見えてきたのは、価値観・クルマ観の違い。燃費はなかなか興味深い結果となった。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
フィアット・パンダはツボを押さえている
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厳密にいえばAセグメントとBセグメントでセグメントの違いはあるけれども、たまたま同じタイミングでフィアット・パンダ(イージー:車両本体価格224万円)とトヨタ・ヤリス(Z:車両本体価格192万6000円)があったので、乗り比べをしてみた。
交互に乗ってみると、プロダクトとしての出来不出来を論じる前に、イタリアと日本におけるクルマ観の違いに思いを巡らせたくなる。イタリアではクルマをマッキナ(macchina)と呼ぶ。macchinaはもともと「機械」という意味だ。英語でいえばマシン(machine)である。別の表現にアウトモビーレ(automobile)があるが、日本でも自動車よりクルマ(車)のほうが日常的に使われているように、イタリアでクルマといえばマッキナだ。
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話はそれるが(最初からそれているともいえる)、フィアット(FIAT)の車名はFabrica Italiana Automobili Torino(ファブリカ・イタリアーナ・アウトモビーリ・トリノ)の頭文字をつなげたもので、トリノ自動車製造所の意味だ。トヨタも日産も車名にはクルマを使っておらず、自動車を使っている。自動車はフォーマル、クルマはカジュアル。アウトモビーレはフォーマルで、マッキナはカジュアルだ。
もっと話をそらすと、マッキナ・テレフォニカ(macchina telefonica)といえば電話機だし、マッキナ・フォトグラフィカ(macchina fotografica)といえば写真機(カメラ)だ。英語でソーイング・マシン(sewing machine)といえば布などを縫い合わせる機械を意味するが、それが日本に入ってきてソーイングが外れ、マシンだけが残ってなまった末に「ミシン」になった。イタリアでは「機械」がクルマなのに、日本ではミシンなのがおもしろい。
と、そんなことを考えながらパンダに乗った(もちろん、クルマのほうの)。乗ってみれば、クルマではなくマッキナである。生活に密着した機械、あるいは道具だと理解すればいい。イタリアに行って、ちょっと年季の入った二つ星〜三つ星クラスのホテルに投宿し、エレベーターを使うとする。ボタンを押すとギュイーン、ワンワンワンと大仰な音がして人を乗せる箱が動き出したのを知らせ、ガチャン、バチャンと音を立ててドアが開閉し、動き出すときも止まるときもドタン、バタンとしたショックを伴う。
現地にいれば、そんなものだと思う。音も振動も少ない日本のビジネスホテルのエレベーターを基準に、「これはダメ」だとは思わない。人を載せて階上あるいは階下に運ぶ機械としての役割は充分に果たしている。「それで何か問題が?」と問われれば、「いや、ありません」と答えるしかない。実際のところ、問題はない。むしろ、「なんだかイタリアらしい」と微笑ましくなる。
パンダも同じだ。ヤリスに比べて静かかと問われれば、静かではないし、振動は大きいし、5速マニュアルトランスミッションのクラッチの断接と変速操作を自動化したAMTを採用しているせいで、発進から巡航速度に至るまでの加速時にギクシャクした動きが出る。減速時も同様だ。だが、クルマという機械としての機能に不足はない。
前席のシートは座面のクッションがやけにたっぷりしているのに感心した。ホテルで重要なのはエレベーターが静かでショックが少ないことではなく、ベッドの寝心地がいいかどうかだ。その意味で、フィアット・パンダはツボを押さえている。よくできた日本製プロダクトの最新例であるヤリスとパンダを定量的に比較して○×を付ければ、大差を付けてヤリスの勝利になるだろう。だが、それだけでパンダを価値なしとは判断できない。
マッキナとクルマは別物なのだ。塵ひとつ落ちていないスーパーマーケットの果物コーナーに行儀良く並んでいるスイカがヤリスなら、パンダは畑に面した道路脇にある小屋で無造作に並べられたスイカである(例えなので、メロンでもトマトでもいい)。都会的かそうでないか、大量生産的か手工業的か、洗練されているか、そんなこと気にしていないかの違いだ。どちらにも価値や魅力はあるいし、好みの問題である。
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