なぜいま「直6」なのか? マツダが縦置き直列6気筒エンジンを開発する理由 次期トヨタ・クラウンはマツダの縦置きを使う!?
- 2020/11/16
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牧野 茂雄
つい先ごろ、マツダが「縦置きアーキテクチャー」のエンジン概要を披露した。たった1枚の写真とメモ書き程度の資料だけだったが、マツダが「本当に直6を作る」ことが証明された。しかし、いまになってなぜ、縦置きエンジン後輪駆動なのだろうか……。もしかしたら、この直6エンジンはトヨタも使うのだろうか。「消滅する」とか「FFになる」とか言われているクラウンは、このエンジンとマツダのラージプラットフォームを使ってFRのまま残るのだろうか。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
縦置き直6エンジンのメリット、デメリット
【マツダが公開した直6エンジン】
エンジン横置きの前輪駆動=フロントエンジン・フロントドライブ(FF)は、エンジンと変速機を合体させたパワートレーンをエンジンルーム内の奥のほう、キャビン=車室とエンジンルームを仕切るファイアウォール=防火隔壁(バルクヘッドとも呼ぶ)側に近付けて搭載する。メリットはエンジンルームを小さくできる点にある。全長に占めるキャビン長を確保できる点がメリットだ。
もうひとつ、エンジンのクランクシャフトが駆動軸である前軸と平行になることだ。真上から見てエンジンの出力軸と前軸がズレていても、歯車を使ってに位置合わせができる。この寸法ズレを使って変速機を設計すればいい。
エンジン縦置きでもFFを作ることはできる。スバルとアウディがその例だ。ただし、この場合はエンジンの出力軸と前軸は90°交差している。エンジン出力の方向を変えなければクルマは走れない。そこでハイポイドギヤと呼ばれる歯車を使う。このハイポイドギヤは「歯音」を出さないよう互いの中心をズラして組み合わせるため、ここで駆動力の3%程度をロスする。
エンジン縦置き後輪駆動=フロントエンジン・リヤドライブ(FR)もこれと同様にハイポイドギヤを使う。ポルシェのようなリヤエンジン・リヤドライブ(RR)でも、ミッドシップ後輪駆動(MR)でも同様だ。エンジン縦置きの場合は必ずハイポイドギヤが必要になる。駆動力の損失という点では、FFに対してのデメリットである。
【前引きと後ろ引き】
ではステアリングの設計はどうか。この分野の専門家の皆さんは「エンジン縦置きFRのほうが横置きFFよりずっとやりやすい」とおっしゃる。どっちが優れているかという話ではなく、エンジンやら排気管やらがぎっしり詰まった横置きパワートレーンのそばにステアリングラックを配置し、そのラック部分とドライバーが操作するステアリングホイールとをつなぐインターミディエイト・シャフト(インタミ)をうまく通し、ふたつのカルダンジョイントが位相ズレを起こさないように配置することが求められる横置きFFに対し、エンジンの横にまっすぐインタミを通すことができるエンジン縦置きレイアウトは俄然都合がいい。
【前引きは引っ張り荷重、後ろ引きは圧縮荷重】
前面衝突対策はどうか。かつて直6がV6に置き換わった理由の大部分は衝突対策だった。前面衝突試験時の車速が高くなり、しかもオフセット衝突という試験項目が追加で入ってきた。そのためエンジンの前側に「前面衝突のときはここを潰す」というクラッシャブルゾーンを設ける必要が出てきた。ある程度の速度までの衝突なら、クラッシャブルゾーン内の構造体を潰すことで衝突エネルギーを強制的に消費させることができる。
そのためにはエンジン全長は短いほうがいい。だから直列は、せいぜい5気筒まで。できれば4気筒で済ませたい。となるとV型しかない。V型6気筒なら長さは直4とほぼ同じになる。クランクシャフトを短くできるから、直6に対するV6の欠点である回転振動への対策は少々割引かれる。
近年はスモールオフセット(リーンオフセットとも呼ばれる)という試験が追加された。さらに、将来的には斜め前方からの衝突という新たな試験が加わる可能性が高い。そうなると直6とV6「どっちが有利か」は、かなり複雑になるが、直6が減り始めた当時と違って現在はボディ設計術が相当に進歩した。直6をエンジンルーム内の中央に縦に配置しても、クラッシャブルゾーンの確保はそれほど難しくはなくなった。
【前面6対4オフセット衝突】
【前面スモールオフセット衝突】
ちなみに直6を死守したBMWは、前面衝突対策で知恵を絞った。クラッシャブルゾーンは最小限。フロントオーバーハングを減らし、重たいものを前にぶら下げない車両パッケージングにこだわった。このほうがカッコもいい。フロントサイドメンバー前端は軽衝突時に潰すクラッシュボックスとし、その後方のサイドメンバーは「車室に近付くにしたがって断面積が大きくなる構造」にした。これで衝突直前速度64km/hのオフセット試験時に片側だけのフロントサイドメンバーで吸収できるエネルギー量を充分に確保したのだ。
法規に定める衝突試験の項目は、これからも確実に増える。いろいろな試験案が出ている。しかし、直6だから致命的に対応不可能という状況ではなくなった。むしろエンジン幅が狭い直6のほうがV6より有利というケースも出てきた。
【BMWのガソリンV8】
その代わり現在は排ガスが厳しい。直6が見直された理由はここにある。V型エンジンの場合、排ガス後処理装置は両側バンクにそれぞれ1セット必要になる。現在の欧州製V8はVバンクの内側が排気、外側が吸気というレイアウトになったが、これはターボチャージャーや排ガス後処理装置をVバンクの間に収容するという狙いからだ。
それでも「お金を取れるV8」エンジンはまだいい。コストもパワートレーン・パッケージングもシビアな普及型V6が横置きFF用から姿を消しつつある理由は、まず排ガス後処理装置のコストをセーブするためだ。同時に、直列レイアウトならエンジンブロックはひとつで済む。V型だと上半分はふたつ必要。カムシャフトはDOHCのV6だと4本いる。吸排気とも可変バルブタイミングにするとなるとバルブ位相可変ユニットは4つ必要。これらが直列エンジンなら半分で済むのだ。
排ガス後処理装置で言えば、いずれガソリン車にもパーティキュレートフィルター(GPF)と選択還元触媒(SCR)が必須になる時代が訪れるだろう。ディーゼルエンジンではすでに必須だ。直列エンジンなら、これらは1セットで済む。エンジンにくっついてくるさまざまなシステムを考えると、直列エンジンの優位性が出てくる。
ただし、車両運動性能を考えると、エンジンはできるだけ車室に近い側に置きたい。その点、直6は前軸中心よりエンジンが前に出てしまう。V6ならフロントミッドシップに近い位置までエンジンを後退させることができる。エンジン縦置きならV6と直4が有利だ。もちろん水平対向4気筒も、である。
【レース用VQ型V6対RB型直6】
以上、エンジン縦置きと横置きを比較してみると、マツダが直6FRを選択した理由は、排ガス後処理装置とステアリング系のレイアウトではないかと推測される。さらに言えば、エンジン縦置きなら前輪の切れ角は大きめに設定できる。最近はあまり前輪切れ角は話題にのぼらないが、これも車両設計上は重要な要素だ。
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