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我が渾身のマツダ ユーノス・プレッソその裏側をお話ししましょう! 第29回・東京モーターショー 2/4話 【東京モーターショーに見るカーデザインの軌跡】

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荒川氏にとって1991年の第29回東京モーターショーは、実に感慨深いイベントだった。特に氏がチーフデザイナーとして手がけたユーノス・プレッソが登場した年でもあった。ここでは、そのユーノス・プレッソの裏側と、その前に荒川氏が感銘を受けた中の1台、スズキ・カプチーノについて解説していただく(編集部)

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ほぼ量産モデルとして登場した軽FRスポーツのスズキ・カプチーノ

第29回東京モーターショーに出品されたモデル。ほぼ量産のスタイルで登場。この後11月に発売された。

今回は数多くの展示車のなかで第一番にスズキ・カプチーノを取り上げたい。
前回の東京モーターショーにコンセプトカーとして出品、ほとんど同じデザインで生産車になった。開発に時間を要したようで、2年後のこのショーに展示し直後に発売を開始した。

以前にマツダAZ—1の解説で軽スポーツのスタイリングは難しいと述べたが、カワイイやガンダム路線に逃げず、真正面から永続性のある男の趣味性に訴える王道路線を完結させた珠玉のスポーツカーデザインだと私は思う。
まずサイドビューを見てほしい。エンジンを縦置きにし、左右の開いたスペースでダブルウィッシュボーン懸架を実現、結果フロントミッドシップエンジンとなり、それにより軽自動車では見たことのないロングノーズ&ショートデッキの歴代有名スポーツカーと同じスタイルをしているのである。

量産モデルのカプチーノ。サイズ、エンジンが軽自動車規格というだけで、そのレイアウト、エンジニアリングは完全にFRスポーツそのもの。
カプチーノの初期アイデアスケッチ。当初はミッドシップのアイデアもあった。(モーターファン 別冊ニューモデル速報第114弾 カプチーノのすべて より)

デザインの特徴は、クルマの大きさをわきまえた最適な面の抑揚が造形の最大の魅力で、質の高いデザインであることを印象付けている。またフロントウィンドウもいたずらに傾斜を緩めず、むしろ立ち気味なのがカッコいいのだ。一つ残念だったのがフロント中央の小さなエアインテークで、ニュアンスがなく素っ気ない穴に見えるのが惜しいところだ。またテールランプも大きすぎて、クルマの幅を狭く見せているところも残念な気がした。

アルト・ワークスのエンジンを縦置き搭載。前51/後49の重量配分を実現。
上質なインテリアやシートも魅力だった。

インテリアも軽自動車としてはリッチで機能的なデザインにまとめられている。シートもホールド感の良い質の高いもので、この後に解説するユーノス・プレッソより断然高そうに見え、顧客満足度に貢献したのではないだろうか。実に羨ましかった。

渾身のコンパクト・スポーツモデル=ユーノス・プレッソ誕生

そんなわけで、いよいよマツダ・ユーノス・プレッソに話を進めたい。私がマツダに移籍して最初にチーフデザイナーを担当し、最初に発売になった車なのだ。
マツダに来て早々に受けたカルチャーショックは前回お話したが、実は入社を懸命に進めてくれた人事部の方が、ヘッドハント会社の方と共に私を誘惑した言葉があった。「やりたいデザインを思う存分やっていただきたい。デザイン部長もそれを望んでいるのです」であった。
そして1988年に入社してすぐにチーフデザイナーとして担当したのが開発コードJ95C(のちのプレッソ)という2ドアクーペであった。

世界最小の1.8ℓV6エンジン搭載モデルとして話題になったが、その後、三菱が1.6ℓV6エンジンを発表。

アメリカ市場をメインとした活動的な働く若い女性に似合うスタイリッシュ・コンパクトカーというのがコンセプトで、カリフォルニアのデザインスタジオがファーストモデルを作成したのだが、デザインに行き詰まり本社で引き取ったのであった。

当初、北米デザイン拠点MRAを中心に開発していたモデル。室内の広さを外からも見えるようなルーミーなスタイルも特徴だったが、これでは全く魅力的ではないと判断。

当時のデザイン本部長の福田氏を始め、本社サイドのデザイン幹部の受けが悪いのなら、これまでの路線をガラっと変えなければ話が進まないと私は考えた。そしてここ一番、異なった視点で大胆にチャレンジしなくては問題解決には至らないと心が燃えたのであった。入社を進められた時の言葉が気持ちを強く後押ししたのである。

