チューニングによってインターフェイスはむしろ悪化 モデル末期のトヨタ・ヴィッツGRは“買い”か“待ち”か? 二度の大幅改良とGRチューンをもってしても「80点主義」からの脱却ならず。TNGA採用の新型を“待ち”たい
- 2019/08/24
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遠藤正賢
どれほど技術が進化しても、法規や市場環境の変化など様々な要因が影響するため、最新のモデルが最良とは限らないのが、クルマの面白い所。さりとてモデル末期のクルマは、熟成が進んでいるとはいえ、その後に現れる新型車で劇的に進化する可能性を考慮すると、実際に購入するのはなかなか勇気がいる。
そこで、近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されている、モデル末期の車種をピックアップ。その車種がいま“買い”か“待ち”かを検証する。
2回目は、新型ではプラットフォーム一新に加え、海外と同じく「ヤリス」を名乗るのが確実視されているトヨタのコンパクトカー「ヴィッツ」。そのスポーツコンバージョンモデル「GR」のCVT車に、都内~神奈川県内の首都高速道路と市街地で試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、トヨタ自動車
1999年1月に初代ヴィッツが発売された時の衝撃を、私は今でも忘れられない。
バブル経済崩壊の余波がなお残る当時の国産コンパクトカーは「安かろう悪かろう」が当たり前、デザインや居住性を求めるのはナンセンスと言っても過言ではない…そんな空気だった。
だが初代ヴィッツは、1997年末に登場した初代プリウスの思想をそのまま受け継いだかのような、極めてアバンギャルドな内外装と、全高1500mmの背高パッケージによる高い居住性を備えてデビュー。発売から6ヵ月余りで国内累計登録台数が10万台を超える、トヨタでも過去に例を見ないほどの大ヒット作となった。
しかしながら、2005年2月発売の二代目、そして2010年12月発売の現行三代目はともに保守的な作りで、良くも悪くも一昔前のトヨタ車らしい「80点主義」的なもの。目立った欠点もなければ際立った長所もなく、居住性とユーティリティでは歴代ホンダ・フィット(2001年6月~)、走りでは二代目以降のスズキ・スイフト(2004年11月~)、内外装の質感では現行四代目マツダ・デミオ→マツダ2(2014年9月~)の後塵を拝し続けている。
とはいえ、トヨタもずっと手をこまねいていたわけではない。2014年4月と2017年1月のマイナーチェンジではいずれも内外装の変更のみならず、スポット溶接増し打ち、補強材の板厚向上、ダンパーの改良など、ボディ・シャシー性能も大幅に強化。また2017年1月のマイナーチェンジと同時にハイブリッド車を追加し、同年9月にはガズーレーシングが開発を手掛けるスポーツコンバージョンモデル「G's」を「GR」シリーズに改めている。
なお、この「GR」シリーズには、ライトチューンのカタログモデル「GRスポーツ」と、これをベースにさらなるチューニングを施した持込登録車「GR」、そしてエンジンにまで手を加えた台数限定モデル「GRMN」の3種類が設定されているが、今回試乗したのは中間に位置する「GR」のCVT車だ。
当初は標準仕様にも設定されていた1NZ-FE型1.5L直4エンジンは、今や「GRスポーツ」と「GR」だけとなっているが、性能は109psに136Nmとごく一般的。
一方で専用のエアロパーツ(アンダーフロア含む)に前後ランプ、フロントスポーティシート、アルミペダル、小径本革巻きステアリング、ディンプル本革巻きシフトノブ、シルバープレートアナログメーター、カーボン調パネルを装着するなど、内外装はチューニングカーらしい出で立ちだ。
目に見えない部位にも手は入れられており、ドア下のロッカーフランジに施すスポット溶接の打点を追加し、電動パワーステアリングを専用チューニング。サスペンションも強化しているが、「GRスポーツ」と「GR」とで異なり、後者は約10mmのローダウンスプリングとザックス製ダンパーとの組み合わせになる。
「GR」ではさらに、フロントロアアームを専用品とし、フロントサスペンションメンバー後端、センタートンネル、リヤフロアにブレースを追加してボディ・シャシー剛性を向上。タイヤも「GRスポーツ」の195/50R16(ハイブリッド車は185/60R15)から205/45R17へとサイズアップしている。ブレーキも、スポーツパッドとホワイト塗装のキャリパーを組み合わせた専用品だ。
