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「スプリング素材の高強度化は、なぜ軽量化につながるのか」安藤眞の『テクノロジーのすべて』第48弾

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(PHOTO:FORD)

ボディの軽量化手法として一般的になっているのが、高強度材の使用だが、近年はサスペンションスプリングの素材を高強度化することによる軽量化も進められている。今回は「スプリング素材の高強度化は、なぜ軽量化につながるのか」というお話である。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)

 高強度材と言っても“鉄系”である以上、比重は7.85g/cm^3と変わらない。鋼材にはニッケルやクロム、マンガンやシリコンなど鉄以外の元素が含まれているが、いずれも1%に満たないから、比重に影響を与えるほどではない。熱処理による高強度化も比重とはまったく関係がないから、材料そのものを軽くすることはできない。

 となると、鋼材を使ったコイルスプリングを軽量化するには、体積そのものを小さくするほかはない。それには、線径(素材線の太さ)を細くするか、巻き径を小さくするか、巻き数を減らすか、である。

 ところが、これらはいずれも、ばね定数に影響を与えてしまう。

 コイルスプリングのばね定数kの計算式は、

 だから、たとえば線径を細くすれば、ばね定数は低下してしまい、必要なばね定数を維持するには、分母(巻き数か巻き径)も小さくする必要が生じる。

 ここで勘の良い人なら、「巻き数か巻き径も減らせるなら、軽量化が上乗せされて良いではないか」ということに気付くと思う。ところが、そううまくはいかない。巻き数や巻き径を減らせば、応力が高くなってしまうからだ。

 こちらも式を使って考えてみよう。コイルスプリングの応力τを求める式は、

 Pは想定荷重だから、ばね定数k × 想定最大ストロークδmax(ややこしくなるので単にδとする)に置き換えられる。kに最初の式を代入して整理すると、

 巻き数や巻き径は分母だから、これらが小さくなれば応力が高くなることはひと目でわかる。

 式が苦手な人ならば、現象を想像しながら考えると理解しやすい。
 
 コイルスプリングはその動きを見ると、全体が伸び縮みしているように見える。しかし、断面を切り出してみると、実際にはほとんどの力を「捩り」で受けている。すなわち、トーションバースプリングと同じである。

 トーションバーを軽くするには、径を細くするか、長さを短くするかのどちらかしかない(中空化もできるがコストが高い)。コイルスプリングの巻き数や巻き径を減らすのは、後者とまったく同じこと同じだ。

 そして使用するクルマが同じなら、サスペンションストロークは変わらないから、トーションバーは短くなった分、断面当たり余計に捩られることになる。となれば、応力は当然、高くなることが想像できると思う。

 応力が高くなれば、材料の疲労強度を高めないと壊れてしまうのは自明。そこで必要となるのが高強度材なのだ。逆から言うと、材料の高強度化を進めれば、コイルスプリングの線径も巻き径も小さくできるようになり、体積が減って軽量化につながる、ということなのだ。

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