新型フェアレディZに思う:火曜カーデザイン特集 新型日産フェアレディZプロトタイプに思う:Zらしさを象徴するデザインアイデアはコストダウンから生まれた
- 2020/09/29
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CAR STYLING編集部 松永 大演
今注目される新型フェアレディZだが、やはりその姿は初代モデルS30のオマージュでもある。それは、フェアレディZのヘリテージをもう一度見直す上でも貴重な経験であり、またZというものをどう捉え直すのかの拠り所ともなるものだろう。ここでは、Zのヘリテージを探るにあたり、2015年刊「初代フェアレディZのすべて」内で行なわれた、初代Zのチーフデザイナーで先に他界された故松尾良彦さんへの取材のメモをもとにした述懐とともにお届けしたい。
個性的なフロント&リヤデザインに隠されたローコスト戦略
Zらしさを表現する上で重要な初代フェアレディZだが、その特徴となるのはロングノーズ&超ショートデッキのプロポーションと、低いノーズに収まるヘッドライト、そしてスパッと切り落とされたリヤエンドの3点によって構成される。
他方でフェアレディZのセールスポイントは、当時「ポルシェの半分の値段で同等の性能」と言われたように、高い性能に合わせてリーナブルな価格にもあった。
このローコスト化とフェアレディZらしさは、絶妙にシンクロしていたのだ……。
フェアレディZの開発にあたり、松尾氏はそれ以前のフェアレディの生産ラインのある日産車体を視察に行ったという。そこで見たのは、ほとんど手作りで生産されているフェアレディの実態で、月産200台がやっとだった。
しかし新しいフェアレディZは、低価格を前提に生産ラインが活用できる、月産3000台を目指すという目標を立てる必要があった。そのためには、合理的な構造も必要となるのだった。
他方で、当時のスポーツカーが未だ手作りに近い状態であったのには、理由があった。それはいかに美しいボディを作るかということだ。
例えばジャガーEタイプを見てみれば、優雅なボンネットにはまったく接合線がない。現代の車であれば、ボディと樹脂バンパーの間には隙間があるのは全く当然のことだが、かつてのスポーツカーや高級車では、オープニングライン以外ではできるだけ接合部分を見せないというのが常識だった。
ジャガーEタイプではボンネットを1つのピースを叩き出すことでフェンダーに回り込むまでのカウルを構成するという手法を採用していた。また、ピニンファリーナで製造されたアルファ-ロメオ・スパイダーでは、ヘッドライトのマウント部分は、1ピースでの造形は難しく別体パーツの溶接と磨き上げによって成形されていたという。これらが手作りと言われる製造方法だったのだ。
対するフェアレディZでは価格を下げるためにラインでの製造を行ないたい。そのためには、手のかかる作業を排除したい。そこで考えられたのが、別体で樹脂製としたヘッドライト周辺部分のパーツの採用だ。初代のS30フェアレディをみれば分かるが、ヘッドライト周りは別パーツとなっている。
これによって、フェンダー部分をプレスだけで製造できる構造とできているのだ。さらにこの発想があったからこそ、ノーズを延長するGノーズのアイデアも生まれたのだと思う。さらに空気抵抗を減らす目的で開発され、プロトタイプを作った時点であっさりと200km/hの最高速度を実現できてしまったという。またヘッドライト部分は別パーツを必要としたが、大きな負担にはならなかった。
さらに、テールエンド部分を一体構造とせずに別体としてはめ込んだことも、コストダウンを図るためだった。その時点で生まれたのが、周囲に回り込まないパネル構造だ。それを前提にデザインしながらも、スパッと切り落とされたテールエンド造形は、印象的なデザインとなった。
このヘッドライトの造形は、別体アイデアあってこそ実現できたことであり、やリヤ周りの造形は、コストダウンの賜物ともいえる。そしてこれらは2代目でも採用されることになるのだが、フェアレディZにとっての極めて個性的な造形となり、デザインテーマとしては大切にされてきた。
3代目(Z31)、4代目(Z32)では、これまでのZを打ち破るということで、様々なトライアルが行われたが、それでもテールエンドのテーマは残され、以降のモデルではフロントのアイデアがキーポイントとして復活したともいえる。
このようにフェアレディZは、日本を代表するスポーツカーとして知られることとなったが、その影には量産化、低価格化のための技術から採用された造形手法があった。
そのことが、Z PROTOにまで通じるフェアレディZを象徴するアイコニックな形として復活したことは、極めて象徴的な出来事である。そして、60年代末にこのような情熱的で美しい車が生まれたことを、再び思い出として刻んでおきたいと思う。今でも思い出される松尾良彦さんの笑顔とともに。
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