1988年5月末に 「私はこんなのが欲しい!」 と好きなカタチを今風に描いたラフスケッチ。暗礁に乗り上げていたアメリカスタジオ案を全否定したかった反動が、ネオクラシカルなスタイリングエッセンスを素直に表現させたのかもしれない。 下の落書きは、私が席を外したすきに河岡部長が書いたカングーロ風のフロントビュー。さすがは河岡サン、カングーロとは一度も言っていないのに直ぐに見抜かれてしまった。「やっちゃえば,アラちゃん。」の一言で本気でスタートできた。

RX—7が丸いフォルムにチャレンジしているなら、J95Cはジウジアーロの丸い時代の最高傑作のカングーロの躍動感にチャレンジし、うまくいけば最高の統一感も実現できると空想しその情景が目の前に広がった。そして次の日からたたき台のコンセプトとキーワードを“ピューマ”に決め、同年の6月には6名ほどの若手チームで一斉にアイデアスケッチに取り掛かったのであった。
アメリカチームが手こずったのはコンセプトが絞られていないからだと考え、具体的にカタチのイメージが伝わるコンセプトを考えたのである。ピューマを選んだのはネコ科の猛獣の中でも小型で賢く、やたら走り回らずに一発で仕留めるところをJ95Cに託したかったからであった。


目標が決まったら早かった。当時の河岡部長も「やっちゃえば、アラちゃん」と応援し、チームで抜群の躍動感を表現したトップデザイナーの岡崎純氏(のちにルノーデザインに移籍し幹部に昇進)を主担当デザイナーに抜擢してくれたのであった。そして7月の1回目のプレゼンでデザイン承認が下りるという異例のスピードを記録、その後も様々な苦労はあったが開発スケジュールも順調で、それまでの遅れを一気に取り戻してしまった。

その後、採用案がようやく生まれてくることになった。左のスケッチにはOkazaki(現ルノー/アルピーヌのデザイナー)のサインが読める。(モーターファン 別冊ニューモデル速報 第102弾EUNOSプレッソのすべて より)

アメリカ市場での絶対条件が、スポーティなスタイルと居住性の両立、リヤ席からの乗降性であった。サイドから見るとプレッソはかなり大胆なウェッジスタイルをしていて、ルーフ中央より僅かに後ろが最も高いのだがウエッジのおかげで実際より低く見えるのである。こうしたデザインマジックで先ほどの条件をクリアし、これにより2+2を超える4名乗車の居住性が確保できた。またサイドのウインドウはドアガラス1枚だけで、そのガラス後端部分をプレスドアの一部で約100㎜後ろに延長したため、ドアの開口長さが増えリヤ席の乗り降りが楽になった。これは特許もののアイデアなのだ。

当時はどのメーカーも同じだったと思うのだがマツダも限界に近い開発ラッシュで、本社スタジオはクレイモデルの計測待ちが起こるほどであった。そこでチーフモデラーと相談し広島県中央部の三次(みよし)研究所にあった風洞試験棟付属のデザイン作業室に目を付けた。


そして立て混んだ広島本社スタジオから空力改善を名目に三次研究所にクレイモデルを運び込み、1週間ほど泊まり込みで最後の仕上げを行ったのである。
1988年10月末の三次は紅葉が素晴らしく、遠方の山並みしか見えない開けた屋外検討場で秋の日差しを浴び、時には芝生に寝そべりながらハイライトチェックや面の微調整を念入りにおこなったのである。その時の充実感と清々しさは今も忘れられない思い出となっている。


ちなみに後年、この時の主担当モデラ―の芹川氏をはじめプレッソを手掛けたデザイナーやモデラ―の何人かはまとめてメルセデス・ベンツのアドバンスドデザインセンター・ジャパンに移籍してしまった。そして彼らは1996年ごろ、メルセデスの新たなトップブランドのマイバッハを手掛けたのであった。
プレッソは日本よりも海外で極めて評価が高かったのである。

後席の広さとともに、乗り込みのしやすさを後傾した大きなウインドウで実現。当初、三角窓を検討していたが、三角窓なしでも可能とした。
三次元のサイドまで回り込む大きなリヤウインドウが特徴。
スポーツモデルらしいタイトな包まれ感を実現しながらも、リヤシートへの容易なアクセスと広い空間も実現。

またまた話がそれてしまったが、もう少しデザインの特徴を付け加えさせていただくと、リヤゲートのフレームはプレスするのが困難で、絞るのには何工程も多くの手間がかかり、さらには巨大な3次曲面ガラスは高額でめちゃくちゃコストがかかった。しかし商品本部やボディ設計部は反対するどころか、スタイルの躍動感には欠かせない大きな商品力になると、デザイン案に全面協力してくれたのであった。しかし、その反動としてインテリアにかけるべきコストが減ってしまったのである。斬新なデザインは今でも通用すると思うのだがシートは安っぽくインパネは前面黒のプラスチックといった具合で、スペシャルなのはエクステリアデザインだけというのが残念だった。

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