限られた購入層を想定すれば文字通りの“コンプリート”カーへの進化を望みたくなる 〈試乗記:ホンダS660モデューロX〉盤石の接地性とリニアなハンドリング、ブレーキのタッチ。内外装の質感も軽自動車の次元を超越している!
- 2019/05/16
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遠藤正賢
ホンダが後輪駆動のピュアスポーツオープンカーに与える「S」の名を冠したミッドシップ2シーター軽「S660」をベースとして、ホンダの純正用品を手掛けるホンダアクセスは内外装やサスペンション、ホイールなどをトータルチューンした「モデューロX」を開発。2018年5月に発売したこのコンプリートモデルに、首都高速道路を中心として市街地も交えながら試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢/本田技研工業/ホンダアクセス
スポーツカーとして入念な仕立て
「モデューロX」は12年12月の初代N-BOXを皮切りとして、N-ONEが15年7月、ステップワゴンが16年10月、フリードが17年12月に発売されており、S660モデューロXがその第5弾にあたる。
従来は、空力バランスを整えるべくアンダーフロアを含めて専用設計されたエアロパーツ、タイヤの接地性を高める専用セッティングのダンパー・スプリングと、軽さのみならず縦横双方の剛性バランスにも配慮した専用アルミホイール、スポーティながら落ち着いた雰囲気の上質なインテリアが、主なチューニングメニューだった。
S660モデューロXではさらに、ブレーキにも専用のスポーツパッドとドリルドローターが与えられたほか、ダンパーは前後とも減衰力5段階調整式とされるなど、より一層深く走りに踏み込んだ、スポーツカーにふさわしいメニューが加えられている。
まず外観は、単純にデザインだけを見た印象としては、率直に言ってこれまでのモデューロXは「ノーマルよりもさらに厳つい顔になっているなあ」という程度のものだったのだが、S660モデューロはノーマルにはない、軽自動車のレベルを超えた質感と迫力を備えたものとなっている。
機能的にも、フロントバンパー下部にエアロガイドフィンを設けて正面からの風の流れをコントロールし、リヤアクティブスポイラーにガーニーフラップを追加するなど、空力操安を重視した形状が採用されているのは言うまでもない。
この軽自動車を超えた質感は、本革とラックススェードを用いたボルドーレッド×ブラックのインテリアもまったく同様。ほぼモノトーンブラックのカタログモデルにはない、良い意味での派手さと色気がある。これは、インテリアもエクステリアの一部となるオープンカーには必須の素質だ。
ただし、シートの形状や内部構造までは手が加えられておらず、極めて高いコーナリング性能に対し不足気味なサイドサポートと、ヒップ以外がほぼフィットしない座面も何ら変わっていない。
年内に発売されるであろうヴェゼルのモデューロXではシートも専用品となるので、マイナーチェンジなどのタイミングでこのS660モデューロXにも適用されることを願わずにはいられない。
では、肝心の走りはどうか。減衰力の設定が最もハードな「5」の状態では、我慢できないほどではないものの、特に一般道を低速走行している際は突き上げがやや鋭い。その一方でスプリングのレートはさほど高くないのか、ロールの量も極端に少なくはないのだが、ロールスピードは明確に抑えられており、その過渡特性もリニアだ。
そして、ノーマルならばジャンプするであろう、高い速度で旋回したり大きなギャップを乗り上げた時でも、タイヤが路面をとらえ続けてくれるため挙動を乱すことはなく、絶大な安心感をもってスポーティな走りを堪能できた。
逆に減衰力を最もソフトな「1」にすると、今度はタウンスピードでも、特に細かな凹凸をキレイにいなすようになる。その代わりロールスピードは速まり、大きなギャップを乗り上げた際には車体の揺れの収まりが遅くなる傾向が見られた。
そのため、一般道のみを走行する時は「1」、高速道路やワインディング、サーキットを走るなら「5」、長距離ドライブでどちらも走行するなら好みに応じて「2」~「4」の間で調整するのが良いだろう。
なお、減衰力の調整は極めて容易。前後ともダンパーのアッパーマウントが露出しており、その中央に減衰力調整ダイヤルが装着されているため、そこに付属の工具を当て、ダイヤル中央先端にあるスリットの位置を好みの減衰力の数字まで回転させればOKだ。
パッドとローターが強化されたブレーキも、チューニングの方向性は同じと言えよう。ごく低速域で「キー」という甲高い音こそしないものの「ゴー」という摺動音は、オープンで走行すれば必ず耳に入る。だがペダルタッチに剛性感があり、効きそのものも踏力に応じてリニアに立ち上がる理想的なもの。チューニングメニュー拡大の効果は、誰でも確実に体感できるものに仕上がっていた。
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