「もしかしたらSONYは、本当に自動車を造るかもしれない」ソニーの自動車産業参入は「YES」か「NO」か。
- 2020/08/31
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牧野 茂雄
ソニーのAIロボティックスビジネスグループが手掛け2020年1月のCES(ラスベガス開催)で披露したVISION-Sは大きなサプライズだった。「ソニーが自動車に参入か?」「YES!」とメディアは興奮した。しかし、公式の場でソニーは「現時点ではその予定はない」「NO」と明言している。筆者の予想も「NO」だ。しかし、この「NO」には「訳ありのNO」「条件付きYES」という雰囲気が漂う。
TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
VISION-Sは、コンセプトメイキングと設計思想はソニー流だが、実車は帝政オーストリアの兵器メーカーをルーツに持つマグナ・シュタイヤー(Magna Steyr Fahrzeugtechnik AG & KG)が製作した。必要な部品・ユニットはロベルトボッシュ、ZFフリードリヒスハーフェン、コンチネンタルの独系メガ(大手)サプライヤー3社、素材系では独・ベンテラー、半導体はアメリカのエヌヴィディア(NVIDIA)とクァルコムが供給した。車両全体を見ればソニー製デバイスのほうが少ない。
いまの世の中、マグナ・シュタイヤーの親会社であるマグナ・インターナショナルをはじめ、同じオーストリアのAVL、ドイツのIAVとFEV、イギリスのリカルドといったエンジニアリング会社に依頼すれば自動車の各部分の設計を請け負ってくれる。しかし、クルマのコンセプトは依頼主自身がしっかりと決めなければならない。VISION-Sはソニーのコンセプトである。
写真1は中国の奇瑞汽車とイスラエルの投資会社が共同出資で立ち上げた観致汽車(QOROS Auto)の第1号モデルだ。BMWでミニ・ブランドのチーフデザイナーだったゲルト-フォルカー・ヒルデブラント氏がデザインを描き(写真2)、アウディ、フォード、サーブ、三菱といった自動車メーカーで仕事をしてきたエンジニアが集まって設計を行ない、設計支援から試作、車両実験、量産図面への落とし込みまでをマグナ・インターナショナルが請け負った。
筆者は観致汽車が最初の市販モデルを発表したとき、衝突安全分野の責任者だったアンディ・バイパー氏にインタビューした。氏はサーブ出身であり、観致汽車での仕事が始まってすぐ、元サーブのエンジニアに声をかけて集めたと聞いた。自動車業界が国境を超えてつながっているということを日本にいると実感しにくいが、実際にはつながっている。もしソニーが、だれか自動車業界での長い経験を持つベテランエンジニアを採用したら、それこそあっという間にスタッフは集まるだろう。
燃焼解析から始まるエンジンの開発でも、たとえばマクラーレンMP4-12CのV8ツインターボエンジンとランボルギーニのV12エンジンをリカルドが設計した(写真3)ように、助っ人は存在する。リカルドは製造まで請け負ってくれ(写真4)、マクラーレンのエンジンはリカルドが組み立てている。あまり知られていないが、日本の自動車メーカーのエンジンを欧州のエンジニアリング会社が設計した例もある。ごく最近のエンジンである。
自動車プラットフォーム〜アッパーボディの設計を請け負ってくれるエンジニアリング会社も、もちろんある。独・ベンテラーやコズマは量産まで落とし込んだ素材支援をしてくれる。じつは、世の中にはボディ設計外注というモデルは少なくない。また、イタリアのカロッツェリアは他社設計の骨格に合わせて外観デザインを手がけてくれる。
つまり、その気になれば、資金さえ用意できれば、市販車を造ることはそう難しくはないのだ。イギリスの大手化学製品グループであるイネオス(INEOS)は2017年にイネオス・オートモーティブを設立し、いままさにランドローバー・ディフェンダーへのオマージュを込めたオフロード車(写真5)の開発を進めている。イネオス・グループ会長で億万長者のジム・ラットクリッフ氏の個人的事業である。2022年モデルとして2021年夏以降に量産を開始する予定だ。車両開発はマグナ・シュタイヤーを中心とした体制で進められている。
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