ディーゼルエンジンの尿素SCR(選択触媒還元):NOxを低減する決定打——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第44弾
- 2020/02/01
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安藤 眞
現状ではNOx後処理として決定打の尿素SCR:選択触媒還元。システムを搭載するクルマが補給しなければならない「尿素水」に焦点を当てて考えてみる。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
ディーゼルエンジンのNOx低減技術として主流になっているのが、尿素SCRシステム。少し前までは、リーンNOx吸蔵触媒も使用されていたが、これは浄化効率が80〜90%とあまり高くなく、エンジン内で生成するNOxを、触媒の吸蔵能力に応じて抑える必要があった。
その方策のひとつが、燃料噴射タイミングのリタード(遅延)だ。NOxは筒内温度が高くなるほど生成しやすいため、ある程度ピストンが下がってから燃焼圧がピークを迎えるよう燃料噴射タイミングを遅らせれば、筒内温度を下げることができ、NOxの生成は抑えられる。
ところが熱効率の面から見ると、燃焼ピークが理想より遅すぎて、燃費が悪化してしまう。しかもNOxの吸蔵量には限界があるから、いっぱいになったら還元処理するために燃料を噴射する必要があり、その分でも燃費は悪化する。しかも、NOxとは生成条件が背反関係にあるPMも増加して、DPFの目詰まりが早くなり、その再生に、また燃料を使う。DPF再生の燃料噴射は排気行程になるから、エンジンオイルの希釈も進みやすい。
しかしNOx浄化率が99%に達する尿素SCRなら、NOxの浄化は後処理に任せ、エンジン側は熱効率を追求することができる。世界で最初に採用したのは04年のUDトラックス(日産ディーゼル)で、以降も大型商用車での採用が先行したのは、燃費を落とさずにNOx規制がパスできるという側面が大きい。
尿素SCRの基本原理は、すでに火力発電所などの固定排出源で確立されている “アンモニア脱硝装置” と同じ。1957年に特許が取得されている古い技術で、アンモニア分子(NH3)中の水素を利用し、触媒反応によってNOxから酸素を分離してN2とH2Oに換えてしまうというものだ。
クルマではなぜ尿素(CO(NH2)2)を使用するのかといえば、アンモニアは濃度が10%を超えると劇物指定されるほど毒性が強いため、クルマに積むことができないから。一方で、尿素は排気管内に噴射すれば熱で加水分解し、二酸化炭素とアンモニアになる。尿素はハンドクリームにも使用されているように、人体にはまったく無害(何しろ人体内に溜まっている)だから、扱いは容易だし、事故の際に漏れても安心だ。
使用する尿素水の濃度は、約32.5%(人間の尿中の尿素濃度は2%前後)。すなわち7割弱が水なので、寒冷地では凍ってしまう(凝固点はマイナス11℃)。そこで、タンクから噴射ノズルまでの配管に電熱式ヒーターを付けるなどの対策が行なわれている。
尿素水は軽油とともに消費されるため、定期的な補給が必要となるが、乗用車の場合、各社ともだいたい10,000〜15,000kmぐらいの補給サイクルになるよう、尿素水タンクの容量を決めているようだ(10〜15ℓのモデルが多い)。ちなみに走行中に空になっても、ただちに走行できなくなることはないが、空の状態でエンジンを止めると再始動できなくなるようにして、違法走行を行なえないようにしているメーカーが多い。
また、尿素水は経時劣化するため、距離にかかわらず1〜2年での全交換が推奨されている。尿素水は無害ゆえ、長期間放置すると苔が生えてしまうのだそうだ。尿素水は、ネット通販なら150円/ℓ前後で買える。
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