VWゴルフGTI TCR 最新のLSDの効果をテスト! ハイパワーFFスポーツで効果絶大。標準仕様GTIを比較してみる
- 2020/05/08
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MotorFan編集部
VWゴルフGTI史上もっともハイパフォーマンスなモデル、GTI TCRのキーデバイスは「電子制御油圧式LSD」だ。LSDとは、リミテッド・スリップ・デファレンシャル(Limited Slip Differential)のこと。FFモデルにLSDを使うのは少数派。それでもVWがゴルフGTI TCRに電子制御油圧式LSDを組み込んだ意図と効果を、自動車ジャーナリストの瀨在仁志がテストを通して解き明かす。
TEXT◎瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) ILLUSTRATION◎熊谷敏直(KUMAGAI Toshinao) PHOTO◎Motor-Fan FIGURE◎Volkswagen
どうしてデファレンシャル(デフ)が必要なのか? どうしてLimited Slip(差動制限)が有効なのか?
正確な時期は忘れてしまったが、クルマの運転に興味があって、教習所に通う前後のころである。基本の操作に加えて、クルマの機構などを、本やクルマ好きのおじさんたちからいろいろと教えてもらった。その関係でいまではすっかりとこの業界に居座ってしまったわけだが、当時どうしても理解できなかったのが、デファレンシャルギヤだった。
リミテッドスリップデファレンシャル
いまのMotor Fan illustratedのように親切に説明してくれる雑誌があればよかったが、当時はまだ図版も少なく、経験者といっても運転歴も浅い人たちばかり。こちらも運転免許的にいえば2輪しか知らなかったから、話はなかなか進まない。ただレーシングカートに乗っていると、旋回中にリヤを流しながら走行したり、ねじ伏せるような力づくのコーナリングは身体で覚えていた。
クルマだってハンドルがあって、リヤタイヤを回しているなら、強引に走ってしまえば曲がれるはず。デフの必要性などクルマを運転するまではまったくわからなかった。
いや、免許を取ってみてもパワーをかけていけば、タイヤはギュルギュルと悲鳴をあげ、コーナーを曲がることができたし、それなりにカウンターの真似事なんかもできた。そう、FRのクルマの場合、リヤのイン側がいとも簡単に空転してしまっていることと、カートで強引にパワードリフトしていることを混同し、クルマを操っている気分になっているだけだったのだ。
冷静になってクルマの動きを見てみると、ギュルギュルとリヤタイヤがいうものの、カートのようにコーナー出口に向かって鋭く立ち上がっていくのではなく、クルマの動きは至って穏やか。タイヤから煙や悲鳴が上がっていても、速度もGも上がることがなく、空転していただけのことに気づかされた。お恥ずかしいことに速く走っていたつもりは、イン側のタイヤが空転しているに過ぎなかったのだ。
LSD(Limited Slip Differential)の作動原理
■差動許容時(上)
左右サイドギヤに著しいトルク差が生じていない状況ではピニオンギヤおよびシャフトには強いストレスがかからず、オープンデファレンシャルギヤとして働く。図では左旋回の状態、左右のサイドギヤとクラッチは回転差をともない差動している。
■差動制限開始(中)
トルク差が大きくなってくるとサイドギヤがピニオンを強く回し、それにともなってピニオンシャフトはデフケースとは逆の回転方向に回ろうとする。するとピニオンシャフトを挟み込むプレッシャーリングが押し広げられクラッチが締結し始める。差動が制限され左右のトルクが適正に配分されるようになる。
■差動制限状態(下)
プレッシャーリングが最大限押し広げられクラッチが完全締結した状態。図に示すようにユニット全体が一体となり同一回転する。差動制限トルク/入力トルクはロック率と呼び、差動制限の指標とする。また、左右間で分配された際の多トルク/少トルクの値をトランスファーレシオと呼び、LSDの効きを表す。
