「ヨンクの三菱!」の真骨頂はエクリプスクロスで発揮されているのか|三菱 エクリプスクロス ディーゼル 三菱 エクリプスクロス:次世代に向けた渾身の1台は、起死回生の1台となるのか? ディーゼルの出来は?
- 2020/03/03
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瀨在 仁志
三菱が満を持して投入したニューモデル、エクリプスクロス。ヨンクのプロフェッショナル集団が、クロスオーバーSUVに対しどう解を出したのかが注目である。パジェロやランエボを知り尽くした自動車評論家の瀬在仁志が、雪上も含め試乗した。
TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO:MF.jp
クロスオーバーSUVへの事実上三菱初の本格参入モデルに期待が膨らむ
三菱が長い沈黙のあと、ようやく市場に送り込んだ渾身のニューモデルがエクリプスクロスだ。その2年ほど前から何度もプレビューと称して、ボディシルエットやコンセプトモデルなどがネットなどを通じて報じられてきたが、直線を基調とした力強いクーペスタイリングや、市場拡大中のクロスオーバーSUVへの事実上三菱初の本格参入モデルとあって、期待は大きく膨らんだ。
三菱ならではの4WD技術であるオールホイールコントロールシステム・S-AWCによって4輪の動きを自在にコントロールしたり、パジェロやランサーエボリューションなどモータースポーツ活動で培ってきた、ボディやサスペンションワークをフル投入してきていることも明らかだった。
デビューまで、焦らすに焦らすだけ引っぱってきたのもその現れで、万全の体制で開発を行なってきた結果だ。まさにエクリプスクロスは三菱が次世代に向けた起死回生の一台。持てる技術の集大成として世に問うた意欲作だ。
当時の印象を振り返ってみると、試作モデルということもあって限られたエリアでの試乗ではあったが、乗り味の第一印象は『三菱らしからぬ上質感』であった。ボディのしっかり感に加えて、サスペンションの動きがスムーズで、日常領域の快適性とヨンクの機動力を得たことで、今後の三菱を代表する主力モデルになりえそうな予感がした。
いっぽう4WD技術に関しては、S-AWCと称してはいるものの、旋回時のトラクションは弱め。イン側のタイヤから、かすかにスキール音が聞こえてくるような頼りなさはFF的で、私がよく知るランエボのS-AWCとネーミングこそ同じでも、パフォーマンスは随分と異なっていた。
次世代SUVにふさわしいクーペスタイリングを与えられていながら、内実は三菱のラインアップの空席を幅広く埋めるべく、すべての要素をこの一台に盛り込もうとした結果、乗り味は意外なほどロールは大きく動きも穏やか。上質感は出たものの、走りへのこだわりは期待したほど感じ取ることはできなかった。『帯に短し、たすきに長し』。あれもこれも織り込んだぶんだけ、三菱らしい力強さはぼやけてしまっていた。
久しぶりに乗ったエクリプスクロスは、昨年冬の雪上試乗会以来。そのときの印象に関しては、初試乗のときよりもずっと好感度があがっており、今回もその期待を胸に雪道を目指すことにした。足元にはアイス路面での走りに定評のある、BSのスタッドレスタイヤ『VRX2』が装着され、万全である。
また、今回試乗したモデルには、最新の2.3ℓディーゼルエンジンを搭載。組み合わされるミッションもガソリン車のCVTに対してアイシン・エィ・ダブリュ製8ATと、追加モデルとしては相当に力が入っている。エンジン自体も昨年デリカD5に採用されるにあたって、環境性能とパフォーマンスの両立を図るべく、多くの部品を新設計するなど、ブランニューと言って良いほどの進化を遂げていた。
SUV×ディーゼルエンジン、いかに
今後三菱はディーゼルエンジンの開発を行なわない、と新聞紙上で発表があったものの、それはできることはすべてやりつくしての結論に違いない。疎まれつつも最後まで生き残ることができるほど、三菱にとっては最後で最強のディーゼルエンジンでもあるからだ。
そんなわけで、渾身の思いで仕上げたSUVに、期待のディーゼルエンジンが組み合わされたことで、いよいよその真の実力が問われるところ。なにより、エクリプスクロスは、あまり目にすることがないせいか、皮肉にもいまだ新鮮実を感じさせてくれているから、ここからが本当のスタートと言っても良い。
