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【難波 治のカーデザイナー的視点:連載コラム 8回目】Hello, Nice to meet you. I am happy to meet you!!

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1957 / Alfa Romeo Giulietta Sprint Speciale Prototipo:BertoneデザインのCoupe。家族で出番を待つ。この子どももその一員。家族全員ファッションも時代に合わせ演出もバッチリだ。

変化の著しい現代社会。求められる環境性能を受けて、自動車の形が激変する可能性をはらんでいる。さらに自動運転へのアプローチ。自動車というプロダクトのあり方そのものを問う必要も現れてきた。そんな目まぐるしい状況で、心を落ち着けるひととき。クラシックミュージック、そして美しいクラシックカーたち。

TEXT●難波 治(NAMBA Osamu)

 けたたましい。とにかく最近世の中がとてもけたたましいと感じる。ひょっとすると私の住んでいるこの国がけたたましいのか、または私の周囲だけがけたたましいだけなのかもしれないが、近頃いつも喧騒のなかにいるように感じ、そのなかで人々が刺々しく殺伐とした気持ちで毎日を過ごしているように感じてならない。

 資本主義社会のなかでは経済活動が止まることはなく、誰も彼もがいかに利益を生むかということに心血を注ぎしのぎを削る。どのような業界に属そうがそうでなければ生き残ることは不可能なので毎日必死に動き回ることは仕方のない現実ではあるのだが。それにしてもあまりにも余裕がないのではないでしょうか。

 IoTだ、人工知能だ、ロボットだ、と世の中の進化は最近特に変化が著しい。いや、本当はもうかなり前からシリコンバレーでは今の世の中を標榜して次々と次世代へ向けての研究開発が行われてきていて、ようやくそれらが歩調を合わせるように統合されて目に見えてきたものだから、「最近は」という形容になる。しかもその歩みは一瞬たりとも止どまることを知らず、今日の今でもどこかで誰かが新たな未来を模索している。

 クルマの開発も常に先を見ることがその仕事になっている。NEXTをどう読み、それをいかにクリエイトするかの競争だ。新車を開発するときには最低で4年先のことを予測しているし(というか新車を開発するにはだいたいそのくらいの時間がかかってしまうのだ)、さらにそのクルマが4年後に販売されてから“現役モデル”としてマーケットで販売される4年間まで考え、トータルで8年くらいのスパンで時代の先を見ている。

 しかし“先の時代を見ている”といっても未来を正しく読める超能力者などいないので、あらゆる可能性を組み立てて先を予想することになる。人口構成から時代を層に分け(世代)、世代ごとの特徴を見出し、価値観の変化の予測から先の世の中の動向を探りながら商品は企画される。過去の時代からの変遷を顧みて、その動きの特徴から先を読んだりもする。また、唯一自分たちだけが世界で車を作って売っているわけではないので、周囲のさまざまな自動車メーカーの動きも注意深く見ている。スタイリングの特徴などはマーケットを常にリードする欧州ブランド車の造形が大きく影響をする。自動車も“商品”である以上はマーケットにおいて、自分たちとライバルのどちらのクルマが売れるかという競争のなかにいるわけで、世の中の変化の読み違いや、時代の動きの読み違いなどがあると、商品の販売には大きな影響が出てしまう。

 技術動向も同様である。特に今は化石燃料を燃やして走ってきた時代から電気で走る車への変化の真っ只中にいるし、ドライバーへの負荷を低減し安全を確保するための運転の自動化も急速にレベルを上げつつあるのでこれらの動向からは目が離せない。これらは安全や環境へ繋がることになるので市場のお客様は敏感だ。お客様の問題意識の持ち方や、要求、購買することの価値観に直結する。

1952 / O.S.C.A MT4 : Vignaleデザイン。1342ccの小さなクーペ。前輪の後ろのボディが大きくえぐり取られている独特のデザインが魅力。奥に見える深い臙脂色のクルマは1951年のAlfa Romeo 6C 2500 Super Sport.座っている老夫婦のファッションも見事に決まっている。

 そもそもこの動力源の変化の要求は環境問題からきていて、各国が定める環境基準やそれをベースにしたクルマへの規制法とも密接なため、数年先から将来までの時代を予測して対策を練り、新しい技術を準備することが欠かせない。規制値はクリアできなければクルマが販売できなくなることになるので、自動車メーカーにとってはとても重要な課題なのだ。

