ホンダeをじっくり見るとわかるその形:火曜カーデザイン特集 電脳時代の「モノ」に宿すべき愛着。それをホンダeが持った!
- 2020/08/18
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CAR STYLING編集部 松永 大演
ごく普通に見えるかもしれないホンダeだが、実はその形には大きな意図が隠されているように思う。ここではそのホンダeをじっくり見て、その意図を読み取ってみよう。
子猫や子犬の愛おしさ!?
まったくもって、メッセージがわかりにくい形なのが、ホンダeの形だと思う。自動車というものをはじめ、人の手で作られたものは、じっくりみていると、作者の意図というものを感じ取ることができる。デザインの面白さというのは、そんな形を理解したり、徐々に気づくことができたりした時に作り手と繋がれたような心地よさを感じるところになると思う。
しかし、このクルマはそれがなかなか感じ取れない。こんなことから、ホンダeの観察がはじまった。
本来そういうものは不気味に感じるものなのだが、しかし、とぼけたようなその表情からは不気味さなど一切感じられないのも、また不思議だった。
これは、どういうことなのだろうか? と、さらにじっくりと見ていたら、はたと気がついたのが、子猫や子犬の可愛らしさだ。ホンダeの存在感は、それに近いのではないだろうか。
子猫や子犬は、作り手から意図された形として生まれたわけではなく、生きものとしての成長の過程だ。一説によると、弱い存在であるからこそ、周囲から愛おしく思われ、守ってもらえるような存在として生まれてくるのでは、ともいわれる。また、成長の過程として体は小さいが、大人になってからもそれほど大きさの変わらない瞳などが全体のなかで大きく見えることが、生き物としての可愛さに感じる、との話もある。
そうして見ると、全体の狙いがふんわりとながら見えてくる。
ここ最近のEVは、そのパワーや速さを誇示する。それはまるで、かつてのターボエンジン全盛のパワー競争のようだ。エコといいながら、100km/hまでの加速や、内燃機関に比べて圧倒的に分厚くフラットなトルクカーブの「異次元の加速感」、100km/hを超えても全く衰えない加速感の凄さを見せつける。
そんななかでホンダeは、このパッケージでEVの持てるべき最大のポテンシャルを追求せず、ここまでという線を引いた。
おそらく、これまでの…ではなく、これからのクルマってなんだっけ? という研究を徹底して行なったのではないかと思われる。単に内燃機関に代わるものではなく、エネルギーの問題や、今ある交通機関との役割など。そのなかでクルマの生きていける道を模索したように思う。「自由」を振りかざしすべての交通機関にとって変わる勢いで作るのではなく、あるべき場所とその使命を深く考えた。という思いが伝わってくる。
そこには、このままでは「クルマ」は終わってしまう、という危機感の方が大きかったのかもしれない。
そこで、これまでとはまったく違う、人に役立つものを生み出そうと考えたのがホンダのEVという形になったように見える。
プロポーションから見える「脱クルマ」の意識
そんな風に考えると、とても面白いのがこの形だ。
動物的な存在であっても、動物の形をテーマとしていない。あくまでも機械なのだという主張が、真円の利用にあると思う。自然界にはない、人造的なものとして真円、そして半円を直線でつなげた長丸などを用いているようだ。
しかし顔のポイントとなるヘッドライトには、ちょっとした工夫が。ここだけは若干の生き物感を与えたようで、単なるLEDとは違う瞳の虹彩のような均等ではない光のリングを取り入れている。また、点灯の仕方もLEDの特徴である瞬時に最光度まで光るのではなく、フィラメントのようにややディレイの効果を入れているようだ。ここにちょっとした人肌感を取り込んでいる。
そしてこれも面白いのが、既成概念を捨てた全体のプロポーションだ。「どこが?」と思うかもしれないが、サイドビューを見るとやや不恰好に見える。
そこで一番感じるのは、リヤ周りがやや重く見える感じがあると思う。
これまでならば、もっとバランスよくスポーティに見せるために、リヤピラーを前傾させるはず。荷室空間が不足するというならば、リヤウインドウ周りにブラックのガーニッシュをつけてリヤウインドウをもっと立てればいい。これはいまの車の一般的な手法なのだが、それをしていない。
フロントのピラーも、その延長上にフロントタイヤ車軸の中心がくるようにすると一般的にバランスがいいとされる。そこに近い位置関係にありながら、それをやっていないで、ちょっとだけ車軸の前に行なっている。この辺りが、プロポーションのアンバランスさを感じさせる要素だと思う。
しかし、そんなことどうでもいい、という形をしている。リヤ駆動でフロア下にバッテリーを配置するEVパッケージで生まれるできるだけ大きな空間を居住スペースとし、機能部分を最小限にする。それだけのことを朴訥に行ない、エクステリアはそれを最小限におおう。
またちょっとしたアクセントになるのが、ブラックアウトの利用だ。ボンネットの充電スロット部分や、ルーフ、そしてバッテリーの収まるフロアレベル以下の部分。いわゆる機能部分は黒子に徹するという意図かもしれない。
できる限り、これまでのクルマのデザインの定石と言われるものを取り払って、人を移動させるものをリデザインしたように見える。
それほどすごいか? と思われるかもしれないが、さらに重要なのは、それが過剰でも不足でもないこと。
またインテリアについても話題満載。こちらは改めてレポートしようと思う。
使って不便さを抱くようなノイズがなく、それでも決して空気のような存在ではなく、相棒であること。これらをバランスよく満たしたのが、ホンダeのデザインなのかなと思う。
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