久しぶりに間近で見るエクリプスクロスは、スパッと斜めにカットされた大味なドアラインやリアにかけてスラントしたルーフライン、厳ついフロントマスクなど、斬新さに変わりはない。いっぽう、標準設定ではスマホ対応のセンターモニターにはナビがなく、いまどきのサイズにしては小さい。これに関しては(そもそもアナログ派の自分にとっては対応のしようがないのだが)、次世代に向けて生き延びていくために、先手を打っていると理解したい。一部の輸入車ではいまやスマホ対応ナビが増えてきているから、アナログ派は取り残されるばかり。デザインも斬新なら、割り切りも良くて潔いとしよう。
苦境のときにに生まれた跡が垣間見える、シート周り
もっともシートに関しては、リヤに座るとドアとの隙間が大きかったり、座面の前後長が短いなど、全体のサイズ自体が小ぶり。シートアレンジを優先したのか、組み立て工程の都合なのか、ひと昔前の4ナンバーモデルに乗っているような印象を受けてしまうのはいただけない。ドライバー中心のインプレッションでは、次世代ラインアップを広くカバーする性能を持っていると思ったが、視点を変えると意外にも苦境のときにに生まれた跡が垣間見える。
走りに関してはエンジンは期待どおり。2トン近いデリカのときでさえ、雪道を豪快に振り回せるほど力強かったのだから、300kg近く軽いエクリプスクロスにとっては、スポーツユニットに換装したような軽快さだ。4000rpmを超えない範囲であれば吹け上がりは意外なほど軽く、8ATとの組み合わせによって頭打ち感もなく速度を伸ばしていく。車両の軽さがパワーユニットにゆとりを与えてくれたことで、ディーゼルとは思えないストレスフリーな走りを見せてくれる。
これは間違いなく、トップレベルの静粛性!
AT自体はロックアップ感が少なく、緩慢な反応を見せている反面、変速時のショックやディーゼルエンジン特有のトルク変動が感じにくい。結果、小刻みな変速シーンでもトルクの谷間は感じにくいし、エンジンの頭打ちに悩まされることがない。軽く吹け上がるフィールはこの8ATとの絶妙なチューニングによって実現した力作といってもいい。
もちろんノイズ的にも余力があるせいか始動時のゴロゴロ感を除けば、気にならない。高速ドライブでは、内外のほとんどのディーゼルエンジンを確認済みだが、三菱の新ユニットは間違いなくトップレベルの静粛性といえる。風切り音や、リアからのロードノイズの侵入など、まだまだ改善できる要素はあるから、商品力がアップする余力も充分。
高速ドライブを続けていると、最新のスタッドレスタイヤとはいっても1.6トンのボディと3人乗車ではいささか苦しそうである。トレッド面の動きを押さえ込むブロック剛性の確保や、ベース部分のしまり感はあるものの、ステアリングセンター付近の動きはやや緩慢。エクリプスクロス自体のステアリング周りの座り感もやや弱めということもあって、外乱を受けるとゆっくりとした修正を要求された。このあたりは開発時期の年代による基本性能の差によるものだろうが、スタッドレスタイヤにとってはとんだとばっちりだ。
乗り心地は全体にストローク感は抑え気味で、比較的ゴツゴツと入力を感じさせる。その一方でピッチングは抑えられていることから、ジオメトリーなど挙動を安定させる事に関してはこだわりをもって作り込まれていることが理解できる。ブッシュ類などの動きの渋さなど、もう少し精度を上げることでボディへの入力は抑えられ、乗り味は洗練されるはず。ノイズと同様に振動に関しても少々荒削りな印象だ。
そのかわり、コーナーに対して操作していくとフロント荷重が大幅に増えていることを意識させないほど、レスポンスはいい。手応えがあって、路面からの反力が落ち着いていて、安心して切り込んでいける。浅いロールをともなってぐいぐいと引っぱっていく感じは、いかにもFFベースのオンデマンド4WDといった印象で、リアからの積極的な動きは感じられない。シャシー本来の安定感の高さから、駆動力に依存している印象は薄い。
しかし、滑りやすい路面に遭遇すると、フロントが外に逃げようとし、エンジンの重さが途端に気になる。ランエボなどのS-AWCであれば、そもそもリアへのトルク配分があることで、オーバースピード以外で空転によってフロントが逃げるケースは少ない。エクリプスクロスのいうS-AWCは、センターデフにマルチプレートを採用していることで、引き吊りトルクやイニシャルトルクぶんを除いては、リヤへの駆動力配分は少ないために、どうしてもパワー伝達に遅れが出る。
