火曜カーデザイン特集 スズキ・ジムニーのカタチ「そのカタチは常に冒険に満ちている」 スズキ・ジムニーのカタチ「デザインしない形ではなく、それは確信犯のデザイン」
- 2020/07/07
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CAR STYLING編集部 松永 大演
軽自動車でありながら、もはや定番商品としての地位も得ているジムニー。4代にわたるその商品性は、決してブレない。しかし、そのカタチは常に冒険に満ちている。だからこそ、それがジムニーなのかも知れないが。
ジムニーが世に登場したのが1970年。当然、世界にJeepをはじめとする軍用四輪駆動車をベースとする市販車はいくつか登場していたが、パーソナルユースとして、しかも軽自動車として登場したのは驚異的だったようだ。
実際には、登場の経緯からするとホープスター社のON型4WDの製造権を受け継いでの生産となったが、結果としてはコンセプトや基本的なレイアウトの考え方を引き継ぐが、ほとんどオリジナルとして登場している。
そして、ジムニーは各世代が個性的な形で登場し長い歴史を刻み、2018年に登場したのが現行の4代目だ。
一部では「デザインされない形」として賞賛もされているが、この実用性重視の形にこそデザインの入り込む余地がある。むしろ、製品として成立させるにはデザインという手腕が入り込まなければならない。
特徴なのは四角い形。4代目は初代の基本に立ち返るという考え方が根幹にはあるようだが、実はこの初代こそが絶妙なデザインをなされているのだ。
系統としては、クロカン4WDとしてウイリスや三菱ジープと同様になるわけだが、ジープになくて初代ジムニーにあるものが商品としての絶妙なデザインセンスだ。
初代の形を見れば、その狙いは2つ。
当時既存のいわゆるジープタイプの形に、いかにスポーティさを与えられるか。2つめは、軽自動車という小さなサイズで、その堅牢さを形としてどう表現するか、だろう。
初代のデザインを語るのにキーとなるのは、ボンネットの傾斜具合とフェンダーパネルがフロントにまで回り込んだ造形だ。
ジープ系の場合は水平でフラットなものになることが多いが、あえての傾斜。これは、フロントグリルを小さくしたいこと、とスポーティさの表現のためだ。左右のフェンダーもパネルをフロントに回り込ませているのは、さらにグリルを小さく見せる効果。
そして見逃せないのが、フェンダーの存在感を強めて、がっしりとした安定感を与えることだ。当時の360cc軽自動車であるジムニーの全幅は1295mm。その中では到底大きなフロントフェンダーは装備できないが、回り込ませることで、存在を強めた。さらに小顔に仕上げている。
ボンネットの傾斜具合も、単に直線的に下げるのではなく微妙な曲面で下げられていることに気がつくだろう。こうした小技の数々が、初代ジムニーを単なる作業車だけでない、アクティブな魅力を与えることに成功した。
その初代や2代目の造形を復活させた形になるのが、現在の4代目ジムニーということになるのだろう。
四角いだけではない現行4代目ジムニーのデザイン
4代目のデザイン上の特徴は、扱いやすさと定番としての形の確立したものと思われる。特にこのモデルで再認識されているのが、四角い形だ。その意味するところは、車の四隅がしっかりとわかること。ボディをギリギリまで寄せられる性能を高めている。先代の3代目が過度の取れた、よりスポーティな路線に進んだこともあり、再度原点に戻した部分だ。そしてしっかりと雨どいをぐるりと回して設置している点も、実直さを感じる。
併せて、フロントウインドウを立てたり、キャビンも小さくすることなくできるだけ広く取る造形となっている。そのために他のピラーもあまり内側に倒れ込ませていない。
ただし、直線的な造形で重要なのは、そのまま直線&垂直で造ってしまうと、直線に見えないということがある。例えば四角くなった最初の2代目キューブは検討中に垂直にピラーを立てたところ、上に広がって見える造形になったため、やや内側に傾斜させたという。目の錯覚というか、人の目は常識的な見え方と異なるものがある時に、過敏に捉えてしまう傾向があるようだ。
その点では、現行ジムニーはしっかりとまとまりのあるギリギリの線まで頑張って作り上げられた造形と言えそうだ。しかしそれでも、フロントからの見え方ではグリルやボンネットの左右がやや反り上がって感じる。
ボンネットは、ただ直線ではなく緩やかに中央が盛り上がった造形。それなのに、まっすぐなグリルと併せてみると、左右が上がって感じやすい。しかしこれも、「まっすぐに、そしてシンプルにしたい」という思いの詰まった造形のなせる業なのだと思う。
ちなみに2代目ジムニーも直線基調で、同じようなシェル型のボンネットフードを持っているが、特に後期型では左右に持ち上がっているように見えない。それは、フードを中央で一段高めた造形を明確にしている点で、フード先端中央に幅広く吸気口をつけることなども行なっている。
これらによって、中央にボリュームを持たせ、左右が上がって見えずに直線的な印象が残りやすいようだ。ただし、シンプルかといえば、ややファットな印象もある。こうした造形によって、初代も2代目も、直線基調という中で、有機的な存在感を主張する。
対する3代目は、クロカン四駆から逸脱して、まったく異なる価値観のスポーツギアを目指した。パジェロ・ミニを振り払うかのように。
デザインしないのではなく、デザインしすぎない形
そして、4代目は再び直線基調に戻ってきた。しかしそれは、"モノ”としての価値、機能に特化したもので、有機的なエッセンスはあまり感じられない。
フロントウインドウの下には前方に一段低い切り欠きがあるが、オフロードなどでもタイヤと路面や岩などとの位置関係を見やすくするため。バンパー左右の切上げ造形は、もちろん走破性を邪魔しない配慮。ホイールアーチに至っては、タイヤ交換などの整備性を考えたラインだという。
再びサイドビューを眺めれば、ウインドウの下に強烈なショルダー部分が水平に伸び、ウインドウの雨どいも平行に水平ラインとなるの印象的。これがまた強烈な存在感となるが、ともすると前後に持ち上がって見えなくもない。
しかし、そんなことまったく意に解さない、といった感じにも受け取れる。
ここで、はたと気がつく。デザインしていないことは絶対ない。しかし、デザインしすぎることを、あえてしなかったのだ。
ものの見え方は、その時代のトレンドによって左右される。例えば、現代の目では、初代や2代目のトヨタ・ソアラは、あまりに薄っぺらに見えてしまうこともある。また、現代の目ではフロントフェンダーの厚い車に対して、寛容だったりもする。
直線のラインが反って見えるのも、あまたある車の常識とは異なるからでもある。しかしそこに本質はあるのか?
その価値は、10年20年とこのジムニーの本質を見続けていく私たちに、見抜けることなのかも知れない。
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