自動車業界ウラ分析 激戦区BセグSUV×CO2排出95g/km規制の観点からトヨタ・ヤリスクロスの戦闘力を読み解く[毎週月曜日更新企画] トヨタ・ヤリスクロスにはPHEV仕様がある? 激戦区BセグSUVでの戦闘力予測
- 2020/07/13
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牧野 茂雄
トヨタが満を持してBセグSUV激戦区に投入するヤリスクロス。日本では1.5ℓ直3+CVTと1.5ℓ直3+THSⅡの2種類のパワーユニットを用意するが、欧州仕様は当初は1.5ℓ直3+THSⅡだけでスタートするだろう。では、PHEV(プラグインハイブリッド)仕様はあるだろうか?
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
ヤリスクロスにはPHEV仕様が存在する!?
トヨタが4月23日にオンライン発表したヤリスクロス。本来ならジュネーヴ・ショーで華々しくデビューするはずだったが、欧州でのCOVID-19感染症蔓延によりショーそのものが中止になってしまった。誠に残念なデビューではあるが、このモデル、トヨタによっては極めて重要である。すでに同クラスライバルがひしめく激戦区に投入されるのだ。はっきり言って投入は遅すぎた。ヤリスのフルモデルチェンジを待たず、とりあえず「あり物」で小型SUVのHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)を仕立てる陽動作戦を展開できなかったのだろうか。それともC-HRに続き満を持して投入するヤリスクロスに何か隠し球があるのか。いま、欧州自動車市場では内燃機関エンジン車への逆風が一気に強まっている。果たしてヤリスクロスは、この逆風に打ち勝つだけの戦闘力を備えているか。筆者はヤリスクロスにはPHEV仕様が存在すると見る。
トヨタがヤリスクロスを出さなければならない理由 激戦区のBセグSUVの8%を狙う戦略モデルの登場。欧州でトップを狙う意欲作
トヨタが発表したヤリスクロス。日本では2020年秋、欧州では2021年半ばに販売がスタートするヤリスクロスが担う役割は小さく...
日産・ジュークは2010年。ジュークの流れを汲むルノー・キャプチャーは2013年。いすれもジュネーヴ・ショーで市販車が発表された。奇しくも同じく2013年のジュネーヴで三菱自動車OEMではないプジョー2008が発表されている。めずらしく新ジャンル展開でスランス勢が先頭に立った。BセグメントにクロスオーバーSUVが存在しなかった時代に初めて商品を送り込んだのは日産、ルノー、PSAだった。その後、2010年代の欧州はまさにSUV百花繚乱の時代を迎える。
いまやBMWは1〜7シリーズまでずらりとSUVを揃え、ダイムラーはGL車名群にA/B/C/E/Sを、アウディはQシリーズに2/3/5/7/8を投入している。ドイツのプレミアムブランドがSUVにここまで商売っ気丸出しになるとは夢にも思わなかった。欧州のSUVといえば、昔は「デカいクルマ」だった。それがCセグメントへ降り、ついにBセグだ。韓国勢では2017年7月にBセグの起亜・ストニックが投入されている。
直近の話題は、VW(フォルクスワーゲン)が投入したT-CROSSクロスとT-ROCだ。かなり遅れての投入であり、後出しジャンケンで負けられないとばかりにVWは開発に気を吐いた。T-ROCKにはコンバーチブルも設定されている。そして、まるで真打ちであるかのようなヤリスクロスの登場だが、ウェブでの発表のあと、ドイツとフランスがBEV(バッテリー・エレクロトリック・ビークル)への補助金積み増しを発表した。COVID-19からの再起を図る経済対策に自動車のスクラップ・インセンティブ(新車に買い替えてくれた人への国または自治体による補助金)を含めるのは当然だが、何と両国政府は通常のガソリン車/ディーゼル車は無視した。HEVも無視した。つい先日のことである。
ドイツでは先月、BEVおよびPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)、欧州で近年ECV=Electrically Chargeable Vehicle(外部充電車)と呼ばれるカテゴリーへの政府補助金が2021年末まで倍増された。車両価格4万ユーロ以下のBEVに対し1台当たり6000ユーロの政府補助金交付である。地方自治体の補助金と合わせると合計9,000ユーロになる。1ユーロ=121円換算で108万9000円。破格の補助金である。さらに環境ボーナスやVAT(付加価値税)と自動車保険の優遇もある。
COVID-19対策の景気刺激予算約1.1兆ユーロ(約133兆円)とは別に追加される今回の自動車支援予算は1300億ユーロ(15兆7300億円)だが、当初はプログラムに含まれていたHEVも含めた内燃機関エンジン車への支援はメルケル政権内で却下された。現地での報道を読むかぎりでは「政権中枢のキリスト教民主同盟(CDU)と中道左派のドイツ社会民主党(SPD)は、緑の党などからの政権批判を回避する決断を下した」とのことだ。通常のガソリン/ディーゼル車にスクラップインセンティブを交付しないという不公平を市場はどう受け止めるだろうか。
フランスでは年末までECV補助金が増額された。車両価格4万5000ユーロ(544万5000円)以下でCO2排出20g/km以下(BEVしかあり得ない)の個人購入車には上限7000ユーロ(84万7000円)が給付される。車両価格5万ユーロ(605万円)以下でBEV航続距離50km以上のPHEVには2000ユーロ(24万2000円)が交付される。
今秋発売のVW・ID.3ピュアのEU内市販価格はジャスト3万ユーロになる模様だが、期限付きとはいえ、手厚い補助金はBEV普及の追い風になるだろう。言い換えれば今後の補助金減額が極めてむつかしくなるわけだが、この点について筆者が長年にわたって情報交換してきたフランスやドイツのジャーナリスト諸氏は「来年以降、自動車メーカーから徴収するCO2罰金でECV普及基金を作り、これを補助金の原資にする可能性がある」という。やっぱりね、だ。
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