【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 4回目】パッケージング・レイアウトのお話
- 2019/07/07
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MotorFan編集部
前回このコラムでデザイナーも案外いろいろ考えているんだというお話をさせていただきましたが、考えついでに今回はその考えたことを形に起こしてゆくのがこれまた大変というお話をしてみたいと思います。まだまだこのプロセスを越えないと自動車の絵なんか描けないものですから。
TEXT●難波 治(NAMBA Osamu)
その前にちょっと皆さんに質問を。我々自動車デザイナーは大括りに分類すると「工業デザイン」というデザイナーの領域に属しています。工業デザイナーの仕事は簡単に説明すると、使用されている文字のごとく「工業手段で製造されるもの」をデザインすることになります。人が朝起きてから夜寝るまでの生活で使用するものすべてが工業デザイナーの仕事の守備範囲になります。いえ、厳密に言うと寝ているベッドも工業デザイナーがデザインをしていますから、とにかく生活の全て、人が生きて生活している身の回りのものすべてはデザイナーがデザインをしているわけです。インテリアデザイナーもファッションデザイナーも少しばかり畑が違いますがこちらもなくてはならないものばかりですから同様に「生活」をデザインしていると言えます。さて、このように工業デザイナーの守備範囲は広いのですが、その中で自動車デザイナー[Car Designer]はそこからまた別に扱われることがあるのですが、さてここで問題です。一般の工業デザインと自動車デザインの最大の違いはなんだと思いますか?
それは私達が生活のなかで使用してゆく道具と車とでは製品と人との関わり方が大きく違うということなんです。工業デザイナーが対象とするものは人がその道具を外から使うのですが、自動車をはじめとする「乗り物」は、人がその中に入って使うというところが最大の違いになります。じゃあそれは大きさだけの違いだろう、とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。人が外から使う道具は見えている外観の内側はそのプロダクトを動かすための機械だけなので、機械や構造物だけをカバーすれば良いのですが、乗り物はその内部に人を乗せて使用するモノですから走るための機構要素とともに、どのように人を乗せるかを考えることが必要になります。見えている外観のすぐ内側に人がいるわけなのです。ですから外側のデザインもしますが同時に内側のことも考える。乗り物は表裏一体。外側も内側も一体のプロダクトなのです。車のスタイルは人との関係なしには創れないのです。
要するに、求められる商品コンセプトを前提に、走るための機構部分とそこに乗り込む人を具体的に配置することが必要になります。これを「パッケージング・レイアウト」と呼びます。車の中身は、人が乗る空間と動力を生む機器がまず必要でそれに加えて動力源に供給するための燃料を蓄えておく部分と荷物を載せる部分に分けられます。これまでは車の前方から、水冷エンジンならラジエーターがあり~その後ろに内燃機関があり~トランスミッションがあり~人が乗る空間があってガソリンタンク(ガソリン以外の燃料でもなんらかの容積のものが必須)があり、一番後ろにトランクが付いて、というような要素が当たり前の前提になっていて、だからこそ車はボンネット部分があり、その後ろ側に人の乗る最大の空間(キャビン)があり、そして人の後ろに荷物を積む(トランク)、という決められた順番のなかで凸シルエットの「じどうしゃ」という記号性が生まれてきました。子供が「じどうしゃ」として描く凸型のシルエットパターンは長い時間をかけて作られてきたわけです。またこれらのシルエットのパターンは求められる商品コンセプトによるエンジン位置の配置によりいくつかの典型にも分かれています(リヤエンジン車、バス、トラックなどのように)。
いずれにしてもパッケージング・レイアウトの基本は「人」で、人の大きさが重要になります。
実際に図面に人を書き入れて検討をしています。一般的には自動車会社ではAM95とかAM90というような「人」の設計基準値を使用します。この意味はアメリカ(American)の男性(Male)の95パーセントをカバーするというようなことです。数字でいうと身長が187cm、体重102kgになります。もちろん小さな人の基準値まで含めて人の乗せ方を考慮し、求められる自動車としてのコンセプトや機能を考えながらあるべき姿を決めてゆくのです。車室内の全体空間性とともに視界や余裕空間などがパッケージの組み立てのベースになってゆきます。エアバッグやシートベルトというような安全装置と人との関係もすべて見てゆきます。そしてこの時点での人の配置が自動車のスタイリングと大きく関わってくるので、パッケージング・レイアウトはスタイリング実現のためにもとても重要なことになります。パッケージング・レイアウトは車を横から見た側面図での検討と同時に車体を輪切りにした断面セクションや、平面プランも同時に行います。これら3方向はもちろん相互に補完しあっているのでデザイナーとしてはこの機会に造形の基本的な組み立てや構成を頭のなかに描いておかねばなりません。設計者に基本的な要望を出せるのもこの段階のみになりますから。
近年エアロダイナミクスの向上視点からAピラーが前進しフロントウィンドウが寝る傾向にあります。いかにも風を切って走るように見えてデザイナーはフロントウィンドウを倒した絵を描くのですがこれもパッケージング・レイアウトの図面で見てみるとさまざまなことが見えてきます。ピラーが倒れれば視界方向の平面でカットすると断面積は増え死角は増します。また、Aピラーの付け根も太くなりがちなので、付け根の三角デルタ地帯も大きくなり、さらにドアミラー位置が適切でなければドライバーからはますます見えない部分が広がります。一方フロントウィンドウをいたずらに倒せばドライバーのおでこの上の空間が減ってきますので頭上空間が圧迫された息苦しい空間になりますし、下手をすると見上げる角度も狭くなります。
クルマをクルマのかたちにする要件
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