そしてCVTには、「SPORT」モードに全日本ラリー選手権で培ったノウハウを注ぎ込んだという専用の制御を採用。加えて、MTのようなシフトチェンジをシフトレバーまたはパドルシフトで可能にする「スポーツシーケンシャルシフトマチック」を、「GRスポーツ」の7速から10速に多段化している。
これら多岐にわたるチューニングの効果は、走り出す前からすぐに体感することができた。
フロントのスポーティシートは背もたれのサイドサポートこそ大きく硬いものの、座面・背もたれとも絶対的なサイズが小さく、特に肩まわりと太股のフィット感が悪いため、ただ単に座っていても落ち着かない。また、ステアリングとシフトノブの本革は硬くツルツルしているため滑りやすいのも問題だ。
しかもアルミペダルに至っては、滑り止め対策が実質的には何ら施されていないも同然。これが、全体的にペダルレイアウトが左寄りでフットレストも幅が狭いという根本的な設計の不味さに拍車をかけ、停止時に右足をブレーキペダルへ乗せ続けるのを一層困難なものとしている。
そして最もNGなのは、ヘアライン調仕上げのシルバープレートアナログメーターだろう。これが光を細かく乱反射するため、日中は目障りなことこの上ない。またアクセサリーオンにすると文字盤が赤く光るのだが、シルバーの盤面が暗く沈まない薄暮時などは文字が白飛びして盤面のシルバー色と同化することで、ほぼ判読不可能になるのだ。
この時点ですでに、ワインディングへ持ち込んでそのポテンシャルを存分に試す意欲が完全に削がれたことは、正直に白状しておきたい。
気を取り直して後席に座ってみたが、ニークリアランスこそ20cmほどの余裕があるものの、身長176cm・座高90cmの筆者にはヘッドクリアランスが完全に不足しており、後頭部がルーフライニングに当たってしまう。
荷室も日常の買い物程度なら困らないものの、後席を倒せば大きな段差と傾斜が生じるうえ、今回の「GR」の場合は荷室フロアをかさ上げする「アジャスタブルデッキボード」が使用できない。長尺物や大きな荷物を運ぶのには不向きと言わざるを得ないだろう。
では、実際の走りはどうか。最初に走行した麹町周辺の、路面の凹凸が大きいタイトな市街地では、10mmローダウンによるサスペンションストローク減少が影響したか、リヤからの突き上げが強烈で、もし後席に座ったら5分と耐えられないのではないかというレベル。
逆にヒビ割れた路面や石畳路などの細かな凹凸はキレイにいなし、車体をフラットに保ってくれる。この傾向は首都高に入っても基本的には変わらず、ヴィッツGRは明確に路面のコンディションを選ぶクルマだということを確認できた。
その代わりと言うべきか、ピッチ・ヨー・ロールとも出方はクイックかつリニアで操りやすく、かつ速度が上がるほどエアロパーツが効果を発揮し接地性を高めるため、高速域でこそむしろ絶大な安心感を得ることができる。
そしてパワートレインは、エンジン自体に見るべき点はないものの、CVTを10速MTモードにした際の変速の切れ味は抜群。CVTのMTモードにありがちな、やや滑るようにしてギヤ比が上下する感覚は皆無に等しく、小気味良い意のままの加減速を楽しむことができた。
ただし通常のATモードは及第点以下。ノーマルではアクセルレスポンスが非常に鈍く、SPORTモードでは逆に過敏なうえ高回転をキープしすぎるため、都内の市街地と渋滞時以外はほぼ常時MTモードで走行することとなった。
「モデル末期のトヨタ・ヴィッツGRは“買い”か“待ち”か?」、その答えはもうお分かりだろう。“待ち”である。
冒頭で述べた競合他車に対する劣勢は、二度の大幅マイナーチェンジにガズーレーシングのチューニングを上乗せしてもなお、覆すことはできていない。それどころか、根本的な設計の不味さが9年間何ら改善されずに放置された所や、チューニングによりかえって悪化した点さえ見受けられる。
新型ではTNGAの考え方に基づく軽量・低重心の新世代プラットフォームが採用されるものと思われるが、これを機にデザインやパッケージングにおいても初代の志を取り戻し、再びコンパクトカーの世界にパラダイムシフトをもたらす存在になることを願ってやまない。
【Specifications】
<トヨタ・ヴィッツGR(FF・CVT)>
全長×全幅×全高:3975×1695×1490mm ホイールベース:2510mm 車両重量:1060kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 排気量:1496cc ボア×ストローク:75.0×84.7mm 最高出力:80kW(109ps)/6000rpm 最大トルク:136Nm(13.9kgm)/4800rpm 車両価格:230万3640円
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