もちろんリヤへのトルクを積極的に伝達すれば、すなわち締結力がアップするために旋回力は失われ、いわゆるプッシュアンダー傾向になる。フロントが滑るシーン以前は、駆動力に依存していない事がプラス要素であったものの、滑り自体が発生してしまうと途端に物足りなさを感じる。AUTOモードであればオンからスノーロードまで幅広く、駆動力配分を行なってくれてはいるはずだが、ほんの瞬間的な滑りに対しての反応は遅い。
もっとも旋回ブレーキなどを含めて減速しながらコーナリングしたり、フロントが逃げるようなシーンがあったとしてもμが一定であればブレーキが介入してくることで旋回力は保たれる。大きなRを車体そのものが横滑り角を持っていれば、内輪にブレーキをかけることで内向きの力がかかるが、このシーンはよほどコース幅があるか、入り口から積極的に変えられる技術が必要なため、理想どおりの走りはなかなか味わえない。
昨年の冬に雪上で思う存分エクリプスクロスの4WD技術の高さを体感したいっぽう、一般路に出てみると車線が限られているため、フロントから外へ出ていくシーンが多い。そんなときにはやはり回転差を吸収するセンターデフのありがたみが身にしみる。アクセルオフの時には左右回転差が発生させることができても、アクセルオン状態ではその効果も薄いと言わざるを得ない。燃費やコストの問題があって採用できないことは充分に承知しているが、4輪駆動力配分の先駆者でもある三菱にはいま一度センターデフを使った4WD技術で存在感をしっかりアピールしてもらいたい。
真のフルタイム4WDシステムの必要性をSNOWモードで痛感
雪のワインディングでは辛口評価だったもの、ステアリングを切らない状況では駆動力の高さは実感できた。恐る恐るステアリングを切らざるを得ない極限林道ではSNOWモードを選ぶことで、フロントの滑りは解消。AUTOの時には、ワインディング同様にフロントが滑ってからリヤが蹴り始めるシーンが多かったが、SNOWモードではほぼ4輪同時に駆動力を発生し、安定して進むことができた。
4WDモニターでみてもその差は明らかで、4輪で駆動力を受けとめ、滑りはほとんど感じられず、意外にもボディの上下動も収まって乗り心地も向上。4輪にパワーを振り分けて、蹴リだすことがいかに多くの効果を生むかがよくわかり、真のフルタイム4WDシステムの必要性を再認識した。
事実上の三菱初のクロスオーバーSUVとして投入されたエクリプスクロスは、クーペスタイリングの走りのイメージどおり、新ディーゼルユニットを得たことで、すべてが整った。乗り心地や使い勝手に関しては苦言を呈したものの、力強い走りの三菱を牽引するオンロードでの安定感や、強い駆動力によるタフネスさを実感。あとはS-AWCの更なる進化によって、4WDスポーツハンドリングの先駆者としてのポジションを確固たるものにしてほしい。
3モーターによるオールホイール4WDが噂されているが、是非その前に、いま一度センターデフを使ったS-AWCに乗ってみたいものである。エクリプスクロスにそれがあったのなら、きっと評価も人気ももっとアップして、三菱の真の牽引役になってくれたはず。事情はわかるがもう一歩踏み込んで、三菱の技術力のすべてを余さずに投入してほしい。
三菱エクリプスクロス Gプラスパッケージ
全長×全幅×全高:4405mm×1805mm×1685mm
ホイールベース:2670mm
車重:1680kg
サスペンション:
F|マクファーソンストラット式
R| マルチリンク式
タイヤ&ホイール:225/55R18
駆動方式:
エンジン形式:2.3ℓ直列4気筒DOHCディーゼルターボ
型式:4N14型
最小回転半径:
排気量:2267cc
ボア×ストローク:86.0×97.6mm
圧縮比:14.4
最高出力:145ps(107kW)/3500pm
最大トルク:380Nm/2000rpm
燃料供給:コモンレール式燃料直接噴射(DI)
燃料:軽油
燃料タンク:60ℓ
燃費:
JC08モード燃費15.2km/ℓ
WLTCモード燃費 14.2km/ℓ
市街地モード 11.0km/ℓ
郊外モード 14.0km/ℓ
高速道路モード 16.4km/ℓ
トランスミッション:8速AT
車両本体価格:347万4900円
※試乗車はオプション込み
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