 そしてパワートレインの変化はパッケージレイアウトの変化に繋がり、電動化が引き起こすパッケージレイアウトの劇的な変化は、これまでの車の概念が変わるほどに車のシルエットを変えてしまうかもしれない。また、より経済的に効率よく長い距離を走らせようとすると、エアロダイナミクスは欠かせない重要性能となり、シルエットのみならずディテールの変化もともなうようになる。しかも、将来的には運転をしなくても良い時がくるかもしれないというのだからクルマはまったく大きく変わってしまうかもしれないのだ。

 これまでとは違う構造や手法を採れば外観を構成している部品の見せ方や形や大きさが変わりそれらが総合されては新しく変化する。技術の変化は形の変化に繋がり、その変化が劇的であれば産業の構造そのものまでが変わってしまう。今、我々はそういう変化の際に立っている。

 忙しく、いつも追い立てられているように感じる毎日のなかで、私は時々くるまのラジオをNHK・FM局に合わせる。なぜかといえば、それはクラシックを聞きたいからだ。他の在京FM局ではほぼお目にかかれない(お耳にかかれない)のだが、NHK・FMに合わせればかなりの確率でクラシックに巡り合うことができる。実はこれがなかなか具合がいい。毎日の殺伐とした喧騒の世界から隔離してもらえる。だれかお目当ての作曲家がいるとか、大好きな曲があるとか、好みの指揮者と交響楽団のコラボを愉しみたいとかいうようなクラシックファンではない。単純に、生理的に、「今、アナログなクラシックミュージックを聞きたい!」という時があるのだ。アコースティック楽器から出てくる深みのある音色は人の心を穏やかにする作用がある。これらが奏でる音楽は気分のスイッチを変えてくれる。

 今から200年ほど前の時代の時の流れやその時代の音楽を育んだ時代感が見え、作曲家達の個性的な和音や旋律を楽しめるものクラシックの良いところだと思うし、作曲家達は喜びや怒り、愛や望郷などを音に込めて物語を音楽で表現している。目をつぶって聞いていればさまざまに情景が浮かぶ。決して現代の音楽を否定するものではないが、奥行きの深さや幅の広さ、スケールの大きさが、私がクラッシックを好きな理由だ。実に味わいがある。時にはこういう時間を挟むことが大事なんだろうと思う。

1935 / Lurani Nibbio : Moto Guzziの250cc単気筒エンジンを積んだシングルシーター。

 イタリアの北部、スイスとの国境近くのアルプスの麓にComo(コモ)という「人」の文字の形をした湖がある。アルプスへ繋がるヴァルテッリーナ渓谷につながる山々に囲まれた素晴らしい景観の湖で、湖畔には王室や貴族、富豪の建てた別荘が並んでいるのだが(それこそ最近はイタリアで大人気のジョージ・クルーニーの別荘までありましたが)、湖の西岸のCernobbio(チェルノッビオ)にVilla d’Este(ヴィッラデステ)という古い貴族の邸宅を利用した豪華なホテルがある。このVillaは立地の高低を巧みに利用した見事に手入れをされた庭で囲まれているのだが、このVillaの邸宅と庭を使って毎年クラシックカーのコンクールが開催されている。

 先月末4年ぶりにこの[ConcorsoD’eleganza Villa D’Este/コンコルソデレガンツァヴィッラデステ]を見ることができた。

 これまで、このコラムを読んでいただいている読者の皆さんには何度も書いたが、残念ながら私は古い年代のクルマには明るくない。しかしクラシックカーに出会うととてもうれしくなる。小さな子どもと同じで単純にうれしく楽しい。私の感じ方に影響を与えてしまうような事前の知識や情報がないからとても純粋に喜んでしまうし、好き・嫌いの判断も希少価値や価格に左右されない。これは自動車会社に長く勤めていたデザイナーとしては単なる不勉強でしかないのではと時々嫌になるが、でもどういうタイミングから好きになってもいいよね、と勝手な理屈を捏ねている。

 Concorso D’eleganza Villa D’Esteは現地で入手した資料を見ると1929年から開催されている。クラシックカーの定義は難しいので、どの年代までのクルマがクラシックカーと認められるのかはわからないが、しかしこのショーは出たいからといって出られるようなショーではない。出られるべき理由や由緒が厳しく審査され、出場を許可されると聞いている。いずれも劣らず、なぜこんなに素晴らしいコンディションが保てるのかと思うほどの驚愕のクルマたちが集まってきているし、さらにすべての車が完璧にメンテナンスされていて問題なく自走するのだから驚いてしまう。

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