火曜カーデザイン特集:新型ランドクルーザーで改めて思う、ランクルのデザインとは? 新型トヨタ・ランドクルーザー | ランクルってどんなデザインのクルマ?「実は結構わからない」の不思議
- 2021/06/16
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CAR STYLING編集部 松永 大演
ランドクルーザーとはどんなクルマか? と考えたときに「はて?」と悩んでしまった。これが、ランドローバーだったりメルセデス・ベンツGクラスだったり、それこそパジェロだったりしても大体のイメージは浮かんでくるものだ。しかし、ことランドクルーザーに至っては、どんな感じというのが掴めない。それはどういったことなんだろうか、あるいは不勉強のなせる技か?
ランドクルーザーらしさってなんだろう。壊れない、どこでも走れる、ワールドカー……、といったように言葉での表現は、ある程度多くの人が共通の認識が持てるのに、形としてどんなクルマ?と聞かれると、頭の中でイメージするのは、人によってさまざま。全体でこういう形、というのがイメージしにくい。しかしユーザーにとって、ランクルは絶大な信頼をおいた相棒だ。絶対に行ったら帰ってこられる、というまでもなく車に何の心配も、不安も抱かない。それがランクル。
ランドクルーザーという名前がつけられたのは、1954年から。これはクラウンの1955年を超えて、現在、日本で一番長い歴史を持つブランドだ。それでいながら、「ランドクルーザーといえば?」と問えば、ある人は40系をイメージし、かたやとある人は80系だったり70系だったりする。
と言いながらも、ここで紹介する最新の300系をみれば、確かにランクルだと納得してしまう。それって、どこにランクルらしさが潜んでいるのだろうか?
300系の祖先はステーションワゴンとして派生
ランドクルーザー名を名乗るモデルは1954年に登場後、60年代に大きな進化を遂げる。直系として進化した40系から、55系という大型のステーションワゴンタイプが登場。ランクルの堅牢さはそのままに、より快適な上級モデルを生み出した。そして80年代には、ヘビーデュティ系から派生し「プラド」として乗用モデルを生んでいく。そしてプラドが、90、120、160と進化するなかで、14年にはかつての70系が期間限定発売された。
そうしたなかで、今回発表された300系の祖先に当たるのが67年に登場した55系。極めて個性的なモデルで、その前の直系である40系との関連性も感じさせるアイコニックなモデルだ。トヨタではBJからこの先の70系までをヘビーデューティ系と分類し、この55系から始まるモデルをステーションワゴン系と分類する。さらには、70系から枝分かれしプラドを名乗っていく乗用系モデル、70系、90系、120系、150系にライト・デューティ系という分類をしている。
さて、今回の主役であるステーションワゴン系だが、そこから80年に60系、89年に80系へと進化する。この80系は今回の300系にとっての偉大な先祖で、ランクルのなかで最も走破性が高いモデルとして捉えられ、このモデルへのリスペクトが新型モデルを産んだという。そして98年に100系、07年に200系へと進化する。
一連のステーションワゴン型のランクルを振り返ると、そこには時代性や技術の発展を見ることができる。
55系の登場した1967年といえば、トヨタ2000GTやセンチュリーが登場した時代。もはや戦後ではなく現代同等のセールスプロモーションも存在した時代。単に実直に車を作るだけではなくその車の価値というものを、しっかりマネージメントしている時代だ。
そのなかにあって55系は一大事の存在。これまで軍用車と思われてきたモデルに、民生の価値を見出すのが40の時代。さらなる発展の可能性を見越して、クロスカントリーのポテンシャルを持ちながらも、セダンやワゴンの所作、振る舞いをしっかりと持たせる開発がなされたのが55系だ。それでいて、40系などヘビーデュティの見え方もするように配慮した、秀逸のデザインではないだろうか。何しろ、ランドローバー・レンジローバーが登場したのはその3年後の70年であることからも、先見の明があったとも言える車作りだ。
そして2代目60系の登場は80年。しかし残念ながら、私感で述べるとレンジローバーの影響を受けていると言わざるを得ない。シンプルでありながらもアバンギャルドであるレンジローバーに共感したり、そこに真実を見出したということはあるのかもしれない。しかし、レンジローバーよりも先駆者である誇りを持って欲しかった。勝手な印象をいえば、そんなことも言えるのではあるが、この時代は当選基調がトレンドともなり多くの車がその傾向を持ち合わせていたこともいた仕方ないのかもしれない。
3代目の登場は1989年。すでに81年に初代の三菱パジェロが登場しRVの土壌を一般に広めていった時代。本格的ブームは91年の2代目パジェロからと言われるが、実際のはその前からクロカン4WDが主役としてRV人気が高まっていった。その2代目パジェロ登場の2年前に登場したのが80系だ。
肉感的でありながらも、均整の取れたプロポーションの良さ。乗用車としての快適性だけでなく、空力性能をも意識したボディづくりは、バブル期でもありかなりお金の投入された開発であることが見て取れる。この時期に、「ランクルとは何か?」といった、あるべきプロポーションや造形に積極的にトライしたこもと、このモデルが物語っている。
そして続くのが100系、200系だ。ある程度デザイン的にもランクルとしての頂点に達したのが80系とすれば、ここからはランクルらしさをいかに継承するかが使命となってくる。
ただし、主力のセダンやスポーツカーなどメーカーとしての旗艦と違うのは、出しゃばらないことなのかな、と教えてくれるのが100系、200系のモデルだ。
つまりランクルとは何なのか
今回の300系の開発にあたり、チーフエンジニアの横尾貴己(よこお・たかみ)氏は、疲れないクルマ、運転しやすい車を目指したという。
しかしそれは一連のデザインを見る限り、特にステーションワゴン系のランクルにとって永遠のテーマではないだろうか。
アイポイントに対する、ボンネットのあり方、ピラーの立ち方からウインドウの大きさ、開け方。必ず戻って来られる車作りを目指すランクルのなかで、デザインの使命のひとつはこれらのポイントだ。そうした視点で見ると、歴代のランクルでは動かしてはいけないポイントが明確にあるように思う。むしろステーションワゴンの2代目、60系がレンジローバーに似てしまったのは、当然の結果だったのかもしれない。
デザイン戦略はセールスにとって大きな意味を持つが、だからと言ってランクルが斬新なデザインを採用してしまったら……? 既存のユーザーが期待するものを失ってしまうことにもなりかねない。
おそらくランクルにとっては、「あなたは誰?」と思われることは、まったくどうでもいいことなのだと思う。むしろ形そのものでも、人を助けること、安心に走らせられること、壊れないこと、壊れても走れること、安く直せること。それこそが重要なのだ。
「なかなかやるな、お主は何者だ?」
と問われれば、きっとランクルは言うだろう。
「名乗るほどのものではありません」
と。
まさに、サムライ魂がここにあるのかもしれない。
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