エコタイヤの転がり抵抗——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第52弾
- 2020/05/24
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安藤 眞
グリップしてくれないと困るけど、燃費が悪くなるのは嫌だ。そんなわがままに付き合いながら進化を続けるタイヤという製品。近年必須の技術「低転がり抵抗」について考えてみた。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
CO2排出量の削減を目指し、今後はさまざまなパワーユニットが共存していくことになりそうだが、その種類にかかわらず、必要なのが走行抵抗の低減。いかなるパワーユニットを使おうとも、走行によって発生するエネルギーロスは少ない方が良い。
中でも損失に対する寄与率が高いのは、空気抵抗とタイヤの転がり抵抗。空気抵抗は速度の2乗に比例して大きくなるため、高速走行では空気抵抗の寄与率が高まる一方、市街地走行では転がり抵抗の占める割合が大きくなり、全走行抵抗の7〜10%程度に達する。今回は、その転がり抵抗について、お話ししたいと思う。
タイヤに転がり抵抗が発生する大きな要因は、「ゴムの変形と復元」にある。丸いタイヤが路面に接すると、トレッド面は路面の形に曲げられ、おおむね10cmぐらいを路面に沿って移動した後、路面から離れて円形に戻る。この「曲げられたり戻ったり」する際に、ゴムの内部で分子の摩擦が発生し、熱エネルギーが生じる。これが転がり抵抗の主な要因だ。
ゴムは「粘弾性体」といって、粘性と弾性の両方の性質を持っている。粘性とは、内部摩擦を生じて熱損失を発生させる性質で、それがどの程度であるかを表すために、粘性の寄与率を弾性の寄与率で割った値として「tanδ(タンデル)」が定義されている。これが小さいほど完全弾性体に近く、内部損失エネルギーも小さくなる。
だから、tanδの小さいゴムを使えば、内部損失が少なくなって転がり抵抗も減る理屈だが、同時に、内部損失があるからこそ発生する摩擦力「ヒステリシス摩擦」も小さくなって、グリップ力が低下してしまう。特に問題となるのがウェットグリップ性能で、20世紀のエコタイヤは、おしなべてウェットグリップ性能が良くなかった。
ところが近年では、JATMAのラベリング制度で「AAA」の低転がり抵抗と「a」のウェットグリップ性能を両立したタイヤが現れてきている。背反する性能は、どうして両立できるようになったのか。
ポイントとなるのが、tanδの周波数依存性だ。tanδは常に一定ではなく、入力の周波数や温度に対する依存性が高い。タイヤは温度によってグリップ力が変化するのと同じように、入力周波数によっても変化するのだ。
たとえば、転がり抵抗の主因となる接地/離地による変形の周波数は100Hz以下である一方、路面の凹凸による入力周波数は1000〜10000Hzの帯域。グリップ力を左右するのは後者のほうだ。ならば、100Hz以下の周波数のtanδを下げ、1000Hz以上のそれを高めたゴムを開発すれば、転がり抵抗の低減とウェットグリップ性能は両立できる。それを行ったのが、最新の低転がり抵抗タイヤなのである。
そんなゴムをどうやって?といえば、僕にわかるのは、「トレッドゴムに混入するカーボンブラックやシリカ(二酸化ケイ素)のほか、さまざまなポリマー類の性質や配合比率をチューニングし、加熱温度や撹拌速度、冷却時間を最適化した」というところまで。詳細は各タイヤメーカーにとって、門外不出のレシピのようなものだから、最新のそれが明らかにされることはまずない。
ともあれ「エコタイヤはグリップが悪い」というのは、すでに過去の話。日本はこれから雨の季節に突入するが、エコタイヤでも安心して走ることができそうだ。
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