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自慢げにドリフトを気取っていたのは大きな勘違いだった。デフは左右の回転差を吸収し、パワーをかけすぎると荷重の少ないほう、つまりグリップの小さい方から駆動力は抜けてしまうことを身をもって知ることになった。簡単に言えば片輪が浮いてしまえば、駆動力を伝えることができず、どんなにパワーがあっても生かせない。そのパワーを無駄なく生かすためにデフの機能を制限、つまり『リミテッド・スリップ』なデフ、略してLSDがスポーツモデルにも多く採用されてきた。
デフケースの中に機械式のクラッチ機能を設けて、イン側との回転差が大きくなると、駒状のシャフトがねじれることで隙間を押しつけてプレートを圧着。力づくで左右の回転差をなくす。つまり、トルクは左右均等に振り分けられてレーシングカート状態になる。もちろんクラッチが介されていることで、実際には直結状態ではないが、機械的に押しつけているぶんだけ、駆動力はもっとも強力なタイプと言える。
これによってエンジンパワーがグリップの低いイン側から流出することなく、リヤタイヤは両輪が一体になって、最大限の駆動力を発揮してくれる。タイヤのグリップ力ギリギリまで攻め込むことができるから、限界を超える境界線を行ったり来たりさせることで、大きく滑らせればカウンター方向に向きを変えていくことができ、真のパワーオーバーステアやドリフトといった姿勢を作りこむことができるのだ。
作り込むというのにも意味がある。いま書いたのは旋回姿勢ができてからの話で、その前の状態では話がちょっと違う。旋回に向けてステアリングを切り込んでいったとき、コーナーに合わせてスロットルを開けていくと、普通のデフならリヤへの駆動力は左右の回転差に応じてトルクが伝達され旋回軌跡を描けるが、LSDで回転差を抑制しているから、駆動力に無駄はないが、旋回軌跡は描けない。リヤタイヤが同じ回転数で回ってしまうので、真っ直ぐに行こうとする力が働いてしまうのだ。
いわゆるプッシュアンダーステア状態となってしまう。そのためにステアリングの操作量やタイミングに合わせてパワーを上手に伝えないといけない。向きを変えた後のコントロール性は良くなる半面、向きを変えることは逆に難しくなってしまうのが、このLSDの泣き所。まさに作り込む作業が必要なのだ。
それでもFRの場合は、まだフロントとリヤタイヤが個々に仕事を分け合っているから、慣れてしまえばそんなに大きな問題ではない。LSD効果の恩恵の方が大きく、スポーツモデルにとっては得がたいアイテムといえる。だがこれがFFになったら話は別だ。FFはご存じのとおり、駆動力と旋回力のふたつの作業を前輪だけで行なっている。曲がりながら、加速したり減速したりを同時に行なっている。
当然ハイパワーFFモデルになるとFR同様に旋回中にパワーをかけていくと、ノーマルデフの場合は、イン側のタイヤからトルクは流出してしまう。もっともFRと違ってフロントタイヤには荷重が多くかかっているから、滑りが生じるポイントは遅くなるものの、攻め込んでいけばいずれは駆動ロスは発生する。
LSDを採用すれば、イン側の接地性が失われそうになると、左右の回転差は抑制されトルクは均等に振り分けられる。しかし、ステアリングは切っている状態だから、機械的に回転差をなくしてしまうと、急に直進状態へと戻ろうとしてステアリングには大きな反力が生まれてしまう。いわゆるトルクステアであり、強いキックバック状態だ。
曲がりたいのはドライバーの意思だから、大きな力にかなうぶんだけステアリングを押さえ込まなければいけないし、速く走りたいからさらにパワーをかければフロントは暴れ出す。曲がる力と駆動力を同時に生かすために、左右輪の回転差はなくなり、イン側のタイヤにも無理な力がかかってしまう。物理的にもドライバー的にも無茶である。低μ路でなければFFの機械式LSDは成立しにくいのだ。
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